サステナビリティ経営とは、環境・社会・経済という3つの観点を経営そのものに組み込み、企業の持続的な成長と社会課題の解決を同時に追求する経営手法です。気候変動や人権問題への対応が企業の事業継続や競争力に直結する時代となり、多くの企業がこの経営手法への転換を迫られています。
本記事では、サステナビリティ経営の基本的な定義から、なぜ今この経営手法が求められているのか、企業にもたらす具体的なメリットとデメリット、実践に使える国際基準、そして支援企業や取り組み事例まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。これからサステナビリティ経営に取り組もうとしている企業の担当者や、この分野に関心を持つビジネスパーソンの方々にとって、実践的な知識を得られる内容となっています。
サステナビリティ経営は単なる社会貢献活動ではなく、企業の長期的な成長と社会課題の解決を両立させる戦略的な取り組みです。この記事を通じて、持続可能な企業経営の全体像を理解し、自社での実践に向けた第一歩を踏み出していただければ幸いです。
この記事でわかること
- サステナビリティ経営の定義とCSR・SDGs・ESGとの違い
- サステナビリティ経営が求められる背景と最新の開示ルール
- 取り組むことで得られるメリットと注意すべきデメリット
- 実践に使えるフレームワーク・国際基準
- 先進企業の取り組み事例と、実践を支援する企業一覧
- 自社で実践するための具体的なステップ
サステナビリティ経営とは何か

サステナビリティ経営とは、環境・社会・経済の3側面を統合し、企業価値と社会全体の持続可能性を同時に高める経営手法です。
サステナビリティ経営について理解するためには、まずその定義と関連する概念との違いを明確にする必要があります。この章では、サステナビリティ経営の基本的な考え方と、CSRやSDGsといった類似概念との関係性について解説します。現代のビジネス環境において、これらの概念を正しく理解することは、効果的な経営戦略を構築する上で不可欠な要素となっています。
サステナビリティ経営は、短期的な利益追求だけでなく、長期的な視点で企業価値を高めていく経営手法です。環境保護、社会貢献、経済成長という3つの要素をバランス良く統合し、企業の持続的な発展と社会全体の持続可能性の向上を同時に実現することを目指します。
サステナビリティ経営の定義と3つの要素
サステナビリティ経営とは、環境保護、社会への貢献、経済的成長の3つの観点を統合し、企業の持続可能性と社会全体の持続可能性を同時に高めていく経営手法を指します。この経営手法の特徴は、単発的な社会貢献活動にとどまらず、事業戦略やビジネスモデルの中核にサステナビリティの視点を組み込んでいる点にあります。
環境面では、気候変動への対応や資源の有効活用、生物多様性の保全などに取り組みます。具体的には、温室効果ガスの削減目標の設定や再生可能エネルギーの導入、廃棄物の削減と資源循環の推進などが含まれます。これらの取り組みは、環境負荷を低減するだけでなく、エネルギーコストの削減や新たなビジネス機会の創出にもつながります。
社会面では、人権の尊重や労働環境の改善、地域社会との共生、多様性の推進などに注力します。従業員の働きがいを高める職場環境の整備や、サプライチェーン全体での人権配慮、地域コミュニティへの貢献活動などが該当します。これらの取り組みは、企業の社会的信頼を高め、優秀な人材の確保や顧客からの支持獲得につながります。
経済面では、企業の収益性と競争力を維持・向上させながら、持続可能な成長を実現します。環境や社会への配慮がコスト増につながるという従来の考え方ではなく、これらの取り組みを新たな価値創造の源泉として捉え、イノベーションや新規事業の開発に結びつけていきます。
CSRやSDGsとの違いと関係性
サステナビリティ経営と混同されやすい概念として、CSRとSDGsがあります。これらの違いを理解することで、サステナビリティ経営の特徴がより明確になります。
CSRは企業の社会的責任を意味し、企業が良き企業市民として社会に貢献する考え方です。従来のCSR活動は、本業とは別に行う社会貢献活動や慈善活動として位置づけられることが多く、企業の付加的な活動と捉えられてきました。一方、サステナビリティ経営は、環境や社会への配慮を企業の事業活動そのものに組み込み、本業を通じて社会課題の解決を図る点で異なります。
SDGsは国連で採択された持続可能な開発目標で、2030年までに達成すべき17の国際目標を指します。SDGsは社会全体が目指すべき方向性を示す枠組みであり、サステナビリティ経営を実践する際の具体的な指針として活用されます。企業はSDGsの17の目標の中から、自社の事業と関連が深いテーマを選定し、それらの達成に向けた取り組みを経営戦略に統合していきます。
