「社会をより良くしたい」という想いと「持続可能なビジネス」を両立させる。それが社会起業家という働き方です。貧困、環境問題、高齢化、教育格差など、私たちの身の回りには解決すべき課題が数多く存在しています。こうした課題にビジネスの手法で取り組む「社会起業家」と呼ばれる人々が、今、注目を集めています。
社会課題に取り組む起業は、単なる慈善活動やボランティアとは異なります。事業として収益を生み出しながら、同時に社会的な価値を創造していく点に特徴があります。利益追求だけでなく、社会的インパクトを重視するこの働き方は、特に若い世代を中心に共感を呼んでいます。
こうした企業と社会をつなぐ価値創造の考え方は、近年「ソーシャルグッド」という言葉でも語られるようになっており、社会起業家の活動はその代表的な実践例といえます。
本記事では、社会課題解決を目指す起業について、その定義や具体的な取り組み事例、成功に必要な要素、そして利用できる支援制度まで、包括的に解説していきます。社会起業という選択肢に関心を持つ方、実際に起業を考えている方にとって、有益な情報をお届けします。
この記事でわかること
- 社会起業家の定義と一般的な起業家との違い
- 貧困・環境・高齢化・教育格差など、実際の取り組み事例
- 株式会社・NPO法人・一般社団法人という法人形態の選び方
- 収入の考え方と、事業を続けるための資金調達の方法
- 活用できる公的制度・民間の支援プログラム一覧
- 実際に社会起業家として活動している企業・団体の事例
社会起業家とは何か?社会的価値とビジネスを両立する新しい起業の形

社会起業家とは、社会課題の解決を目的にビジネスの手法で事業を営む人を指し、利益は目的ではなく手段と位置づけられます。
社会起業家について理解するためには、従来のビジネスとの違いや、その目的、求められる資質について知る必要があります。この章では、社会課題解決を目指す起業の基本的な考え方と、社会起業家という働き方の本質について詳しく見ていきます。
社会起業家の定義と従来の起業家との違い
社会起業家とは、社会問題の解決をビジネスの手法で目指す人物を指します。貧困、気候変動、教育格差、高齢化、障害者支援といった社会課題に対して、持続可能な解決策をビジネスモデルとして提供する点が特徴です。
従来の起業家が主に経済的利益の最大化を目指すのに対し、社会起業家は社会的価値の創造に重きを置きます。ただし、慈善活動やボランティアとは明確に異なり、事業として収益を生み出すことで持続可能性を確保します。利益は事業拡大や社会的インパクトの拡大に再投資されることが一般的です。
社会性と事業性という二つの側面をバランスよく両立させることが、社会起業家に求められる重要な要素となっています。一方に偏りすぎると、事業の持続性や社会的インパクトが失われてしまう可能性があるためです。
社会起業家が取り組む主な社会課題の領域
社会起業家が取り組む課題は多岐にわたります。代表的な領域としては、まず貧困問題が挙げられます。経済的困難を抱える人々に対して、就労支援や収入創出の仕組みを提供する事業が展開されています。
貧困問題の背景にある社会構造については、アンダークラスという新しい階級の実態を知ることで、より深い理解につながります。
環境問題も重要なテーマです。気候変動対策、資源循環、生物多様性保全など、持続可能な社会づくりに貢献する事業が増えています。排水処理を通じた資源回収や、環境負荷の低い製品開発などが具体例として挙げられます。
環境分野での資源循環という視点では、海洋プラスチック問題を可視化・分類する「うみごme」の取り組みも、社会課題をビジネスの発想で解決する好例です。
障害者の自立支援も注目される領域です。障害を持つ方々の就労機会創出や、能力を活かせる環境づくりを事業化する取り組みが広がっています。また、教育格差の解消、高齢者の孤立防止、子育て支援、医療アクセスの改善なども、社会起業家が活躍する分野となっています。
社会起業家に求められる資質とスキル
社会起業家として成功するためには、社会課題解決への強い想いと情熱が不可欠です。困難に直面しても諦めずに取り組み続けるためには、解決したい課題への深い共感や使命感が原動力となります。
