捨てるコスメを絵の具と工業素材に|モーンガータの化粧品アップサイクル「SminkArt」

株式会社モーンガータは、使い切れずに捨てられる化粧品を、絵の具や印刷インキ、建材などの色材に生まれ変わらせている東京都練馬区の会社です。コスメを有用な資源として捉え直し、面白いプロダクトや楽しい体験へと変えるアップサイクルブランド・活動プロジェクト「SminkArt(スミンクアート)」を通じて、家庭・化粧品企業・商業施設の3つの場で出る「コスメロス」を、楽しみながら資源として使い切る仕組みをつくっています。

代表の田中寿典さんは、大手化粧品メーカーで7年間研究職を務めた元開発者です。自分が開発した化粧品が使い切られずに捨てられていく現実に向き合い、2019年に実姉の田中麻由里さんと同社を立ち上げました。

この記事でわかること

  • モーンガータがどんな会社で、何に取り組んでいるか
  • 化粧品の廃棄が家庭と企業のどこで起きているか
  • 不要なコスメを色材に変える「magic water」の仕組み
  • 化粧品の中身から生まれた工業素材と、商業施設との回収の取り組み
  • 受賞歴とこれからの展望、会社の基本情報

モーンガータは捨てられる化粧品を色材に変える会社

不要なコスメからつくった絵の具と、その絵の具で描いた作品

モーンガータは、役目を終えた化粧品の中身を、絵の具や雑貨用の色材、工業用の素材へとアップサイクルしている会社です。公式サイトでは、自社を「廃棄化粧品再生利用の第一人者」と紹介しています。

同社が掲げる考え方は、「廃棄ゼロ」ではなく「楽しみながら100%有効活用する」ことです。生産と消費がある限り廃棄はなくならないという前提に立ち、すでに生み出されたモノに「楽しい」「面白い」という価値を加えて使い切る道をつくっています。

事業の柱主な内容
SminkArt事業(自社製品)不要コスメを絵の具に変える「SminkArtキット」、化粧品由来の粉末色材「SminkArt ときめくペイント」、ボールペン「SminkArt Pen」など
新規技術構築化粧品の中身を色材の資源として、他社の技術と組み合わせて印刷インキ・文具・樹脂・建材などを開発
ワークショップ・イベント化粧品企業・商業施設・小売店舗と連携し、不要コスメの回収からアップサイクル体験までを実施
講義・講演学校での授業や展示会での講演

社名の「モーンガータ」はスウェーデン語で、日本語にすると「水面に映る、道のような月明かり」といった意味になる言葉です。誰も着手してこなかった課題にひたむきに取り組めば、いつの間にか一つの道になるという願いが込められています。

化粧品の開発者と、化粧品を使う側の姉弟で創業

創業のきっかけは、つくる側と使う側、それぞれの立場で感じていた「化粧品の廃棄」という共通の課題でした。

田中寿典さんは、東京大学大学院の修士課程を修了したあと、株式会社アルビオンで7年間、化粧品の研究開発に携わりました。担当は製剤化技術や原料開発、製造機器の開拓です。開発の過程で品質確認などのために捨ててきた化粧品の中身にも、もったいなさを感じていたといいます。

一方で、雑貨の仕事をしていた姉の麻由里さんは、使い切れないコスメを勿体ないという思いから捨てきれず、雑貨やアートに取り入れていました。その姿を見て、本来の使い方でなくても使い切る方法があると気づいたことが、事業の出発点です。

化粧品の廃棄は家庭と企業の両方で起きている

中身をかき出したあとのアイシャドウなどのコスメの容器

化粧品の廃棄は、使い切れずに捨てる家庭だけでなく、原料や在庫を抱える化粧品企業、テスターや売れ残りが出る商業施設でも起きています。モーンガータは、この3つの場すべてで循環を生み出すことを目指しています。