サステナビリティ経営は、CSRの考え方を発展させ、SDGsという具体的な目標を経営の中核に位置づけることで、企業価値の向上と社会課題の解決を両立させる包括的な経営手法と言えます。単なる社会貢献ではなく、事業戦略そのものとして持続可能性を追求する点が、この経営手法の本質的な特徴となっています。
サステナビリティとCSRの違いをさらに深掘りしたい方は、サステナビリティとCSRの違いとはを整理した記事も参考になる。
サステナビリティ経営が求められる背景

サステナビリティ経営が求められる背景には、気候変動などの環境リスクの深刻化と、投資家・消費者の価値観の変化があります。
現代の企業経営において、サステナビリティへの取り組みは選択肢ではなく必須事項となりつつあります。この章では、なぜ今サステナビリティ経営が強く求められているのか、その背景にある社会環境の変化と、企業を取り巻くステークホルダーの期待の変化について詳しく解説します。
気候変動の深刻化や資源の枯渇、格差の拡大といった地球規模の課題が顕在化する中、企業の事業活動が環境や社会に与える影響への関心が高まっています。同時に、投資家や消費者、従業員といったステークホルダーの価値観も大きく変化し、企業に対してより高い倫理性と社会的責任を求めるようになっています。
深刻化する環境・社会課題と企業リスク
地球温暖化に伴う気候変動は、もはや将来の脅威ではなく、現在進行形の経営リスクとなっています。異常気象の頻発による生産拠点の被災、サプライチェーンの寸断、水資源や原材料の調達困難など、企業の事業継続を脅かす事象が世界各地で発生しています。これらの環境変化は、特定の業種だけでなく、あらゆる企業の事業基盤に影響を及ぼす可能性があります。
資源制約の問題も深刻さを増しています。化石燃料や鉱物資源の有限性に加え、水や食料といった基礎的な資源についても、人口増加や気候変動の影響で供給の不安定化が懸念されています。資源価格の高騰や調達リスクは、企業のコスト構造や事業戦略に直接的な影響を与えるため、資源効率の向上や循環型ビジネスモデルへの転換が経営課題として浮上しています。
社会面では、人権問題や格差の拡大が国際的な関心事となっています。サプライチェーンにおける強制労働や児童労働の問題、ジェンダー不平等や差別の問題など、企業の事業活動が関わる人権課題への対応が求められています。これらの問題への対応が不十分な場合、企業はレピュテーションリスクや法的リスクに直面する可能性があります。
各国政府も環境規制や人権に関する法整備を強化しており、企業はコンプライアンスの観点からもサステナビリティへの対応を迫られています。炭素税の導入や排出量取引制度の拡大、人権デューディリジェンスの義務化など、規制対応のコストや事業への影響を考慮した戦略的な取り組みが必要となっています。
ESG投資の拡大とステークホルダーの期待変化
投資の世界では、ESG投資が急速に拡大しています。ESGとは環境、社会、ガバナンスの頭文字を取ったもので、財務情報だけでなく、これらの非財務情報を考慮して投資判断を行う手法です。機関投資家を中心に、長期的な企業価値の向上にはESGへの取り組みが不可欠であるという認識が広がっており、ESG評価の低い企業は資金調達面で不利になる可能性があります。
ESG投資に関心のある個人投資家向けには、ESG投資おすすめ比較で具体的な商品の選び方をまとめているので合わせて読んでみてほしい。
消費者の意識も大きく変化しています。特に若い世代を中心に、環境に配慮した商品やサービスを選択する傾向が強まっており、企業の社会的責任や倫理性が購買行動に影響を与えるようになっています。持続可能性に配慮しない企業に対しては、不買運動やSNSでの批判が起こることもあり、ブランドイメージの維持にはサステナビリティへの取り組みが欠かせなくなっています。
従業員の視点からも、サステナビリティは重要なテーマとなっています。働く企業を選ぶ際に、給与や労働条件だけでなく、企業の社会的意義や環境への配慮を重視する人が増えています。サステナビリティに積極的に取り組む企業は、優秀な人材の採用や定着において有利な立場に立つことができます。逆に、これらの取り組みが不十分な企業は、人材確保の面で困難に直面する可能性があります。
取引先からの要請も強まっています。大企業がサプライチェーン全体での環境負荷削減や人権配慮を進める中、取引先である中小企業にも同様の取り組みを求めるケースが増えています。サステナビリティへの対応が、取引継続の条件となる場合もあり、企業規模に関わらず対応が必要となっています。
地域社会との関係においても、企業は単なる雇用の提供者や納税者としてだけでなく、地域の課題解決に貢献するパートナーとしての役割を期待されています。地域に根ざした事業活動を通じて、社会課題の解決に貢献する企業は、地域からの信頼と支持を得ることができます。
サステナビリティ経営に取り組む意義とメリット

サステナビリティ経営は、企業価値の向上、人材確保、社会的信頼の獲得という3つの主要なメリットをもたらします。