同時に、ビジネスとして成立させるための経営スキルも必要です。事業計画の立案、資金調達、マーケティング、財務管理といった実務能力がなければ、どれだけ想いが強くても事業を継続することはできません。社会性と事業性の両立が求められる点が、社会起業家の難しさであり、やりがいでもあります。
さらに、課題を抱える当事者や地域社会との信頼関係を築くコミュニケーション能力、多様なステークホルダーを巻き込む協働力、変化する環境に柔軟に対応する適応力なども重要な資質となります。一人で全てを完結させるのではなく、共感する仲間や支援者を増やしていく力が成功の鍵を握ります。
実際の社会課題解決事例に見る、起業家たちの具体的な取り組み

社会起業家は、高齢化・障害者支援・子育て・環境など幅広い分野で、具体的な事業を通じて課題解決に取り組んでいます。
理論だけでなく、実際にどのような事業が展開されているのかを知ることは、社会起業を考える上で非常に重要です。この章では、様々な社会課題に取り組む起業家たちの具体的な事例を紹介します。それぞれの事例から、課題の捉え方やビジネスモデルの工夫を学ぶことができます。
国内外のソーシャルビジネスの事例をさらに幅広く比較したい方は、ソーシャルビジネス事例比較の記事もあわせて参考にしてください。
高齢化社会の課題に取り組む事例
日本では急速な高齢化が進み、高齢者の移動支援や孤立防止が大きな社会課題となっています。こうした課題に対して、介護タクシー配車アプリという形で解決を図る事例があります。車椅子利用者や障害を持つ方が簡単に介護タクシーを予約できるシステムを構築し、全国の事業者と連携することで、誰でも自由に外出できる社会を目指しています。
また、高齢者の社会的孤立に着目した取り組みも注目されています。タブレット端末を活用して高齢者に簡単な挑戦や交流の機会を提供し、声での操作を中心とした設計により、デジタル機器に不慣れな方でも使いやすいサービスが開発されています。孤独には深刻な健康リスクがあることが指摘されており、社会とのつながりを回復させることが重要な課題となっています。
生活に困難を抱える人々への包括的な支援という観点では、ほごらんどが提供する生活困窮者支援プラットフォームも社会起業の実践例として参考になります。
家事代行サービスを通じた高齢者支援の事例もあります。単なる家事の手伝いだけでなく、見守りや話し相手、デジタルサポートなど多様なサービスを提供し、地域コミュニティを起点に事業を展開する取り組みが進んでいます。
離れて暮らす高齢の家族の見守りという観点では、高齢者見守りサービスの比較記事で、民間サービスの種類や選び方を詳しく紹介しています。
障害者の就労と自立を支援する事例
障害者の就労支援も重要なテーマです。内閣府の令和6年版障害者白書によると、身体障害者・知的障害者・精神障害者を合わせた人数はおよそ1160万人(複数の障害を併せ持つ人もいるため単純合計ではなく、国民のおよそ9.2パーセントにあたる、2026年8月時点)にのぼりますが、実際に就労しているのはそのうちわずかという現状があります。この課題に対して、障害者とプロフェッショナルがチームを組み、SNS運用を行う事業モデルが展開されています。
業務のマニュアル化やAI技術の活用、環境整備により、短期間での業務習得と高い定着率を実現しています。企業に対しては、法定雇用率の達成だけでなく、採用力強化にも貢献するサービスとして提供されており、障害者雇用が企業の戦力となることを実証しています。
また、精神・発達障害者を職人として育成し、高品質な製品づくりに取り組む事例も存在します。障害の有無に関わらず、個々の能力を最大限に発揮できる環境を整えることで、社会的自立と経済的自立の両立を目指しています。
子育て・教育分野における課題解決事例
子育て支援の領域では、支援サービスを体験型ギフトとして贈る仕組みが開発されています。多くの子育て支援サービスが存在するにもかかわらず利用率が低い現状を変えるため、友人や家族から子育て中の親にサービスを贈ることで、利用のきっかけをつくる設計となっています。
教育格差に取り組む事例としては、地域企業と連携して子どもたちに無償でキャリア教育やワークショップを提供する取り組みがあります。経済的理由で多様な体験機会を得られない子どもたちに対して、地元企業の協力を得ながら居場所づくりと学びの機会を届けています。
