統合報告書アワードは、日本経済新聞社の「日経統合報告書アワード」、GPIFの運用機関が選ぶ「優れたサステナビリティ開示」、WICIジャパンの「WICI統合リポートアウォード」の3つが代表的で、それぞれ主催団体と評価基準が異なります。統合報告書の作成や情報開示の質を高めたい企業は、自社の目的に合ったアワードの評価ポイントを理解しておくことが近道です。
この記事でわかること
- 統合報告書アワードの基本的な仕組みと評価される観点
- 日経・GPIF・WICIジャパンという3つの主要アワードの違い
- 日経統合報告書アワードへの参加方法とスケジュール
- 評価を高めるために押さえておきたい実践ポイント
- 統合報告書アワードの受賞企業例と、制作・対応を支援する会社
統合報告書アワードとは?
統合報告書アワードとは、企業の統合報告書の内容や開示の質を外部機関が評価・表彰する制度の総称です。
統合報告書は、財務情報と非財務情報をあわせて経営の全体像を伝える報告書です。この報告書自体の意味や作成手順については、統合報告書とは?記載項目や作成手順を解説した記事で詳しく取り上げています。統合報告書アワードは、その報告書が「投資家や社会にとってどれだけ価値創造ストーリーを伝えられているか」を第三者の視点で評価する制度で、主催者によって審査員の立場(メディア、年金基金の運用機関、業界団体など)が異なります。
企業にとってアワードでの評価は、単なる名誉ではありません。統合報告書は機関投資家がエンゲージメント(対話)の材料として読み込む資料でもあるため、アワードでの評価が高いことは、開示の質そのものが投資家に伝わりやすい形で整理されている証拠として扱われます。逆に言えば、アワードの評価軸を理解することは、そのまま「投資家にどう読まれる報告書を作るか」を考える手がかりになります。
統合報告書アワードは、東証プライム市場の大企業だけの話ではありません。日経統合報告書アワードは業種・規模を問わず参加できるため、統合報告書の発行を始めたばかりの企業が、自社の開示レベルを外部の目で客観的に把握する手段としても活用されています。
統合報告書アワードが重視する評価ポイント
各アワードに共通するのは、財務情報と非財務情報を統合した「価値創造ストーリー」の明確さを重視する姿勢です。日経統合報告書アワードの審査基準では、資本効率の向上や株主還元に対する取締役会の役割、自社の株価水準やPBRなどの市場評価についての議論内容、サステナビリティ課題を財務影響の観点から取締役会で議論しているかといった項目が挙げられています(出典:日経統合報告書アワード 審査基準ページ、2026年8月確認)。単なる情報の網羅ではなく、経営戦略と非財務情報の結びつきが読み手に伝わるかどうかが評価の分かれ目になります。
具体的には、トップのコミットメントが本文からにじみ出ているか、複雑な事業構造を持つ企業であれば事業ごとの価値創造プロセスを整理できているか、数字とビジュアル(グラフや図表)を使って企業価値を語れているかといった観点も、実際の評価で重視されるポイントとして挙げられています。文章だけで説明を尽くそうとせず、図表化できる情報は積極的に図表に落とし込む姿勢が、結果的に読み手への伝わりやすさにつながります。
統合報告書の主要アワードは3種類

統合報告書を評価するアワードには、日経・GPIF・WICIジャパン主催の3種類があります。
3つのアワードは主催団体も審査プロセスも異なるため、自社がどの評価軸で見られたいかによって注目すべきアワードが変わります。それぞれの特徴を、独自の一覧表でまとめました。
| アワード名 | 主催 | 評価の視点 | 結果発表の時期 |
|---|---|---|---|
| 日経統合報告書アワード | 日本経済新聞社(金融庁・経済産業省・日本公認会計士協会が後援) | 投資対象としての魅力、価値創造ストーリー、トップメッセージの具体性 | 例年3月中旬 |
| 優れたサステナビリティ開示(GPIF) | GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の国内株式運用委託機関 | マテリアリティの観点からの開示の充実度 | 例年2〜3月 |
| WICI統合リポートアウォード | WICIジャパン | 統合的思考の実践度、中長期の価値創造力 | 年1回(審査は4段階) |
