サステナビリティ開示とは?義務化の時期と対象企業を解説

サステナビリティ開示とは、企業が自社の環境・社会・ガバナンスに関する取り組みやリスクを、有価証券報告書などの法定書類で説明する制度です。2023年3月期決算から一部の記載がすでに義務化されており、2027年3月期以降はSSBJ基準に基づくより詳細な開示が、時価総額の大きいプライム市場企業から段階的に求められます。

この記事でわかること

  • サステナビリティ開示の意味と、有価証券報告書における位置づけ
  • 開示に必要な4つの要素(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標)
  • SSBJ基準の義務化スケジュールと対象企業の範囲
  • 中小企業や非上場企業にどこまで影響するか
  • 開示の準備を何から始めればよいか
  • 開示対応を支援する専門会社

サステナビリティ開示とは|基本の意味と位置づけ

サステナビリティ開示に関する資料を確認するビジネスパーソンの手元

サステナビリティ開示とは、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する取り組みやリスクを、財務情報とあわせて説明する制度です。

投資家は従来、売上や利益といった財務情報だけを見て投資判断をしてきました。しかし気候変動リスクや人的資本への投資といった要素も、企業の中長期的な価値に影響します。サステナビリティ開示は、この非財務情報を財務情報と同じ土俵で開示させることで、投資家が企業を比較検討できるようにする仕組みです。

開示される情報は企業によって書き方がばらばらだと、投資家は横並びで比較できません。そこで開示項目や算定方法を統一するための基準が必要になり、その役割を担うのが後述するSSBJ基準です。制度の全体像は「2023年の内閣府令改正で開示欄ができ、SSBJ基準がその記載内容を具体化していく」という順序で理解すると分かりやすくなります。

日本では2023年1月31日の「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正により、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」という記載欄が新設されました。

似た言葉に「サステナビリティレポート」や「統合報告書」がありますが、これらは企業が任意で発行する報告書です。サステナビリティ開示は有価証券報告書という法定書類の一部であるため、記載内容に誤りがあれば金融商品取引法上の責任を問われる点が、任意報告書との大きな違いです。この違いから、社内での確認体制や証跡の残し方も、任意開示より厳格に求められる傾向があります。

参照:金融庁「サステナビリティ情報の開示」

なぜ義務化が進むのか|有価証券報告書における位置づけ

サステナビリティ開示の義務化が進む背景には、国際的な非財務情報の標準化と、投資家の情報要求の高まりがあります。

きっかけは2023年3月期決算企業からの適用です。この改正により、有価証券報告書を提出するすべての企業が、サステナビリティに関する考え方や取組を記載欄に記入することになりました。あわせて「従業員の状況」の欄でも、女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差といった多様性指標の開示が求められています。

この2023年の改正はいわば第一段階で、記載する内容の骨格は各社の判断に委ねられていました。次の段階として、記載すべき項目や算定方法を統一する基準として登場したのがSSBJ基準です。SSBJ基準の詳細は後述します。

背景にはもう一つ、国際的な非財務情報の標準化の流れがあります。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が2023年に国際基準を公表し、各国がそれぞれ自国版の基準を整備する動きが広がりました。日本の投資家だけでなく海外投資家からも、国際的に比較可能な形でのサステナビリティ情報開示が求められるようになったことが、義務化を後押ししています。あわせて有価証券報告書は法定書類であるため、統合報告書のような任意報告書と異なり、記載内容の正確性について法的な責任が生じる点も大きな違いです。

開示の4要素|ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標

サステナビリティ開示の記載欄は、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標という4つの要素で構成されます。

この4要素は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提唱した枠組みと同じ構成です。4要素のうちガバナンスとリスク管理はすべての企業に開示が義務づけられている一方、戦略と指標及び目標は、人的資本に関する項目を除き、企業が重要性を判断したうえで記載するかどうかを決める仕組みになっています。

要素開示の要否記載する内容
ガバナンス全企業が開示サステナビリティ関連のリスク・機会を監督する体制
戦略人的資本は全企業が開示、それ以外は重要性に応じて判断事業・戦略・財務計画への影響
リスク管理全企業が開示リスクを識別・評価・管理するプロセス
指標及び目標人的資本は全企業が開示、それ以外は重要性に応じて判断取り組みの進捗を測る数値目標

4要素のうち「戦略」と「指標及び目標」で企業ごとの記載量に差が出やすいのは、開示の要否を各社の重要性判断に委ねているためです。自社の事業にとって気候変動リスクが小さいと判断すれば、その旨を記載したうえで詳細な数値目標を省略することも制度上は認められています。ただし判断の根拠があいまいなまま省略すると、投資家から説明不足と受け取られるおそれがあるため、重要性を判断した理由も含めて記載するのが実務上は無難です。

SSBJ基準と義務化スケジュール|2027年3月期から段階適用

サステナビリティ開示基準に関する資料とノートパソコン

SSBJ基準とは、サステナビリティ基準委員会が策定した日本独自の開示基準です。2027年3月期からプライム市場の大企業を対象に段階適用が始まります。

サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は2025年3月5日に、適用基準・一般基準・気候関連基準の3本からなるサステナビリティ開示基準を公表しました。2026年3月13日には基準の一部改正が行われ、2026年6月11日には温室効果ガス排出量の算定方法に関する実務基準も公表されています。