発達障害グレーゾーンの児童生徒の学習支援も注目されるテーマです。通常学級に在籍する小中学生のうち一定割合が発達障害の可能性があるとされる中で、個々の特性に合った学び方を把握し、適切な支援を提供するアセスメントツールの開発が進められています。
環境問題と資源循環に取り組む事例
環境分野では、排水処理を資源循環のビジネスモデルに転換する取り組みが展開されています。不衛生な水が原因で多くの子どもが命を落としている現状に対して、排水処理を「コスト」ではなく「利益を生み出す投資」として捉え直す発想です。
排水に含まれるリンなどの栄養分を肥料として資源化するシステムを小型化し、専門家がいなくても使用できるよう工夫することで、途上国の食品工場などでの導入を進めています。排水処理費の大幅削減と価値創出を同時に実現し、水と衛生の問題解決を目指しています。
また、アトピー性皮膚炎に悩む子どもたちのために、緑茶染めのインナーシャツを開発する事例もあります。かゆみ悪化の原因となる黄色ブドウ球菌を減少させる効果が確認されており、薬を塗るのが面倒で続かない子どもでも、着るだけで手軽にケアができる製品として期待されています。
社会課題解決型起業を成功させるために必要な要素

社会起業を成功させるには、明確なビジョン、持続可能な収益モデル、資金調達とネットワークづくりの3つが欠かせません。
社会課題に取り組む起業は、通常のビジネス以上に多くの困難に直面します。この章では、そうした困難を乗り越え、持続可能な事業として成長させるために必要な要素について解説します。事業計画の立て方から資金調達、ネットワーク構築まで、具体的なポイントを押さえていきます。
明確なビジョンとミッションの設定
社会起業において最も重要なのは、解決したい課題と目指す社会像を明確にすることです。なぜその課題に取り組むのか、どのような社会を実現したいのか、というビジョンとミッションが事業の核となります。
このビジョンとミッションは、困難な状況でも諦めずに取り組み続けるための原動力となるだけでなく、共感する仲間や支援者を集めるための重要な要素でもあります。抽象的な理想論ではなく、具体的で測定可能な目標として設定することが大切です。
また、当事者や現場の声に基づいた課題設定が不可欠です。自分の思い込みではなく、実際に困っている人々のニーズを深く理解し、本当に必要とされる解決策を提供することが、社会的インパクトの創出につながります。
持続可能なビジネスモデルの構築
社会的価値を創造しながら、同時に経済的にも持続可能な仕組みをつくることが求められます。収益源の確保、コスト構造の最適化、スケーラビリティ(拡大可能性)の確保など、ビジネスとして成立する設計が必要です。
特に重要なのは、社会課題解決と収益創出を両立させる工夫です。例えば、障害者雇用を企業の採用力強化につなげる、排水処理を資源回収ビジネスに転換する、といった発想の転換により、Win-Winの関係を構築できます。
また、単一の収益源に依存せず、複数の収益モデルを組み合わせることでリスクを分散することも重要です。サービス提供による直接収益、企業との協業、行政からの委託事業、寄付や助成金など、多様な収入源を確保することが事業の安定につながります。
資金調達と支援制度の活用
社会課題解決型の起業では、初期段階での資金調達が大きな課題となります。通常のビジネスと比べて収益化に時間がかかるケースも多いため、様々な資金調達手段を検討する必要があります。
地方創生の起業支援事業として、地域課題に資する事業立ち上げに対して最大200万円の事業費助成と伴走支援を行う制度が各地で展開されています。また、東京都の社会課題解決型スタートアップ支援事業など、自治体による支援プログラムも充実してきています。
民間の投資家やベンチャーキャピタルの中にも、社会的インパクトを重視する「インパクト投資」を行う主体が増えています。財務的リターンだけでなく、社会的・環境的インパクトも評価する投資手法であり、社会起業家にとって重要な資金源となっています。クラウドファンディングも、共感を集めやすい社会課題解決型の事業では有効な手段です。
メンタリングとネットワークの重要性