サステナビリティ経営は、単なる社会貢献や環境保護の取り組みにとどまらず、企業にとって多面的なメリットをもたらします。この章では、サステナビリティ経営が企業の経営面、人材・組織面、そして社会・環境面においてどのような価値を生み出すのか、具体的に解説します。
短期的な視点では、コストや負担として捉えられがちなサステナビリティへの取り組みですが、中長期的には企業の競争力強化や新たな成長機会の創出につながります。また、社会からの信頼獲得や従業員のモチベーション向上など、財務指標には表れにくい価値も生み出します。
企業価値向上と事業継続性の確保
サステナビリティ経営は、企業の長期的な価値向上に直結します。環境や社会への配慮を経営の中核に据えることで、将来的な事業リスクを軽減し、安定した事業基盤を構築することができます。気候変動や資源制約といった中長期的なリスクに先手を打って対応することで、事業の継続性を高めることができます。
ESG投資の拡大により、サステナビリティへの取り組みは企業の評価に直結するようになっています。ESG評価が高い企業は、資金調達のコストが低くなる傾向があり、投資家からの支持も得やすくなります。また、株価の安定性や長期的な企業価値の向上にも寄与するという研究結果も報告されています。
ブランド価値の向上も重要なメリットです。環境や社会に配慮した事業活動を行う企業は、消費者や取引先からの信頼を獲得しやすく、ブランドイメージの向上につながります。この信頼は、製品やサービスの差別化要因となり、競争優位性の源泉となります。特に、サステナビリティを重視する若い世代の顧客層を獲得する上で、これらの取り組みは効果的です。
新規事業の創出機会も生まれます。環境や社会課題の解決をビジネスチャンスと捉え、新たな製品やサービスを開発することで、新しい市場を開拓することができます。再生可能エネルギー関連事業や循環型ビジネスモデル、社会課題解決型のサービスなど、サステナビリティを起点とした事業展開が可能になります。
コスト削減効果も見逃せません。省エネルギー化や廃棄物削減、資源の効率的利用などの取り組みは、環境負荷を減らすだけでなく、運営コストの削減にも直結します。エネルギー効率の高い設備への投資は、初期コストはかかりますが、長期的には光熱費の削減につながります。
人材確保と組織力の強化
サステナビリティ経営は、人材の採用と定着において大きなアドバンテージとなります。特に若い世代の求職者は、給与や福利厚生だけでなく、企業の社会的意義や価値観を重視する傾向が強まっています。環境や社会課題の解決に取り組む企業は、こうした価値観を持つ優秀な人材を惹きつけることができます。
従業員のエンゲージメント向上も重要な効果です。自社の事業活動が社会に良い影響を与えていると実感できることは、従業員の仕事への誇りとモチベーションを高めます。企業理念と社会課題の解決が結びついていることで、従業員は自身の仕事に意義を見出しやすくなり、組織への帰属意識も高まります。
多様性の推進も、サステナビリティ経営の重要な要素です。性別、年齢、国籍、障がいの有無など、多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境を整備することで、組織の創造性とイノベーション能力が高まります。多様な視点や経験が交わることで、従来にない発想やアイデアが生まれやすくなります。
働きやすい職場環境の整備も、人材の定着率向上に貢献します。ワークライフバランスの推進や柔軟な働き方の導入、心身の健康に配慮した職場づくりなど、従業員のwell-beingを重視する取り組みは、離職率の低下や生産性の向上につながります。
組織全体の学習能力も向上します。サステナビリティに関する目標設定と進捗管理を通じて、PDCAサイクルを回す組織文化が醸成されます。また、部門横断的な協力が必要となることで、組織内のコミュニケーションが活性化し、部門間の連携が強化されます。
社会的信頼の獲得とレジリエンスの向上
サステナビリティ経営は、社会からの信頼獲得において決定的な役割を果たします。環境保護や社会課題解決に真摯に取り組む企業は、顧客、取引先、地域社会、行政など、様々なステークホルダーからの信頼を得ることができます。この信頼は、危機発生時のレジリエンス、つまり回復力の基盤となります。
環境負荷の低減は、規制リスクへの対応にもなります。将来的な環境規制の強化を見据えて先手を打って対応することで、規制変更による事業への影響を最小限に抑えることができます。また、カーボンプライシングの導入など、環境コストが顕在化する中で、早期に対策を講じた企業は競争上有利な立場に立つことができます。
地域社会との良好な関係構築も、事業の安定性に寄与します。地域の課題解決に貢献する企業は、地域からの支持を得やすく、事業展開においてもスムーズに進めることができます。災害時の支援や地域雇用の創出、地域文化の保護など、地域に根ざした活動は、企業と地域の共生関係を強化します。