表からわかるとおり、日経とWICIジャパンは「メディアや業界団体が主体となって審査する」形式である一方、GPIFは「投資家自身が実務で使う開示を評価する」という点で毛色が異なります。投資家との対話を重視するならGPIFの評価軸、社会的な認知度や表彰イベントとしての広がりを重視するなら日経、というように、目的に応じて注目するアワードを選ぶとよいでしょう。
日経統合報告書アワード(日本経済新聞社主催)
日経統合報告書アワードは、1998年開始の「日経アニュアルリポートアウォード」を前身とし、非財務情報を含めて評価する流れを受けて2021年に現在の名称にリニューアルされた制度です。2026年の第5回では504社・団体が参加し、グランプリには味の素・伊藤忠商事・富士通の3社が選ばれました(出典:日経統合報告書アワード公式サイト、2026年8月確認)。グランプリのほか、サステナブル大賞・ガバナンス大賞・準グランプリ・レジェンド賞など複数の表彰区分が設けられており、単に順位を競うだけでなく、報告書のどの側面が優れているかを多角的に示す設計になっています。
GPIFの運用機関が選ぶ「優れたサステナビリティ開示」
GPIFは、国内株式の運用を委託している運用機関に、優れた開示を行う企業の選定を依頼しています。2025年からは「優れた統合報告書」「優れたTCFD開示」「優れたTNFD開示」の3系統が統合され、マテリアリティを評価軸とする「優れたサステナビリティ開示」として一本化されました。大和証券グループ本社の2026年3月27日付の適時開示でも、「マテリアリティの観点から『優れたサステナビリティ開示』に選定」という表現が使われています(出典:日経会社情報DIGITAL 適時開示、2026年3月27日付)。統合報告書アワードを調べる際に、この名称変更を知らないまま2024年以前の情報で止まっている記事も多いため、注意が必要です。マテリアリティ(自社にとっての重要課題)をどう特定し開示するかについては、ESG指標とは?企業が押さえるべき主要KPIを解説した記事もあわせて参考になります。
WICI統合リポートアウォード(WICIジャパン主催)
WICI統合リポートアウォードは、東京証券取引所上場企業を対象に、時価総額上位企業のリストアップから始まる4段階の審査を経て、Gold Award(優秀企業賞)・Silver Award(優良企業賞)・Bronze Award(準優良企業賞)・Special Award(審査委員特別賞)の区分で表彰する制度です(出典:WICIジャパン公式サイト、2026年8月確認)。Gold Awardは統合報告書の完成度が極めて高く、統合的思考による経営が実践され、中長期の価値創造力が示されている企業に贈られます。Special Awardは2021年に新設された区分で、個別の要素において参考価値のある報告書が対象になる点が特徴です。
日経統合報告書アワードへの参加方法とスケジュール
日経統合報告書アワードは、統合報告書を発行していれば業種や規模を問わず参加でき、毎年9月から翌年3月にかけて審査が進みます。
2026年度の主なスケジュールは、次のとおりです(出典:日経統合報告書アワード公式サイト、2026年8月確認)。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 9月1日 | 申込開始 |
| 10月30日 | エントリー締切 |
| 11月下旬〜12月下旬 | 第1次審査 |
| 1月中旬〜2月中旬 | 最終審査 |
| 3月中旬 | 結果発表・表彰式 |
STANDARD PLANとGLOBAL PLANの違い
参加プランは2種類あり、STANDARD PLANはエントリー費・審査・フィードバック・新聞掲載・公式サイトへのリンク設定など国内向けの基本サービスで構成されています。GLOBAL PLANはこれに加えて、NIKKEI Asiaでの英語情報発信と海外機関投資家向けの調査が含まれており、海外投資家との対話を重視する企業に向いています。自社が国内投資家向けの評価を重視するのか、海外投資家への発信もあわせて行いたいのかで、選ぶプランが変わります。
統合報告書アワードで評価を高めるポイント

評価を高めるには、価値創造ストーリーの明確化とトップメッセージの具体性が重要とされています。