社会起業家支援プログラムへの参加は、事業を成長させる上で非常に有効です。例えば、株式会社talikiと京都リサーチパーク株式会社が共催する「COM-PJ(コンプロジェクト)」のような、3ヶ月間にわたる集中支援プログラムでは、メンターやアドバイザーからの助言を受けながら事業をブラッシュアップできます。2026年時点で第7期の参加者を募集しており、対象は全国の30歳以下、または創業2年以内の人です(京都リサーチパーク公式サイトより、2026年8月時点)。
経験豊富な起業家や専門家からのメンタリングは、事業の方向性を定める上で貴重な示唆を与えてくれます。また、同じように社会課題に取り組む仲間とのネットワークは、情報交換や相互支援の場となり、孤独になりがちな起業の道のりを支えてくれます。
投資家、企業、行政、NPOなど多様なステークホルダーとのつながりをつくることも重要です。こうしたネットワークから、事業提携や資金調達、人材確保といった具体的な支援を得られる可能性が広がります。
参照:京都リサーチパーク|起業家支援プログラム「COM-PJ」
社会起業家に向いている法人形態はどれか
社会起業家という言葉自体は法律上の資格や法人格を指すものではなく、株式会社・NPO法人・一般社団法人のいずれでも社会起業家として活動できます。どれを選ぶかは、資金調達の方法や利益分配の必要性によって変わります。
株式会社という選択
株式会社は、株式の発行によって出資を募ることができ、利益を出資者や社員に分配しやすい点が特徴です。設立の手続きも比較的短期間で完了するため、投資家からの資金調達を軸に事業を急拡大させたい社会起業家に向いています。ユーグレナやマザーハウスのように、上場や海外展開を視野に入れる場合はこの形態が選ばれる傾向にあります。
NPO法人という選択
NPO法人は株主への利益配当ができない非営利組織ですが、職員への給与支払いは可能です。社会的課題の解決に特化した組織として認知されやすく、行政や他のNPOとの連携もしやすいというメリットがあります。寄付や助成金を主な原資に、継続的な支援活動を行いたい場合に適した形態です。
一般社団法人という選択
一般社団法人は、営利を目的としない一方で収益事業も行える法人格で、NPO法人ほど設立・運営の制約が厳しくなく、株式会社ほど営利追求に特化していません。株式会社と非営利組織の中間的な性質を持つため、マイクロファイナンスのように事業性と社会性を両立させたい場合の受け皿として選ばれることがあります。
| 法人形態 | 利益分配 | 主な資金源 | 向いている事業の性質 |
|---|---|---|---|
| 株式会社 | 出資者・社員に分配可能 | 株式発行・投資家からの出資 | 急成長・上場を目指す事業 |
| NPO法人 | 配当不可(給与は可) | 寄付・助成金・会費 | 継続的な社会貢献活動 |
| 一般社団法人 | 配当不可(給与は可) | 会費・事業収益・融資 | 事業性と社会性の両立 |
社会起業家の収入はどう考えればよいか
社会起業家の収入額を一律に示す公的な統計はなく、事業のステージ・法人形態・資金調達の方法によって大きく変わります。目安となる金額を断定的に示すことはできませんが、収入が決まる仕組みを理解しておくことは重要です。
収入は事業のステージと資金調達の方法で変わる
創業初期は、起業支援金や助成金、クラウドファンディングなど外部資金への依存度が高く、経営者自身の報酬は低く抑えられる傾向にあります。事業が軌道に乗り、自社の商品・サービスによる収益が安定してくると、報酬を引き上げられる余地が生まれます。インパクト投資などリターンを前提とした資金を受け入れている場合は、投資家への説明責任として、報酬水準の妥当性がより厳しく問われる点にも注意が必要です。
法人形態によって「稼ぎ方」の設計が変わる
NPO法人や一般社団法人は株主への利益配当ができないため、代表者の収入は基本的に給与という形になります。一方、株式会社であれば、給与に加えて将来的な株式売却や配当という選択肢も生まれます。どちらが優れているということではなく、解決したい社会課題の性質と、必要とする資金の規模に合わせて法人形態と収入の設計を一致させることが重要です。
社会起業家を支える公的制度と民間支援