サプライチェーン全体の強靭性も高まります。取引先にもサステナビリティへの取り組みを求めることで、サプライチェーン全体のリスク管理能力が向上します。人権や環境に配慮したサプライチェーンの構築は、調達リスクの低減につながり、安定した事業運営を支えます。
サステナビリティ経営のデメリットと取り組む際の注意点
サステナビリティ経営には、初期コストの増加や短期的な収益への影響という負担も伴うため、自社の身の丈に合った進め方が重要です。
コストと収益面での負担
環境や社会への配慮を経営に組み込む過程では、設備投資や人材育成、外部専門家の活用など、追加的なコストが発生します。原材料をサステナブルな素材に切り替えたり、サプライチェーン全体の労働環境を改善したりする過程で、製造原価や物流費が増加する場合もあります。
こうしたコストは短期的には収益を圧迫する要因となり得るため、投資対効果を慎重に見極めながら、段階的に取り組みを拡大していく姿勢が求められます。目先の利益だけでなく、中長期的なリスク低減効果もあわせて評価することが実務上のポイントです。
中小企業における実務上の負担
人員や資金に限りのある中小企業にとっては、専門部署の設置や情報開示体制の整備が本業を圧迫する懸念もあります。取引先の大企業からサプライチェーン全体での対応を求められるケースも増えており、対応の優先順位づけが課題となります。
すべての取り組みを一度に進めようとせず、自社の事業と関連性の高いテーマから着手することが、負担を抑えながら実効性を高める近道です。省エネによるコスト削減など、投資回収の見込みやすいテーマから始める企業も少なくありません。
サステナビリティ経営を支える国際基準と開示ルール
サステナビリティ経営を支える国際基準には、GRIスタンダードやISSB(IFRS S1・S2)などがあり、日本国内でもSSBJ基準の適用が段階的に始まっています。
GRIスタンダード
GRIスタンダードは、GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)が策定する、企業のサステナビリティ報告のための国際的なガイドラインです。企業活動が経済・環境・人々に与える影響(インパクト)の開示に重点を置く点が特徴で、投資家目線の財務的な重要性を重視するISSB基準とは、異なる観点から補完し合う関係にあります。
GRIとIFRS財団(ISSBの母体)は2022年に協力覚書を締結し、2024年には両基準の相互運用性を高める共同声明を発表しています。企業はGRIとISSB、双方の基準を組み合わせて開示する実務が広がりつつあります(GRI公式サイトより、2026年8月時点)。
参照:GRI – The reporting landscape
TCFDの解散とISSB(IFRS S1・S2)への統合
気候関連財務情報の開示指針として広く使われてきたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、その役割を終えて2023年10月に解散しました。金融安定理事会(FSB)の要請により、企業の気候関連開示の進捗をモニタリングする役割は、IFRS財団のもとに設立されたISSB(国際サステナビリティ基準審議会)に引き継がれています。
TCFDの提言そのものが失効したわけではなく、IFRS S1(サステナビリティ全般開示基準)およびIFRS S2(気候関連開示基準)にその内容が組み込まれているため、ISSB基準に沿って開示すればTCFD提言の要件も満たします。「TCFD対応」を掲げる場合も、この移管の経緯を踏まえた記載が必要です(IFRS財団公式サイトより、2026年8月時点)。
参照:IFRS Foundation – ISSB and TCFD
日本におけるSSBJ開示基準の義務化
日本国内でも、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が策定した開示基準の適用が、2026年2月の内閣府令改正により義務化されています。プライム市場上場企業のうち、平均時価総額3兆円以上の企業は2027年3月期から、1兆円以上3兆円未満の企業は2028年3月期から、5,000億円以上1兆円未満の企業は2029年3月期からの適用が予定されています。
対象企業は当面プライム市場の大企業に限られますが、取引先である中小企業にもサプライチェーン全体でのデータ提供を求める動きが広がりつつあり、規模を問わず開示ルールの変化を把握しておく必要があります(金融庁公式サイトより、2026年2月時点の公表内容)。
開示情報を体系的にまとめる形式としては、統合報告書を用いる企業も増えています。統合報告書とはを解説した記事もあわせて参考にしてください。
参照:金融庁 – 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等の公布
サステナビリティ経営を実践するためのステップ

サステナビリティ経営は、現状把握とマテリアリティ特定、目標設定とKPI策定、実行体制の構築という3段階で実践します。