これらのポイントは、初めて統合報告書を発行する企業にも、すでに発行実績がありアワードへの応募を検討している企業にも共通して当てはまります。以下の3つの観点は、いずれも「情報を足す」のではなく「すでにある情報の見せ方を整理し直す」ことで改善できるものが中心です。
価値創造ストーリーを明確にする
日経統合報告書アワードで高く評価された報告書は、自社の強みがどの市場や社会課題と結び付き、どのような競争優位につながるのかが読み手に自然に理解できる形で整理されている点が共通しています。財務情報だけを並べるのではなく、非財務情報との因果関係を一本の筋として説明することが求められます。断片的な取り組み紹介の寄せ集めではなく、経営戦略という一つの物語として構成できているかが問われます。
トップメッセージに具体性を持たせる
審査では、トップメッセージのパッションや具体性、株価を意識した経営姿勢も議論の対象になります。2026年グランプリの味の素は、新CEOのメッセージに力があり、事業を通じた価値創出への道筋を体系的に示した点が評価されました。抽象的な決意表明ではなく、自社の戦略や強みと紐づけて具体的に語ることが重要です。
非財務情報と財務情報を統合して語る
GPIFの運用機関による評価軸が「マテリアリティ」に一本化されたように、自社にとって重要な非財務課題を、財務影響と切り離さずに開示する姿勢が各アワードに共通して求められています。ESGに関する取り組みそのものについては、ESG経営とは?中小企業の始め方を解説した記事もあわせて参考にしてください。
早期から準備を進める
日経統合報告書アワードの審査は、エントリー締切から結果発表まで4か月以上かけて行われます。価値創造ストーリーの整理や非財務データの収集は、報告書の発行直前ではなく年度初めから並行して進めることで、審査基準に沿った内容を無理なく組み込みやすくなります。制作会社に依頼する場合も、多くのサービスで企画から納品まで5〜6か月程度を見込んでいるため、逆算したスケジュール管理が欠かせません。
統合報告書の制作・アワード対応を支援する会社
統合報告書アワードへの応募や報告書のブラッシュアップを検討する企業向けに、制作・コンサルティングを行う会社を五十音順で5社紹介します。並び順に優劣の意味はありません。
クレアン
クレアンは、サステナビリティ経営コンサルティングを手がける会社で、統合報告書の制作を通じて企業のビジネスモデルや重要課題を整理し、価値創造ストーリーを構築する支援を行っています。現状把握・ストーリー整理・構成案作成・制作実行の4段階、約5〜6か月のプロセスで進めるのが特徴です。
SusTB
SusTBは、統合報告書の「企画・制作×コンサルティング」を一貫して提供する会社です。初期ヒアリングから構成提案、取材、制作、印刷・納品までを約6か月で対応し、インタラクティブPDFやデジタルブックなど複数のデジタル納品形態にも対応しています。サステナビリティレポートやESGデータ集との連動性も確保できる点が特徴です。
Sinc
Sincは、コンサルティングからコンテンツ企画、デザイン・撮影、取材・原稿作成、印刷・Web展開までを一社で完結させる「一社責任体制」を特徴とする会社です。中間マージンが発生しない分のコスト軽減と、情報伝達のシームレスさを強みとしており、機密情報を管理する専用システムも備えています。
DNP(大日本印刷)
DNPは、社内に統合報告書専門ディレクターを配置し、課題抽出から報告書全体の価値創造ストーリー立案までを支援しています。ライター・デザイナー・カメラマン・コンサルタントなど多領域の専門家ネットワークを持ち、多言語化対応や、不動産・食品・自動車部品・通信・建設業など幅広い業種での制作実績があります。
ブレーンセンター
ブレーンセンターは、印刷物・Web版・動画コンテンツを組み合わせたマルチツールでのレポーティングを提案する会社です。投資インデックスの評価項目やESG情報開示の最新トレンドを意識した内容レビューのほか、各部署へのヒアリングやアンケートを通じた社内合意形成の支援も行っています。
参照:ブレーンセンター 統合報告書・アニュアルレポート制作サービス
| 会社名 | 主な支援内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| クレアン | 価値創造ストーリー構築を軸にしたコンサルティング型制作 | 4段階・約5〜6か月のプロセス |
| SusTB | 企画・制作×コンサルティングの一貫対応 | デジタルブックなど多様な納品形態 |