家庭の側について、同社が朝日放送テレビの「Onnela」で行った独自調査(調査人数5,423名、2021年6月22日〜23日)では、余ったコスメを「罪悪感を抱えたまま捨てる」と答えた人が45.4%、「何も考えず捨てる」が40.9%でした。あわせて86.3%の人が、コスメを使い切れずに捨てていると回答した結果です。

廃棄が起きる場出てくるもの
家庭(消費者)使い切れずに残ったアイシャドウやチークなどのカラーコスメ
化粧品企業研究・生産で余った原料やバルク(中身)、流通で滞留した在庫・返品
商業施設(小売)店頭のテスターや売れ残り

化粧品には、きれいになることに加えて、自信や楽しさといった気持ちの豊かさをもたらす力がある、と同社は考えています。思い入れのあるものだからこそ、捨てるときに罪悪感が生まれるのです。この「捨てるときの気持ち」に寄り添うことが、同社の事業の土台にあります。

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「magic water」で不要なコスメを絵の具に変える

粉末のコスメを色材に変える溶液「magic water」

「magic water」は、粉末の化粧品を水に溶ける色材に変える、モーンガータが開発した溶液です。公式サイトでは国内特許登録済みと案内しています。家庭で手持ちのコスメと混ぜるだけで、絵の具や雑貨づくりに使える色材をつくれます。

回収に出すのではなく、自分の手で思い入れのあるコスメを別の形に変える体験そのものを大切にしているのが特徴です。同社は、自分で手を動かすことで捨てる罪悪感が軽くなり(ギルトフリー)、消費への意識も変わるのではないかと考えています。

magic waterの特徴内容
原料医薬部外品原料規格に合致した化粧品原料のみを使用
処方界面活性剤を使わずに、水へのなじみをよくしている
製造同社が処方を開発し、化粧品OEMメーカーに製造を委託。化粧品と同じラインで製造している
主な用途絵の具、ジェルネイル、キーホルダーなど

magic waterを付けた「SminkArtキット」のほか、化粧品企業から提供された廃棄予定のバルクでつくる粉末絵の具「SminkArt ときめくペイント」も販売中です。ときめくペイントは約50色をそろえていて、材料がそのとき出たバルクのため、各色とも一度きりの製造です。

化粧品の中身から印刷インキや建材などの工業素材を開発

化粧品由来の色材を使ったアクリル板

モーンガータは、化粧品企業から余った中身や原料を買い取り、他社の技術と組み合わせて工業用の素材を開発しています。同社によると、粉末状のバルクや原料の提供を受けている化粧品企業は19社以上にのぼります。

化粧品の中身は薬機法のもとで製造されているため、化審法やPRTR法、毒劇法といった一般的な工業の法規制をすでにクリアしており、素材としての使い勝手がよいのが強みです。さらに、既存の色材では出せない、化粧品ならではのラメやパールの発色を生かせます。

同社が公表している主な協業は、次のとおりです。

素材・製品協業先
印刷インキ「ecosme ink」TOPPAN株式会社(2022年10月発表)
水性ボールペン「SminkArt Pen」株式会社サクラクレパス(2023年10月発表)
紙再生ボード大日本印刷株式会社
アクリル樹脂UPCYCLE TOKYO合同会社、株式会社ワーズウィズ
館内装飾用の建材フクビ化学工業株式会社(新百合丘オーパで施工)

このほか、樹脂や内外装の塗料、金属への粉体塗装、衣類へのプリントなどに使える色材技術も形にしてきました。2022年には花王・コーセーとの協働も始まっています。

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ルミネや新百合丘オーパと進める不要コスメの回収

不要コスメの回収の様子

商業施設と組んで不要コスメを回収し、色材に変えて施設のノベルティや内装として還元する取り組みも進んでいます。集めるだけで終わらせず、回収したコスメが目に見える形で戻ってくることが特徴です。