サステナビリティ経営を効果的に進めるには、体系的なアプローチが必要です。この章では、企業が実際にサステナビリティ経営に取り組む際の具体的なステップと、実践上のポイントについて解説します。
闇雲に施策を進めるのではなく、自社の現状を正確に把握し、重要課題を特定した上で、具体的な目標設定と実行計画を策定することが重要です。また、取り組みの進捗を定期的に評価し、ステークホルダーに適切に情報開示することで、継続的な改善サイクルを回していくことが求められます。
現状把握とマテリアリティの特定
サステナビリティ経営の第一歩は、自社の事業活動が環境や社会に与える影響を正確に把握することです。温室効果ガスの排出量や廃棄物の発生量、水使用量などの環境データを測定・集計するとともに、労働慣行や人権面でのリスク評価も行います。サプライチェーン全体を視野に入れた影響評価が理想的ですが、まずは自社の直接的な影響から把握を始めることが現実的です。
マテリアリティ、つまり重要課題の特定は、サステナビリティ経営の方向性を定める重要なプロセスです。マテリアリティとは、自社の事業にとって重要であり、かつステークホルダーにとっても重要な課題を指します。環境や社会の様々な課題の中から、自社が優先的に取り組むべきテーマを選定します。
マテリアリティの特定では、外部環境の分析と内部要因の分析の両面が必要です。社会的な要請や業界動向、規制の方向性などの外部要因と、自社の事業戦略や強み、リスク要因などの内部要因を総合的に評価します。また、顧客、従業員、投資家、地域社会など、様々なステークホルダーの期待や要請も考慮に入れます。
特定されたマテリアリティは、優先順位をつけてマトリックス図などで可視化すると効果的です。事業への影響度とステークホルダーにとっての重要度の2軸で評価し、特に重要度の高い課題を最優先で取り組むべきテーマとして位置づけます。
目標設定とKPIの策定
マテリアリティが特定できたら、それぞれの課題について具体的な目標を設定します。目標は、定量的で測定可能なものにすることが重要です。たとえば、「2030年までにCO2排出量を2020年比で50パーセント削減する」といった具体的な数値目標を設定します。
目標設定では、長期目標と中期目標、短期目標を組み合わせることが効果的です。2050年のカーボンニュートラル達成といった長期的なビジョンと、その中間地点としての2030年目標、そして年次の進捗目標を設定することで、段階的な取り組みが可能になります。
KPI、つまり重要業績評価指標の設定も不可欠です。目標達成に向けた進捗を測定するための指標を定め、定期的にモニタリングします。KPIは、結果指標だけでなく、プロセス指標も含めることが望ましいです。たとえば、CO2削減量という結果指標に加えて、再エネ導入率や省エネ投資額といったプロセス指標も設定します。
目標とKPIは、全社レベルだけでなく、部門別や事業所別にも設定し、組織全体で取り組む体制を構築します。また、これらの指標を人事評価や報酬制度に組み込むことで、従業員の行動変容を促すことができます。
実行体制の構築と情報開示
目標を達成するには、適切な実行体制の構築が必要です。サステナビリティを推進する専門部署の設置や、部門横断的なプロジェクトチームの編成など、組織的な取り組み体制を整えます。また、経営層の関与とコミットメントが、取り組みの実効性を高める上で極めて重要です。
予算配分も重要な要素です。サステナビリティ関連の設備投資や人材育成、外部専門家の活用などには一定のコストが必要です。これらを経営計画に組み込み、適切な資源配分を行うことで、継続的な取り組みが可能になります。
従業員への教育や意識啓発も欠かせません。サステナビリティの重要性や自社の取り組みについて、従業員の理解を深めるための
研修会社選びに迷う場合は、サステナビリティ研修会社の比較記事で料金相場や特徴を確認すると、自社に合ったプログラムを見つけやすくなります。
研修や情報共有の機会を設けます。全従業員がサステナビリティに対する当事者意識を持つことで、組織全体の推進力が高まります。情報開示は、ステークホルダーとのコミュニケーションツールとして重要です。サステナビリティレポートや統合報告書を通じて、自社の方針や目標、取り組み内容、進捗状況を定期的に公表します。透明性の高い情報開示は、ステークホルダーからの信頼獲得につながります。
開示情報の信頼性を高めるため、第三者による検証を受けることも有効です。特に温室効果ガス排出量などの重要データについては、外部機関による保証を取得することで、情報の信頼性を担保できます。
PDCAサイクルを確実に回すことも重要です。定期的に取り組みの進捗をレビューし、課題を特定して改善策を講じます。目標達成が困難な場合は、その原因を分析し、必要に応じて施策の見直しや追加投資を行います。
サステナビリティ経営の取り組み領域と実践事例

サステナビリティ経営は、環境・社会・ガバナンスの各領域における具体的な取り組みとして、業種を問わず先進企業に浸透しています。
