ソーシャルビジネスとは、貧困や環境破壊、地域の過疎化といった社会課題の解決そのものを事業の中心に据え、寄付や補助金に頼らず継続的な収益で運営していくビジネスモデルです。ボーダレス・ジャパンやマザーハウス、グラミン銀行など、国内外にはすでに多くの実践例があります。
「社会貢献」と聞くとボランティアや寄付をイメージしがちですが、ソーシャルビジネスは事業として自立している点が大きく異なります。近年はCSRやESGへの関心の高まりとともに、企業の本業を通じた社会課題解決の手法としても注目されています。
投資家や消費者の間でも、利益の大きさだけでなく、事業を通じてどのような社会的インパクトを生み出しているかが企業を選ぶ基準の一つになりつつあります。ソーシャルビジネスの事例を具体的に知ることは、こうした「事業を通じた社会課題解決」のイメージをつかむ手がかりになります。
この記事では、ソーシャルビジネスの基本的な定義と近い概念との違いを整理したうえで、国内4社・海外3社の実際の事例を比較表つきで紹介します。さらに、個人としてこうした事業にどう関わっていけるのかまで、順を追ってわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- ソーシャルビジネスの定義とCSR・CSVとの違い
- 国内外の代表的なソーシャルビジネス事例7社の事業内容と解決する社会課題
- 各事例を比較できる一覧表
- 個人としてソーシャルビジネスに関わる具体的な方法
- ソーシャルビジネスに関するよくある疑問
ソーシャルビジネスとは?CSR・CSVとの違い
ソーシャルビジネスとは、寄付や補助金に頼らず、事業収益で社会課題の解決に取り組むビジネスモデルです。慈善活動ではなく、あくまで「事業」として成立させる点に特徴があります。
対象となる社会課題は貧困や環境問題、地域の産業衰退、難民の雇用機会不足など多岐にわたり、事業の形態も物やサービスの販売から融資まで幅広く存在します。
ソーシャルビジネスの3つの特徴
ソーシャルビジネスには一般的に、(1)社会課題の解決を事業目的とする(2)一時的な活動ではなく継続的に運営する(3)得た利益は寄付ではなく事業への再投資に回すという3つの特徴があるとされています。この3条件を満たすかどうかが、単なる社会貢献活動との分かれ目になります。
例えば、単発のチャリティイベントで寄付を募るだけの活動は(2)の継続性を満たさず、利益の多くを事業拡大や商品開発ではなく別の用途に回してしまう事業は(3)の再投資の条件から外れます。3つの条件がそろって初めて、ソーシャルビジネスと呼べる事業になります。
こうした事業を立ち上げる人の生き方や姿勢は「ソーシャルアントレプレナーシップ」と呼ばれます。ソーシャルビジネスが「事業・仕組み」を指す言葉であるのに対し、ソーシャルアントレプレナーシップは「起業家個人の姿勢」を指す言葉という違いがあります。
起業という選択そのものについては、社会課題解決を目指す起業という選択の記事で詳しく解説しています。
CSR・CSVとの違い
CSR(企業の社会的責任)は本業とは別に行う社会貢献活動を指すのに対し、CSV(共通価値の創造)は本業を通じて経済的価値と社会的価値を同時に生み出す経営戦略を指します。ソーシャルビジネスは、社会課題の解決そのものを事業の主目的とする点で、CSVよりもさらに踏み込んだ位置づけといえます。
例えば、包装資材を削減する取り組みは多くの企業がCSRやCSVの一環として行っていますが、資源循環や特定の社会課題の解決そのものを事業の柱に据え、収益の中心に位置づけている場合は、ソーシャルビジネスに近い性格を持つといえます。
価値創造という考え方については、ソーシャルグッドとはの記事でも詳しく取り上げています。
ソーシャルビジネスが注目される背景
ソーシャルビジネスが注目される背景には、投資家がESG(環境・社会・企業統治)の観点で投資先を選ぶ動きや、消費者が商品を選ぶ際に企業の社会的な取り組みを重視する傾向が広がっていることがあります。行政の補助金や助成金だけに頼らず、社会課題を解決し続ける担い手として、事業性を持つ組織への期待が高まっています。
働き手の側でも、給与や待遇だけでなく、自分の仕事が社会にどう役立つかを重視して勤務先を選ぶ人が増えており、ソーシャルビジネスを手がける企業への就職や転職に関心を持つ人も少なくありません。