ルミネとの協業で回収・分別の仕組みを構築

同社のプレスリリース(2025年12月18日)によると、2025年7月にルミネ6店で実施した回収では、約17,800個(約445kg)の不要コスメが集まりました。容器と中身、さらに中身を色ごとに分ける作業の負担が課題になったため、来場者が自分で中身をかき出して分別する「コスメの中身かき出しワークショップ」を組み合わせた仕組みに改めています。

2026年1月に始まった「ルミネ・ニュウマン エシカーニバル」では、対象を13店に広げました。回収したコスメはmagic waterで色材にし、ルミネのノベルティや店舗の内装などに使われています。

新百合丘オーパでは回収したコスメが館内の建材に

株式会社OPAのプレスリリース(2026年3月31日)によると、新百合丘オーパ(川崎市麻生区)では、館内で回収した廃棄コスメを建材にアップサイクルし、2階のパウダールームなどの装飾に採用しました。2025年9月のワークショップで来館者がかき出したコスメの中身を、モーンガータが色材にし、フクビ化学工業が建材に仕上げた3社の協業です。

静岡県SDGsビジネスアワードの県知事賞などを受賞

静岡県SDGsビジネスアワード2025の県知事賞の表彰

モーンガータの取り組みは、行政や業界団体のアワードでも評価されています。主な受賞・選出は次のとおりです。

時期受賞・選出
2024年10月ケリング社「ケリング・ジェネレーション・アワード・ジャパン」ファイナリスト11社に選出
2024年12月株式会社アイスタイル主催「The 5th Japan BeautyTech Awards」準大賞
2026年3月静岡県「静岡県SDGsビジネスアワード2025」県知事賞(最優秀賞)

静岡県の発表によると、県知事賞の対象は、三島市を実施場所とする「化粧品業界の再生利用事業ハブ『SminkArt』」です。選考理由には、化粧品をアップサイクルするストーリーの面白さや、生活者に寄り添う姿勢、ビジネスとしての完成度の高さが挙げられています。

これからは家庭のコスメ回収と企業の在庫の再販売へ

モーンガータは今後、家庭に眠る不要コスメを手軽に手放せる仕組みと、化粧品企業の滞留在庫を再販売する仕組みを一つにつなげる計画です。同社によると、その仕組みは「KriCos(クリコス)」の名前で準備が進められています。

同社の資料では、商業施設まで足を運ぶのが手間な人や、どう手放せばよいか分からない人に向けて、送られてきた袋に不要コスメを入れてポストから返送できる流れを描いています。あわせて、化粧品企業の在庫商品をリセール品として販売し、企業の廃棄も減らす構想です。

開始時期取り組み同社が示す想定・目標
2028年ユーザー分別回収プラットフォーム初年度に1万ユーザーの利用を想定
2028年在庫リセールプラットフォーム廃棄予定だった原価換算3.5億円の在庫商品の削減を想定
2030年行政との連携回収ボックスの設置、インターロッキングなどの建材を10以上の自治体へ提供
2035年海外進出メイクアップ化粧品の販売比率が高い海外市場への展開

PETボトルのように、化粧品にも「分別して回収に出す」文化を根づかせることが、同社の目指す姿です。

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担当者からのひとこと

モーンガータ代表の田中寿典さんからは、次のようなコメントが寄せられています。

当社は「人の心の持続性により、社会の持続性をもたらす」をミッションに掲げています。目指しているのは、化粧品を単なるゴミとして処理するのではなく、色材・素材・商品などの新たな価値へ再定義する仕組みをつくることです。同時に、再価値化する「行為」そのものを楽しく、面白く、参加したくなる体験に変えることで、PETボトルのような「分別・回収文化」を化粧品にも生み出したい。化粧品の廃棄によって生じている「罪悪感」「面倒」「捨て方がわからない」といった「終わり(Pain)」を、「誰かの役に立った」「もう一度価値になった」「参加して楽しかった」という「喜び(Gain)」へ変えていく。これが当社の考える「終わりのデザイン」です。つまり、化粧品の「使い終わり」を廃棄の終点にするのではなく、再び誰かが使う、別の素材として生まれ変わる、新たな商品や体験が生まれるという、次の価値の始点へとデザインし直す。その根幹にあるのは、SDGsやサステナビリティを「我慢」や「義務」として継続させるのではなく、人が「楽しい」「面白い」「やってみたい」と感じることによって自然に行動が続いていくという考え方です。環境負荷低減を目的として押し付けるのではなく、化粧品が本来持っている「きれいになる」「気持ちが上がる」「ワクワクする」といった感性的価値を、使い終わった後にもつなげる。「正しいからやる」のではなく、「やってみたいからやる」。その結果として資源が循環している。そのような状態をつくることで、人の心の持続性が社会の持続性につながることを目指しています。