サステナビリティ経営を実践するには、環境、社会、ガバナンスの各領域で具体的な取り組みを進める必要があります。この章では、それぞれの領域における主な取り組み内容と、企業がどのように実践しているかについて解説します。
各企業の事業特性や規模、業種によって、優先的に取り組むべき課題は異なりますが、共通して重要なのは、自社の事業活動と関連性の高い課題を特定し、本業を通じた解決を図ることです。また、単発的な取り組みではなく、経営戦略に統合された継続的な活動として展開することが求められます。以下では、取り組み内容を確認できる6社の事例を社名の五十音順で紹介します。おすすめ順や評価順ではなく、あくまで参照する際の一覧として並べています。
味の素グループのASV経営
味の素グループは、「Ajinomoto Group Shared Value(ASV)」という独自の経営手法を展開しています。ASVとは、事業を通じて社会課題を解決し、社会価値と経済価値を共創することを意味します。この考え方に基づき、栄養改善や健康的な食生活への貢献を事業の中核に位置づけています。
途上国における栄養不足の改善に向けて、現地のニーズに合わせた栄養強化食品の開発・提供を行っています。ガーナでは離乳食用の栄養補助食品を、ベトナムでは成長期の子供向けの調味料を開発するなど、地域特性に応じた製品展開により社会課題の解決に貢献しています。
環境面では、2030年度までに温室効果ガス排出量(Scope1・2)を2018年度比で50パーセント削減する目標を掲げ、SBTイニシアチブの認定を取得しています(味の素グループ公式サイトより、2026年8月時点)。再生可能エネルギーの導入や製造工程の効率化のほか、プラスチック使用量の削減や食品ロスの削減にも取り組んでいます。
参考:味の素株式会社
オムロンのカーボンニュートラル戦略
オムロンは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた包括的な戦略を展開しています。2030年度までに温室効果ガス排出量(Scope1・2)を2016年度比で65パーセント削減する目標を掲げ、2024年度実績ですでに74パーセント削減を達成しています。Scope3についても2030年度までに18パーセント削減する目標を設定し、SBT(Science Based Targets)イニシアチブから1.5℃目標および2.0℃目標としての認定を取得しています(オムロン統合レポート2025より、2024年度実績時点)。
具体的な取り組みとして、全世界の事業所で再生可能エネルギーへの転換を進めています。太陽光発電設備の導入や、再エネ由来の電力調達により、エネルギー構造の転換を加速させています。また、製造工程の省エネ化や、製品のエネルギー効率向上にも注力しています。
さらに、自社の脱炭素化だけでなく、製品を通じた社会全体のCO2削減にも貢献しています。省エネ制御機器やエネルギーマネジメントシステムなど、顧客の省エネを実現する製品の開発により、バリューチェーン全体での環境負荷低減を推進しています。
カーボンニュートラルという概念そのものを基礎から学びたい方は、カーボンニュートラルとは何かを解説した記事もあわせて確認してほしい。
参考:オムロン株式会社
資生堂のダイバーシティ推進
資生堂は、女性活躍推進を中心としたダイバーシティ経営に長年取り組んでいます。1990年代から女性管理職の育成に注力し、育児と仕事の両立を支援する制度を整備してきました。その結果、国内の女性管理職比率は41.1パーセント、グローバルでは59.5パーセントに達しています(資生堂公式サイトより、2025年1月時点)。
具体的な施策として、育児休業制度の充実やフレックスタイム制度の導入、在宅勤務制度の整備など、柔軟な働き方を実現する環境を整えています。また、管理職候補の女性社員を対象としたリーダーシップ育成プログラムも実施しています。
このダイバーシティ推進により、多様な視点を製品開発やマーケティングに活かすことができ、イノベーション創出につながっています。また、優秀な人材の確保と定着にも寄与し、企業の持続的成長を支える基盤となっています。
トヨタ自動車の環境チャレンジ2050
トヨタ自動車は、2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表し、長期的な環境目標を設定しました。この取り組みは、新車のCO2排出量をゼロにする「新車CO2ゼロチャレンジ」、工場からのCO2排出をゼロにする「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」など、6つのチャレンジで構成されています。
具体的な施策として、ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車といった電動車の開発を加速させています。製造工程においても、再生可能エネルギーの導入や省エネ技術の活用により、CO2排出削減を進めています。また、水素社会の実現に向けた取り組みや、生物多様性の保全活動にも注力しています。