【比較表】ソーシャルビジネス事例7選の一覧
国内外のソーシャルビジネス7社を、事業内容と解決する社会課題の観点で比較表にまとめました。まずは全体像を確認したうえで、気になる事例を詳しく見ていきましょう。
| 企業名 | 拠点 | 事業内容 | 主に解決する社会課題 |
|---|---|---|---|
| ボーダレス・ジャパン | 日本 | 48の社会的事業を展開するグループ経営 | 貧困、環境、障がい者雇用など多分野 |
| マザーハウス | 日本 | 途上国で生産したバッグ・ジュエリー等の製造販売 | 途上国の産業育成・職人の雇用 |
| 坂ノ途中 | 日本 | 有機・低農薬野菜や加工品のオンライン販売 | 新規就農者の支援、環境負荷の高い農業からの転換 |
| ZERO PC(ピープルポート) | 日本 | 企業から回収した中古PCの再生・販売 | 難民の雇用機会創出 |
| グラミン銀行 | バングラデシュ | 無担保の少額融資(マイクロクレジット) | 農村部の貧困層の金融アクセス |
| Kiva | 米国 | クラウド型少額融資プラットフォーム | 銀行口座を持てない人々への金融包摂 |
| Safaricom(M-PESA) | ケニア | 携帯電話を使ったモバイルマネーサービス | 銀行口座を持たない人々の送金・決済 |
表を見比べると、国内の事例は雇用機会の創出や地域・途上国の産業支援を軸にしたものが多く、海外の事例は銀行口座を持たない人々への金融アクセスを軸にしたものが目立つという傾向が見えてきます。
どの事例から知りたいかを決める際は、関心のある社会課題で絞り込む方法と、商品購入や少額融資など自分がどう関わりやすいかで絞り込む方法の2つがあります。次の章から、それぞれの事業内容を詳しく見ていきましょう。
国内のソーシャルビジネス事例
国内では、ボーダレス・ジャパンやマザーハウスなど、事業内容の異なる4社の事例があります。いずれも特定の社会課題を軸に、商品やサービスの販売で事業を成り立たせている点が共通しています。
ボーダレス・ジャパン|48の社会的事業を運営するグループ経営
株式会社ボーダレス・ジャパンは、貧困、環境、障がい者雇用などさまざまな社会課題に取り組む複数の社会的事業を一つのグループとして運営する企業です。公式サイトによると、2026年8月確認時点で15カ国において48の社会的事業を展開しています。
各事業の代表を務めるのは、その社会課題の現場に近い当事者や、課題への強い問題意識を持つ起業家であることが多く、グループ内で経営ノウハウや資金を共有し合いながら事業を立ち上げやすくする仕組みが特徴です。財務的な利益だけでなく、社会的インパクトを重視した経営指標を掲げている点も特徴です。
貧困や環境、障がい者雇用、地域産業の衰退など、扱う社会課題の分野は事業ごとに異なり、複数の社会課題領域を一つのグループでカバーしている点も、単独で一つの事業を営む企業とは異なる特徴といえます。
参照:ボーダレス・ジャパン
マザーハウス|途上国発のブランドをつくる
株式会社マザーハウスは2006年3月に設立された企業で、バングラデシュ、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマーで生産したバッグやジュエリー、アパレル、食品などを製造販売しています。
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念のもと、現地の職人技術を生かした製品づくりを通じて、生産国の産業育成につなげています。商品には生産に携わった職人の技術や工程が反映されており、購入を通じて生産国の技術力を消費者に伝える役割も担っています。
単に安価な労働力として現地に生産拠点を置くのではなく、現地の素材や技術の可能性を世界水準のブランドとして発信する点に、他の輸入雑貨との違いがあります。
参照:マザーハウス
坂ノ途中|新規就農者を支える野菜の産直販売
株式会社坂ノ途中は、有機栽培や低農薬栽培に取り組む生産者から仕入れた野菜や加工品をオンラインで販売する企業です。「100年先もつづく、農業を。」を掲げ、環境負荷の低い農業に挑戦する新規就農者の販路拡大を後押ししています。