社会起業家は、国や自治体の助成金制度と、民間団体によるアクセラレータープログラムを組み合わせて活用できます。
社会課題解決に取り組む起業家を支援するため、国や自治体、民間団体による様々な制度やプログラムが整備されています。この章では、実際に利用できる支援制度について、その内容や申請方法、活用のポイントを詳しく解説します。
国と自治体による起業支援制度
地方創生の一環として、内閣府が推進する起業支援金制度があります。地域課題の解決を目指す起業に対して、事業費の2分の1・最大200万円の助成金が提供されます。単なる資金提供だけでなく、伴走支援として専門家による事業計画のブラッシュアップや経営アドバイスも受けられる点が特徴です。実施するかどうかは都道府県ごとの判断で、令和7年度は東京都・神奈川県・埼玉県・大阪府の4都府県が対象外となっているため、事業を計画する地域の自治体に必ず確認してください。
こうした制度と地方創生の関係を、より広い視点から知りたい方は、地方創生とSDGsの関係を解説した記事もあわせて参考にしてください。
各自治体でも独自の支援制度を設けています。東京都では社会課題解決型スタートアップ支援事業として、社会課題の解決に資する製品・サービスを持つスタートアップと、企業や都の組織とのマッチングによりビジネスモデルの検証や実装を支援する取り組みを行っています。対象はおおむね創業10年以内の中小企業で、都内での事業展開が条件です(東京都公式サイトより、2026年8月時点)。
これらの制度を活用する際は、申請時期や条件を事前に確認することが重要です。多くの制度では事業計画書の提出が求められるため、明確なビジョンとビジネスモデルを準備しておく必要があります。
参照:静岡県|地域創生起業支援金・創業者成長支援等、東京都|課題提案型スタートアップマッチング支援事業
民間団体による支援プログラム
民間の支援団体も社会起業家の育成に力を入れています。社会課題解決に取り組むプレイヤーを支援する株式会社talikiが開催する「BEYOND」のようなソーシャルカンファレンスは、投資家、企業、行政、学生など多様な関係者が集まり、次の未来について共に考える場となっています。「BEYOND2026」は2026年10月30日・31日の2日間、京都リサーチパークで開催される予定です(taliki公式サイトより、2026年8月時点)。
こうしたイベントでは、最終ピッチ大会が開催され、審査員やオーディエンスに対して事業を発表する機会が得られます。優秀な事業には賞金やインキュベーション施設の無償利用権などが授与され、事業成長を加速させる支援が提供されます。
また、アクセラレータープログラムやインキュベーション施設の活用も有効です。事業スペースの提供だけでなく、経営支援、ネットワーキング機会、投資家とのマッチングなど、総合的なサポートを受けることができます。
こうした事業スペースを探す際は、コワーキングスペースも有力な選択肢の一つです。コワーキングスペースの料金相場と選び方を比較しながら、自分の事業規模に合った拠点を検討してみてください。
参照:BEYOND2026 | Social Conference
インパクト投資とソーシャルファイナンス
近年、財務的リターンと社会的インパクトの両方を追求するインパクト投資が拡大しています。社会課題解決に取り組む事業に対して、その社会的・環境的価値を評価した上で投資を行う手法です。
KIBOW社会投資ファンドのような専門ファンドは、社会起業家に対して資金だけでなく、経営支援や人脈提供なども行います。単なる資金提供者ではなく、事業成長のパートナーとして長期的に関わる点が特徴です。2015年9月の設立から10年間で22社に投資し、現在は総額10億円の「3号ファンド」を運用しています(一般財団法人KIBOW公式サイトより、2026年8月時点)。
こうしたインパクト投資と一般的なESG投資との違いを比較したい方は、ESG投資おすすめ比較の記事も参考にしてください。
また、ソーシャルビジネス向けの融資制度や、社会的企業を対象とした投資信託なども登場しています。従来の金融機関では評価されにくかった社会的価値を適切に評価し、資金を供給する仕組みが整いつつあります。
支援制度を活用するためのポイント