この取り組みにより、トヨタは環境技術のリーディングカンパニーとしての地位を確立し、ESG投資家からの高い評価を得ています。同時に、環境規制への先行対応により、将来的な事業リスクの低減にもつながっています。
パタゴニアの環境保護活動
アウトドアウェアブランドのパタゴニアは、環境保護を企業の中核的価値として位置づけ、ビジネスモデルそのものに統合しています。製品には有機栽培綿やリサイクル素材を積極的に使用し、製造工程における環境負荷の最小化を徹底しています。
特徴的な取り組みとして、「Worn Wear」プログラムがあります。このプログラムでは、顧客が使用済みのパタゴニア製品を持ち込むと修理サービスを提供し、製品の長寿命化を促進しています。また、中古品の販売プラットフォームも運営し、循環型の消費モデルを実践しています。
売上の1パーセントを環境保護団体に寄付する取り組みや、環境活動家を支援するプログラムなど、事業収益を環境保護に還元する仕組みも構築しています。このような姿勢は、ブランドの強力な差別化要因となり、環境意識の高い顧客層からの強い支持を獲得しています。
ユニクロのサステナビリティ戦略
ファーストリテイリング(ユニクロ)は、服のチカラを社会のチカラにすることを目指し、包括的なサステナビリティ戦略を展開しています。環境面では、リサイクル素材の活用やサステナブルな素材調達を推進し、2030年までに事業で使用する電力の100パーセントを再生可能エネルギーにする目標を掲げています。
社会面では、サプライチェーン全体での労働環境改善に取り組んでいます。取引先工場の労働環境をモニタリングし、適正な労働条件の確保や人権尊重を推進しています。また、難民支援や災害支援などの社会貢献活動も積極的に展開しています。
商品の長寿命化を促進する取り組みとして、「RE.UNIQLO」という衣服の回収・リサイクルプログラムも実施しています。顧客から回収した衣服を難民キャンプや被災地に寄贈したり、リサイクル技術を活用して新たな製品に再生したりすることで、循環型のビジネスモデルを構築しています。
参考:サステナビリティ|FAST RETAILING CO., LTD.
サステナビリティ経営を支援する企業一覧
サステナビリティ経営を支援する企業には、戦略策定やレポート作成を担うコンサルティング会社から、人材育成を担う研修会社まで幅広い顔ぶれがあります。
自社だけで戦略策定から情報開示までを完結させるのは負荷が大きく、外部の専門会社の支援を受けながら進める企業が大半です。以下は、サステナビリティ経営の推進を支援する会社の一部を、社名の五十音順で紹介します。おすすめ順や評価順ではなく、あくまで探す際の候補として並べています。
EY Japan
EY Japanは、気候変動や自然資本への対応と企業価値向上の両立を目指す、サステナビリティ経営コンサルティングを提供しています。目標・戦略の立案から実行、組織横断的な推進体制の整備までを一貫して支援し、「サステナビリティ経営推進サイクル」の確立をゴールに据えています。
グローバル規模のコンサルティングファームとしての知見を活かし、経営と組織そのものの変革に踏み込む点が特徴です。
参照:EY Japan|サステナビリティ経営コンサルティング・サービス
グロービス(GLOBIS)
グロービスは、サステナビリティを推進する人と組織をつくることに特化した企業研修サービスを提供しています。経営陣から従業員まで、階層に応じて意識・能力・行動の変革を促すプログラムを展開し、人材育成と組織開発の知見をサステナビリティ推進に応用しています。
「経営陣の本気度にばらつきがある」「目先の売上を優先してしまう」といった、個社特有の課題に合わせてプログラムを設計する点が特徴です。
SOMPOリスクマネジメント
SOMPOリスクマネジメントは、サステナビリティレポートや統合報告書の企画から製作・印刷までを一貫して支援しています。国際的なガイドラインに基づき、財務情報と非財務情報を統合したステークホルダーコミュニケーションの構築を支援範囲としています。
マテリアリティ特定支援とレポート制作をセットで提供する点が特徴で、損害保険グループのリスクマネジメント知見を報告書づくりに活かしています。
参照:SOMPOリスクマネジメント|サステナビリティレポート・統合報告書作成支援
日本総合研究所(日本総研)
日本総合研究所は、事業を通じた社会課題解決によって、多様なステークホルダーから信頼される企業経営を支援しています。サステナビリティ戦略の策定や情報開示に加え、TCFD・TNFD対応、人権リスク管理、サステナブルファイナンスの活用まで、支援範囲は経済的価値と社会的価値の両立に関わる領域全般に及びます。
シンクタンク機能を持つ点が特徴で、政策動向や国際基準の変化を踏まえた助言を受けられます。
日本能率協会コンサルティング(JMAC)