化学農薬や化学肥料に頼らない農業の担い手を増やすことを通じて、持続可能な農業と社会の実現を目指しています。扱う野菜は栽培方法にこだわりを持つ生産者のものが中心で、生産者ごとの取り組みを紹介する情報発信にも力を入れています。
新規就農者は販路の確保が課題になりやすいため、こうした産直販売の仕組みは、環境負荷の低い農業を選ぶ生産者にとって事業を継続しやすくする役割も果たしています。
参照:坂ノ途中
ZERO PC(ピープルポート)|難民雇用で中古PCを再生
ピープルポート株式会社が展開する「ZERO PC」は、企業から回収した使用済みパソコンを、難民として日本に逃れてきた人たちの雇用のもとで整備・再生し、販売する事業です。難民スタッフには日本人社員と同水準の給与や社会保障が提供されています。
パソコンの再生には、データ消去や部品の点検・交換といった工程が必要で、この作業を通じて難民スタッフが日本での就労経験と技術を積む機会にもなっています。公式サイトによると、ウェブサイトでZERO PCを購入すると、購入金額の3%が難民支援や環境保護に取り組むNPOへ寄付される仕組みも用意されています。
廃棄されるはずだったパソコンを再生して販売することは、資源の有効活用という環境面の効果と、難民の就労支援という社会面の効果を同時に実現する取り組みといえます。
海外のソーシャルビジネス事例
海外では、グラミン銀行やKiva、Safaricomなど、金融アクセスに関わる事例がよく知られています。銀行の支店網が十分に整っていない地域で、どのように金融サービスを届けるかという課題への挑戦が共通しています。
グラミン銀行|マイクロクレジットの先駆け
バングラデシュのグラミン銀行は、1983年に設立され、担保を持たない農村部の貧困層に対して無担保の少額融資(マイクロクレジット)を提供する銀行です。公式サイトによると、2026年8月確認時点で累計約422.9億ドルを1,062万人の借り手に無担保で融資してきたとされています。
少人数のグループで互いに支え合いながら返済を進める仕組みを採用していることでも知られており、担保を持たない人にも融資の道を開いたマイクロクレジットの先駆けとして評価されています。創設者のムハマド・ユヌス氏とグラミン銀行は、この功績により2006年にノーベル平和賞を受賞しています。
こうしたマイクロクレジットの仕組みは、その後世界各国に広がり、Kivaのような後続のサービスが生まれる土台にもなりました。
参照:グラミン銀行
Kiva|個人が少額から参加できる融資プラットフォーム
米国の非営利団体Kivaは、世界中の「アンバンクト(銀行口座を持てない)」人々に対して、個人が少額から融資に参加できるクラウド型のマイクロローンの仕組みを提供しています。2005年の設立以来、25ドルという少額からでも融資に参加でき、公式サイトによると2026年8月確認時点でこれまでに500万人以上がKivaの融資を利用し、融資の3件に2件が女性向けに実行されてきたとされています。
融資先はウェブサイト上でプロフィールとともに公開されており、支援者は関心のある事業や国を選んで融資できる点も特徴です。世界各地の起業家と個人の支援者を直接つなぐ仕組みとして広がってきました。銀行融資を受けにくい小規模な起業家にとって、事業拡大の資金を集める選択肢の一つになっています。
参照:Kiva
Safaricom(M-PESA)|携帯電話で完結するモバイルマネー
ケニアの大手通信キャリアであるSafaricomが提供する「M-PESA」は、銀行口座を持たない人でも携帯電話があれば送金や決済ができるモバイルマネーサービスです。銀行の支店網が十分に整っていない地域でも、携帯電話さえあれば金融サービスを利用できる仕組みとして普及しました。
スマートフォン向けアプリだけでなく、通信機能を使った操作にも対応した設計になっており、高機能なスマートフォンを持たない人でも利用しやすい点が普及を後押ししたとされています。給与の受け取りや公共料金の支払いなど、日常生活に必要な決済の多くを携帯電話一つで完結できる点も特徴です。
個人でソーシャルビジネスに関わる方法
個人は、商品の購入や少額融資、就職・ボランティアなど複数の方法でソーシャルビジネスに関われます。起業や就職をしなくても、消費者や支援者として日常的に関わることができます。
商品やサービスを購入する