| Sinc | コンサルから制作・印刷・Web展開までの一社完結体制 | 中間マージンなしでコスト軽減 |
| DNP(大日本印刷) | 専門ディレクターによる課題抽出とストーリー立案 | 多言語対応・幅広い業種での実績 |
| ブレーンセンター | 印刷・Web・動画のマルチツール提案 | ESG投資家評価を意識した内容レビュー |
5社は、いずれも統合報告書の制作を専門としていますが、価値創造ストーリーの構築に重心を置くコンサルティング型か、印刷・Web・動画展開まで一貫して対応するワンストップ型かで強みが分かれます。自社がすでに統合報告書の骨子を持っているか、ゼロから戦略を練り直したいかによって、相談先を選ぶとよいでしょう。
統合報告書アワードの受賞企業例
2026年(第5回)日経統合報告書アワードの受賞企業から、公式サイトで受賞を確認できる3社を五十音順で紹介します。
味の素
味の素は、第5回日経統合報告書アワードでグランプリを初受賞しました。504社・団体が参加した中で、新CEOのメッセージの力強さと、事業を通じた価値創出への道筋を体系的に示した点が評価されています。
伊藤忠商事
伊藤忠商事は、第5回日経統合報告書アワードでグランプリを受賞しました。同社はGPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」にも過去に複数回選定されており、継続的に高い評価を受けています。
住友林業
住友林業は、第5回日経統合報告書アワードで準グランプリを初受賞しました。木材・住宅事業を軸にした価値創造ストーリーの示し方が、評価のポイントとなっています。
3社に共通するのは、財務の数字を並べるだけでなく、事業を通じた社会的価値の創出を一つのストーリーとして語っている点です。統合報告書アワードでの評価を目指す企業にとって、受賞企業の統合報告書を実際に読み比べてみることも、有効な準備の一つになります。
よくある質問
統合報告書アワードについて、よく検索されている質問にお答えします。
企業が発行する統合報告書の内容や情報開示の質を、日本経済新聞社やGPIF、WICIジャパンなどの主催者が評価・表彰する制度の総称です。主催者ごとに評価の観点や対象企業、審査プロセスが異なるため、複数のアワードを比較して自社に合うものを把握しておくと役立ちます。
統合報告書を発行する企業であれば業種や規模を問わず参加できます。エントリー費用や審査内容が異なるSTANDARD PLANとGLOBAL PLANが用意されており、GLOBAL PLANでは海外投資家向けの情報発信も含まれます。
GPIFの国内株式運用機関が投資判断の材料として評価した企業として名前が公表されます。なお2025年からは統合報告書単体の評価ではなく、TCFD・TNFD開示とあわせた「優れたサステナビリティ開示」として一本化されています。
WICI統合リポートアウォードはWICIジャパンが東証上場企業を対象に4段階で審査する表彰制度で、日経統合報告書アワードは日本経済新聞社が主催し金融庁などが後援する制度です。主催団体と審査プロセス、対象企業の範囲が異なります。
日経統合報告書アワードの場合、例年9月にエントリーを開始し、11月下旬から翌年2月中旬にかけて審査が行われ、3月中旬に結果発表と表彰式が行われます。年度により日程が変動するため、公式サイトでの確認をおすすめします。
参加できます。日経統合報告書アワードは業種や規模を問わず統合報告書を発行する企業であれば応募でき、非上場の中堅・中小企業が自社の開示水準を客観的に確認する目的で参加するケースもあります。
まとめ
統合報告書アワードは、日経統合報告書アワード・GPIFの優れたサステナビリティ開示・WICI統合リポートアウォードの3つが代表的で、いずれも財務情報と非財務情報を統合した価値創造ストーリーの明確さを重視しています。2025年からGPIFの評価軸がマテリアリティを中心とした「優れたサステナビリティ開示」に変わるなど、制度は毎年更新されるため、対応を検討する際は各主催者の公式情報を確認しながら進めることが大切です。統合報告書の制作や見直しに着手する際は、今回紹介した支援会社への相談も選択肢になります。まずは自社が投資家との対話を重視するのか、社会的な認知度を広げたいのかを整理し、目的に合ったアワードの評価基準から逆算して準備を進めることをおすすめします。