JMACは、企業の「稼ぐ力」と社会の「持続性」の両立を掲げ、戦略策定から機能改革、仕組みづくりまでを一貫して支援しています。「考え方を変革する」「バリューチェーンを変革する」「仕組みを変革する」という3つの軸で、企業ごとのサステナビリティ推進を支援します。
80年以上の経営戦略コンサルティングと30年にわたる脱炭素コンサルティングの実績を持ち、自社らしい取り組みの設計を支援する点が特徴です。
参照:日本能率協会コンサルティング|サステナビリティ経営コンサルティング
ブレーンセンター
ブレーンセンターは、サステナビリティレポートやCSR報告書の企画・制作を専門に手がける企業です。GRIスタンダードやSASBスタンダード、主要なSRI評価項目を踏まえたレビューと改善提案から、冊子やWebサイトの企画制作までを支援範囲としています。
複数部署にまたがる情報収集や社内合意形成のサポートに強みを持ち、ESG情報開示の評価向上に向けた改善計画づくりから伴走する点が特徴です。
| 企業名 | 主な支援内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| EY Japan | 戦略立案から実行までの経営コンサルティング | グローバルファームの知見で経営・組織を変革 |
| グロービス(GLOBIS) | 階層別のサステナビリティ研修 | 個社の課題に合わせたプログラム設計 |
| SOMPOリスクマネジメント | レポート企画から製作・印刷まで | マテリアリティ特定支援とセット提供 |
| 日本総合研究所 | 戦略策定から情報開示、TCFD・TNFD対応 | シンクタンク機能による政策動向の助言 |
| 日本能率協会コンサルティング | 戦略策定から機能改革・仕組みづくり | 80年超の経営コンサル実績 |
| ブレーンセンター | レポートの企画・制作・改善提案 | 複数部署の情報収集・合意形成に強み |
よくある質問

サステナビリティ経営について、企業の担当者や関心を持つ方々から寄せられる代表的な質問にお答えします。実践に向けた具体的な疑問や懸念点について、分かりやすく解説します。
サステナビリティ経営は大企業だけのものではありません。中小企業にとっても、取引先からの要請への対応や、人材確保、地域での信頼獲得など、実践する意義は大きいです。規模に応じて、できることから段階的に始めることが重要です。省エネによるコスト削減や地域貢献活動など、身近なテーマから着手することをお勧めします。
はい、設備投資や人材育成などの追加コストが発生し、短期的には収益を圧迫する可能性があります。特に人員や資金に限りのある中小企業では、専門部署の設置や情報開示体制の整備が本業を圧迫する懸念もあります。すべてを一度に進めようとせず、自社の事業と関連性の高いテーマから段階的に着手することで、負担を抑えながら取り組むことができます。
直接的には、省エネや廃棄物削減によるコスト削減、ブランド価値向上による売上増加などが期待できます。また、ESG投資の拡大により資金調達コストの低減にもつながります。さらに長期的には、リスク管理能力の向上や新規事業機会の創出など、企業の持続的成長を支える基盤となります。ただし、短期的な利益追求ではなく、中長期的な価値創造の視点が重要です。
CO2排出量、エネルギー使用量、水使用量、廃棄物発生量などの環境指標や、女性管理職比率、従業員満足度、労働災害発生率などの社会指標が一般的です。重要なのは、自社のマテリアリティに基づいた指標を選択することです。業種や事業特性に応じて、最も関連性の高い指標を設定し、継続的にモニタリングすることが効果的です。
法的な義務ではありませんが、ステークホルダーとのコミュニケーションツールとして推奨されます。必ずしも大部のレポートを作成する必要はなく、ウェブサイト上での情報開示や簡易的なレポートから始めることもできます。重要なのは、透明性を持って自社の取り組みを伝え、ステークホルダーとの対話の機会を持つことです。
民間団体が実施する「サステナ経営検定」など、CSRとサステナビリティを経営に統合する力を認定する検定試験があります。資格の取得自体が目的ではなく、自社の取り組みを体系的に進めるための知識を整理する手段として活用するとよいでしょう。
まとめ

サステナビリティ経営は、環境・社会・経済の3つの側面から持続可能性を追求し、企業の長期的な価値向上と社会課題の解決を両立させる経営手法です。気候変動や資源制約といった地球規模の課題が深刻化し、ESG投資が拡大する中、企業にとってサステナビリティへの取り組みは選択肢ではなく必須事項となっています。取り組みにはコスト面の負担も伴いますが、GRIスタンダードやISSB基準といった国際的な枠組みを踏まえながら、現状把握からマテリアリティ特定、目標設定、実行、開示という体系的なアプローチで実践することが重要です。支援企業や先行事例も参考にしながら、規模に関わらず自社の状況に応じて段階的に取り組みを進めることで、持続可能な企業経営を実現できます。