最も手軽な関わり方は、ソーシャルビジネスが手がける商品やサービスを日常の買い物の中で選ぶことです。マザーハウスのバッグや坂ノ途中の野菜、ZERO PCのパソコンなど、暮らしに必要なものを置き換えるだけで、間接的に事業を支えることができます。
特別な手続きや会員登録が不要な場合がほとんどで、一般の通販サイトと同じ感覚で購入できる点も始めやすさにつながっています。同じように購入を通じて社会課題の解決に関われる例として、フェアトレードコーヒーおすすめ比較の記事も参考になります。
寄付や少額融資で支援する
Kivaのように25ドルなど少額から参加できるクラウド型の融資プラットフォームを使えば、大きな資金がなくても海外のソーシャルビジネスの担い手を直接支援できます。融資先の事業内容や地域を自分で選べるサービスが多く、関心のある課題領域に絞って支援先を探せる点も特徴です。
国内では、クラウドファンディングを通じて特定のプロジェクトを応援する方法もあります。単発の寄付とは異なり、事業の進捗や成果が報告される仕組みになっているサービスが多く、支援した後の広がりを追いやすい点もメリットです。
就職・転職やボランティアで関わる
より深く関わりたい場合は、ソーシャルビジネスを手がける企業への就職・転職や、業務時間外のボランティア・プロボノとしての参加という選択肢もあります。自分の専門スキルを生かして事業の運営そのものを支える関わり方です。
経理やマーケティング、ITなど特定の業務経験を生かして、副業やプロボノとして関わる形も広がりつつあります。まずは関心のある企業の採用情報やボランティア募集ページを確認してみるとよいでしょう。
関わる前に確認しておきたいこと
支援先を選ぶ際は、その企業が解決を目指す社会課題と、事業の収益がどのように使われているかを公式サイトなどで確認しておくと安心です。社会貢献をうたっていても、具体的な取り組み内容や実績が公開されていない場合は、事業の実態を確認したうえで判断するとよいでしょう。
本記事で紹介した比較表や各社の参照リンクも、事業内容を確認する際の入り口として活用してください。
よくある質問
ソーシャルビジネスについて、よく寄せられる質問をまとめました。
NPOやNGOの多くは寄付金や会費、補助金を主な収入源とする一方、ソーシャルビジネスは商品やサービスの販売による事業収益で継続的に運営される点が大きな違いです。どちらも社会課題の解決を目的とする点は共通していますが、収益構造の自立度に差があります。
日本には現在、社会的企業であることを認証する統一的な公的制度は整備されていません。ただし、環境や社会への配慮を評価する国際的な民間認証であるB Corp認証を取得する企業も出てきています。
特別な資格や許可がなくても、個人でソーシャルビジネスを始めることは可能です。社会課題の解決を軸にした事業計画と、寄付に頼らず続けられる収益モデルを設計できれば、小規模からでも始められます。
ソーシャルビジネスは、SDGs(持続可能な開発目標)が掲げる貧困や環境などの課題解決を、寄付や補助金に頼らず自立した事業として実践する手段の一つです。
その企業が解決しようとしている社会課題と、事業を通じてどのように解決に取り組んでいるかを確認することが、商品を選ぶ際のポイントです。本記事の比較表や各事例の内容を参考にすると選びやすくなります。
Kivaのようなクラウド型の融資プラットフォームを使えば、日本にいながらインターネット経由で海外のソーシャルビジネスの担い手に少額から融資できます。現地に渡航しなくても、オンライン上で完結する関わり方があります。
まとめ
ソーシャルビジネスは、寄付や補助金に頼らず、事業として社会課題の解決に継続的に取り組む点が最大の特徴です。ボーダレス・ジャパンやマザーハウス、グラミン銀行やKivaなど、国内外にはすでに多様な実践例があります。
国内の事例には雇用や地域・途上国の産業支援を軸にしたものが多く、海外の事例には金融アクセスの拡大を軸にしたものが目立つなど、地域や課題によってアプローチもさまざまです。
関わり方も、商品の購入から少額融資、就職・ボランティアまで幅があり、無理のない範囲から始められるのも特徴です。まずは気になる企業の商品やサービスを購入してみることから、ソーシャルビジネスとの関わりを始めてみてはいかがでしょうか。