取材協力:株式会社モーンガータ 代表取締役 田中 寿典様

株式会社モーンガータの会社概要

株式会社モーンガータの会社概要は、次のとおりです。

会社名株式会社モーンガータ(MÅNGATA Corporation)
代表者代表取締役 田中 寿典
設立2019年9月20日
資本金5,300万円
所在地東京都練馬区練馬1丁目5番4号
事業内容化粧品アップサイクル事業に伴う新規技術構築・企画イベント・システム開発
ブランドSminkArt(スミンクアート)
公式サイトhttps://man-gata.com/
Instagram@sminkart18
X@ArtSmink
TikTok@sminkart_mgt
FacebookSminkArt

よくある質問

モーンガータと化粧品のアップサイクルについて、よくある質問にお答えします。

Q
モーンガータはどんな会社ですか?
A

使い切れずに捨てられる化粧品を、絵の具や印刷インキ、建材などの色材にアップサイクルしている会社です。2019年に設立され、東京都練馬区に本社があります。

Q
SminkArt(スミンクアート)とは何ですか?
A

モーンガータが展開する、廃棄コスメを色材に変えるブランドです。Smink(スウェーデン語で化粧)とArt(美術)を組み合わせた名前で、絵の具に変えるキットや粉末絵の具、ボールペンなどの製品があります。

Q
magic waterで使えるのはどんな化粧品ですか?
A

アイシャドウやチークなど、粉末状のカラーコスメが対象です。magic waterと混ぜると水に溶ける色材になり、絵の具や、アクセサリー、ネイルなどの雑貨創作に使えます。

Q
使わなくなったコスメはどこで回収していますか?
A

ルミネや新百合丘オーパなどの商業施設で、期間を決めて回収やワークショップを行っています。開催予定の案内は、モーンガータや各施設の公式サイト・SNSが窓口です。

Q
企業から化粧品の在庫や原料を引き取ってもらえますか?
A

モーンガータは化粧品企業から余ったバルクや原料の提供を受け、色材や工業素材の資源として活用しています。相談の窓口は、公式サイトの問い合わせフォームです。

まとめ

モーンガータは、使い切れずに捨てられる化粧品を「楽しみながら100%有効活用する」ための仕組みをつくっている会社です。

  • 元化粧品開発者の田中寿典さんと姉の麻由里さんが、2019年に創業しました
  • 特許技術の「magic water」で、家庭の不要コスメを絵の具などの色材に変えられます
  • 化粧品企業の余った中身から、印刷インキやボールペン、建材などの工業素材を生み出しているのも強みです
  • ルミネや新百合丘オーパと組み、回収したコスメをノベルティや館内装飾として還元しています
  • 2026年3月には静岡県SDGsビジネスアワード2025で県知事賞に選ばれました

捨てるしかないと思っていたコスメにも、色として残る道があります。手元に眠っているコスメがあれば、SminkArtの製品や商業施設での回収イベントを、手放し方の選択肢の一つとして知っておくとよいでしょう。

この記事の執筆者

The Company Journal編集部

企業の取り組み・サステナビリティ・社会課題をテーマにした編集チーム。 企業や自治体の情報を編集部が一社ずつ確認し、 独自の基準で比較・整理した情報をお届けしています。