各種支援制度を効果的に活用するためには、いくつかのポイントがあります。まず、自分の事業がどの支援制度に適合するかを見極めることが重要です。事業の段階、地域、分野などによって利用できる制度が異なるため、情報収集を丁寧に行う必要があります。
申請書類の準備では、事業の社会的インパクトを明確に示すことが求められます。解決する課題の重要性、提供する解決策の有効性、期待される成果を具体的に記述し、審査員に事業の価値を理解してもらうことが必要です。
また、支援を受けた後の報告義務や条件をしっかり確認しておくことも大切です。助成金の使途制限、進捗報告の頻度、成果の測定方法などを理解した上で申請することで、後のトラブルを避けることができます。
社会起業の未来と、持続可能な社会づくりに向けて

ESG投資やSDGsへの関心の高まりを背景に、社会起業家が活躍できる事業機会は今後さらに拡大していくと見込まれます。
社会課題解決を目指す起業は、今後ますます重要性を増していくと考えられます。最終章では、社会起業を取り巻く環境の変化や今後の展望、そして社会起業という選択肢を考えている方へのメッセージをお届けします。
社会起業を取り巻く環境の変化
近年、ESG投資やSDGsへの関心の高まりを背景に、企業の社会的責任が重視されるようになっています。大企業もソーシャルビジネスとの協業に積極的になっており、社会起業家にとって事業機会が拡大しています。
また、若い世代を中心に、働くことの意義や社会への貢献を重視する価値観が広がっています。経済的成功だけでなく、社会的インパクトを創出することに喜びを見出す人が増えており、社会起業家を目指す人材も増加傾向にあります。
テクノロジーの進化も社会起業を後押ししています。AIやIoT、ブロックチェーンといった技術を活用することで、これまで解決が困難だった社会課題にも新たなアプローチが可能になっています。小規模でも効率的に事業を展開できる環境が整いつつあります。
社会起業がもたらす社会的インパクト
社会起業家の活動は、直接的な課題解決だけでなく、社会全体に様々なインパクトをもたらしています。新しい解決策を示すことで、行政や大企業の政策や事業に影響を与え、より大きなスケールでの変化を生み出すことがあります。
また、社会課題への関心を高め、多くの人々を巻き込むきっかけをつくる役割も果たしています。事業を通じて課題の存在を可視化し、共感の輪を広げることで、社会全体の意識変革につながっています。
さらに、持続可能な社会づくりのモデルを提示することで、次世代に希望を与える存在となっています。課題だらけに見える社会でも、工夫次第で解決策を生み出せることを示すことは、未来を担う若者たちへの大きなメッセージとなります。
これから社会起業を考える方へ
社会起業に興味を持ったら、まず自分が情熱を持って取り組める社会課題を見つけることから始めましょう。身近な問題でも、世界規模の課題でも構いません。自分の経験や価値観に根ざしたテーマを選ぶことが、長く取り組み続けるための原動力となります。
次に、その課題について深く学び、当事者の声に耳を傾けることが重要です。自分の思い込みではなく、実際のニーズに基づいた解決策を考えることで、社会的インパクトの大きい事業を生み出せます。
そして、一人で抱え込まず、仲間や支援者を見つけることを心がけましょう。社会起業家支援プログラムへの参加、先輩起業家への相談、同じ志を持つ仲間との出会いなど、つながりをつくることが成功への近道となります。
社会課題解決を目指す起業は、決して平坦な道ではありません。しかし、自分の事業を通じて社会をより良くできるという実感は、何物にも代えがたいやりがいをもたらします。あなたの優しさと情熱が、社会を変える力になることを信じて、一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
社会起業家を支援するサービス・プログラム一覧
社会起業家がゼロから事業を立ち上げる際、伴走支援やメンタリング、資金提供を行う組織が国内にいくつも存在します。
以下は、社会起業家の育成・支援を行う代表的な組織を、名称の五十音順で紹介します。おすすめ順や評価順ではなく、あくまで探す際の候補として並べています。
NPO法人ETIC.
NPO法人ETIC.は、社会起業家やソーシャルイノベーターの挑戦を支援する中間支援組織です。「ソーシャルスタートアップ・アクセラレータープログラムSUSANOO」をはじめ、実践型インターンシップの紹介など、起業前から起業後まで幅広い段階に対応したプログラムを提供しています。
1993年の設立以来、社会起業支援に取り組んできた実績の長さが特徴で、人と資金と情報をつなぐマッチング機能に強みを持ちます。
参照:NPO法人ETIC.
京都リサーチパーク株式会社
京都リサーチパーク株式会社は、研究開発型企業やスタートアップの集積を進めるイノベーション拠点を運営する企業です。株式会社talikiと共同で、社会起業家支援プログラム「COM-PJ」を2020年から継続的に開催しています。
京都という拠点を活かし、地域企業や研究機関とのネットワーキング機会を提供する点が特徴です。
一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)
SIIFは、社会的インパクト投資を通じて社会起業家を支援する財団です。社会的企業への直接投資に加えて、社会的インパクトの測定・マネジメント手法の普及や、休眠預金等活用制度を通じた資金分配など、複数の切り口から社会起業家を支えています。
資金提供だけでなく、インパクト評価の仕組みづくりまで踏み込んで支援する点が特徴です。
株式会社taliki
株式会社talikiは、社会起業家の育成に特化したインパクトスタートアップスタジオです。京都リサーチパークと共催する「COM-PJ」のような起業家伴走プログラムに加え、独自の投資ファンド「talikiファンド」による出資、大企業と社会起業家の協業を仲介する事業も手がけています。
メンタリングから出資、大企業とのマッチングまでを一気通貫で提供する点が特徴で、ソーシャルカンファレンス「BEYOND」の主催団体でもあります。
参照:株式会社taliki
株式会社ボーダレス・ジャパン(ボーダレスアカデミー)
株式会社ボーダレス・ジャパンは、世界各国で50前後のソーシャルビジネスを自ら展開する企業で、そのノウハウを教える「ボーダレスアカデミー」というソーシャルビジネススクールを運営しています。2日間の集中講座から3ヶ月の伴走プログラムまで、段階に応じたコースを用意しています。
2026年5月時点で、卒業生からのべ130人の起業家、1,600人の受講生を輩出している実績が特徴です(ボーダレスアカデミー公式サイトより)。
参照:ボーダレスアカデミー|社会起業のためのソーシャルビジネススクール
| 組織名 | 主な支援内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| NPO法人ETIC. | アクセラレータープログラム、インターン紹介 | 1993年設立、長年の支援実績 |
| 京都リサーチパーク株式会社 | 起業家支援プログラム「COM-PJ」 | 京都拠点のネットワーキング機会 |
| SIIF | 社会的インパクト投資、休眠預金活用 | インパクト評価の仕組みづくりまで支援 |
| 株式会社taliki | 伴走プログラム、ファンド出資、大企業連携 | メンタリングから出資まで一気通貫 |
| 株式会社ボーダレス・ジャパン | ソーシャルビジネススクール「ボーダレスアカデミー」 | 累計130人の起業家を輩出 |
社会起業家として活動する企業・団体の事例
実際に社会起業家として事業を続けている企業・団体には、法人形態も取り組む課題もさまざまなものがあります。
以下は、それぞれの公式サイトで活動内容を確認できる代表的な事例を、名称の五十音順で紹介します。おすすめ順や評価順ではなく、あくまで参照する際の一覧として並べています。
一般社団法人グラミン日本
グラミン日本は、生活に困窮するシングルマザーなどを対象に、無担保融資と就労支援を行う一般社団法人です。ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行の手法をモデルに、2018年の設立以来、起業や就労に必要な資金を無担保で貸し付けています。
マイクロファイナンスと就労支援を組み合わせ、自立への一歩を後押しする仕組みが特徴です。
参照:一般社団法人グラミン日本
認定NPO法人フローレンス
フローレンスは、病児保育をはじめとする子どもと家庭に関わる社会課題に取り組む認定NPO法人です。2004年、発熱した子どもを預けられず困った母親の声をきっかけに、日本初の病児保育サービスを立ち上げました。
病児保育から子どもの貧困、障害児保育、予期せぬ妊娠の相談まで、事業領域を段階的に広げてきた点が特徴で、政策提言にも力を入れています。
株式会社マザーハウス
マザーハウスは、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念に掲げる株式会社です。2006年にバングラデシュでバッグの生産を開始し、現在は6つの生産国で自社工場を運営しながら、バッグ・雑貨・アパレルなどを企画・生産・販売しています。
支援ではなく、現地の素材と人材を活かしたものづくりで事業として成立させている点が特徴です。
参照:株式会社マザーハウス
株式会社ユーグレナ
ユーグレナは、微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)の大量培養技術をもとに事業を展開する株式会社です。創業者がバングラデシュ訪問時に目にした栄養失調問題の解決を志したことが創業のきっかけで、2014年からは現地の子どもたちにユーグレナクッキーを無償配布する「ユーグレナGENKIプログラム」を続けています。
上場企業でありながら、創業の原点である社会貢献事業を継続している点が特徴です。
| 企業・団体名 | 法人形態 | 取り組む社会課題 |
|---|---|---|
| グラミン日本 | 一般社団法人 | シングルマザーの経済的自立 |
| フローレンス | 認定NPO法人 | 病児保育・子どもの貧困 |
| マザーハウス | 株式会社 | 途上国のものづくり・雇用 |
| ユーグレナ | 株式会社 | 栄養問題の解決 |
よくある質問
社会起業家について、関心を持つ方から寄せられる代表的な質問にお答えします。
特別な資格や学歴は必要ありません。社会起業家は法律上の資格ではなく、社会課題の解決をビジネスで目指す人を指す呼び方です。ただし、取り組みたい課題についての専門知識や、当事者の声を理解する姿勢は欠かせません。
社会起業家は社会的価値の創出を目的の中心に置き、利益はその手段や再投資の原資と位置づけます。一般的な起業家が売上や利益、市場シェアといった財務指標を主な成功の物差しとするのに対し、社会起業家は解決した課題の規模や社会的インパクトも重視します。
どちらが優れているということはなく、資金調達の方法で選ぶのが基本です。投資家からの出資を軸に事業を拡大したいなら株式会社、寄付や助成金を主な原資に継続的な活動を行いたいならNPO法人が向いています。事業性と社会性の両立を目指す場合は、一般社団法人という選択肢もあります。
公的な統計は存在せず、事業のステージや法人形態によって大きく異なります。創業初期は助成金などの外部資金への依存度が高く報酬は低めですが、事業が軌道に乗るにつれて引き上げられる余地が生まれます。断定的な金額を示すことはできないため、収入は「事業の成長に応じて変わるもの」と捉えておくとよいでしょう。
内閣府の起業支援金制度(事業費の2分の1・最大200万円、自治体により実施の有無が異なる)や、東京都の社会課題解決型スタートアップ支援事業のような自治体プログラムがあります。民間でも、ETIC.のSUSANOOやtaliki・京都リサーチパークのCOM-PJなど、伴走支援型のプログラムが複数存在します。
はい、法人を設立する前の個人としての活動から始めることも可能です。ETIC.やボーダレスアカデミーのような支援プログラムには、起業前の個人や学生を対象にしたコースも用意されており、アイデア段階から相談できます。
まとめ
社会起業家とは、社会課題の解決をビジネスの手法で目指す人であり、法律上の資格ではなく、株式会社・NPO法人・一般社団法人のいずれの形態でも実践できます。成功には、明確なビジョン、持続可能な収益モデル、そして起業支援金やインパクト投資、ETIC.やtaliki・京都リサーチパークといった支援プログラムをうまく組み合わせる姿勢が欠かせません。収入や成長のスピードは事業のステージによって変わるため、焦らず段階的に基盤を築いていくことが、長く社会に価値を提供し続ける近道になります。
こうした社会起業家の姿勢は、既存企業が経営そのものに環境・社会への配慮を組み込むサステナビリティ経営とも重なる部分が多く、あわせて理解を深めることで、企業と社会起業家の協業の可能性も見えてきます。