3本の基準はそれぞれ役割が異なります。適用基準は基準全体の使い方を定めるもの、一般基準はガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標という4要素の記載方法を分野横断で定めるもの、気候関連基準は気候変動に特化してScope1・2・3の温室効果ガス排出量など、より詳細な指標の開示を求めるものです。この3本を合わせて読むことで、有価証券報告書の記載欄に何を書けばよいかが具体的に定まる構成になっています。

2026年3月期からは任意適用が可能で、2027年3月期以降は下表のとおり時価総額に応じて段階的に義務化される見込みです。日本経済新聞(2026年1月8日付)の報道によれば、あわせてGHG排出量など一部項目の第三者保証も、義務化開始の翌年度以降に段階的に求められる予定です。

適用開始時期対象となる企業
2027年3月期以降プライム市場上場企業のうち時価総額3兆円以上
2028年3月期以降プライム市場上場企業のうち時価総額1兆円以上
2029年3月期以降プライム市場上場企業のうち時価総額5000億円以上

参照:サステナビリティ基準委員会「サステナビリティ開示基準」日本経済新聞「金融庁がサステナ開示で報告書 27年3月期から順次義務化」

自社は対象か?対象企業の範囲と中小企業・非上場企業への影響

義務化の直接対象は当面、プライム市場に上場する大企業に限られます。中小企業や非上場企業が法令上ただちに対象になるわけではありません。

2029年3月期の段階でも対象は時価総額5000億円以上のプライム市場企業までで、非上場企業や中小規模の上場企業は現時点の適用計画に含まれていません。一方で、大企業がサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量(Scope3)を開示する必要が出てくるため、取引先である中小企業がデータ提出を求められる場面は今後増えると見られています。

直接の義務がないからといって準備を先送りにすると、大企業からの依頼に対応できず取引条件で不利になる可能性があります。義務化対象でない企業でも、自社の温室効果ガス排出量や人的資本に関するデータを社内で把握しておくことが、今後の備えになります。

企業の区分現時点での位置づけ
時価総額5000億円以上のプライム市場企業2029年3月期までにSSBJ基準に基づく開示が義務化される見込み
それ以外のプライム市場企業・スタンダード市場企業2023年改正分の記載義務はあるが、SSBJ基準の適用計画は現時点で未定
非上場の中小企業法令上の直接義務はないが、取引先からのデータ提出要請が増える可能性がある

自社が対象かどうかを判断する目安としては、まず自社が有価証券報告書を提出しているかどうかを確認します。提出企業であれば2023年改正分の記載義務はすでに生じています。そのうえでプライム市場に上場しているか、時価総額がどの水準にあるかを確認すれば、SSBJ基準の適用時期の見込みが立てられます。非上場企業の場合は、主要取引先である大企業からアンケートやデータ提出の依頼が届いていないかを、営業部門や調達部門に確認しておくと、対応の要否を早期に把握できます。

企業に求められる実務対応|何から始めるべきか

実務対応は、対象時期の確認、既存報告書との重複整理、体制構築、データ収集の順に進めます。

  1. 自社が適用対象になる時期(2027年・2028年・2029年のいずれか、または対象外)を確認する。時価総額の推移によって対象年度が変わりうるため、定期的な見直しが必要です。
  2. 統合報告書やサステナビリティレポートですでに開示している内容と、有価証券報告書の記載欄との重複・不足を整理する。既存の取り組みを転記できる部分と、新たに整備が必要な部分を切り分けます。
  3. ガバナンス体制とリスク管理のプロセスを文書化する。取締役会や経営会議でサステナビリティ課題をどう監督しているかを、議事録などの根拠とあわせて整理します。
  4. 温室効果ガス排出量や人的資本など、指標のデータ収集・算定の体制を整える。事業部門ごとにデータの所在が異なることが多く、収集ルートの一本化が課題になりやすい工程です。
  5. 義務化前でも任意開示や早期適用から着手し、社内にノウハウを蓄積する。初年度からいきなり全項目を揃えようとせず、対応できる範囲から段階的に開示の質を高める進め方が現実的です。

早期対応の例として、キリンホールディングスは2026年3月27日、SSBJ基準に準拠したサステナビリティ関連財務開示を、日本企業として初めて日本語と英語で同時に開始したと発表しました。同社が義務化の対象になるのは2028年12月期で、法令上の義務化より3年前倒しで対応した形になります。

参照:キリンホールディングス ニュースリリース

サステナビリティ開示の対応を支援する会社6選

財務・サステナビリティ資料を囲んで打ち合わせをするビジネスパーソン

サステナビリティ開示の対応を支援する会社を6社紹介します。

開示の実務は、ガバナンス整備からデータ算定、第三者保証対応まで範囲が広く、監査法人系のコンサルティングファームからデータ管理に特化したサービスまで、複数の支援会社が存在します。自社に何が不足しているかが明確な場合は特化型のサービスを、何から手をつければよいか分からない場合はギャップ分析から伴走してくれる会社を選ぶと、進め方に迷いにくくなります。以下は各社の公式サイトの名称表記をもとに五十音順(英字表記の会社は五十音の末尾にアルファベット順で配置)で並べたもので、掲載順に優劣や推奨の意図はありません。

より多くの選択肢を比較検討したい場合は、サステナビリティコンサル7社を比較した記事もあわせてご覧ください。

会社名支援範囲特徴
SOMPOリスクマネジメントFit&Gap分析、ロードマップ策定生成AIを活用したギャップ分析
ゼロボードGHG排出量算定、第三者保証対応支援クラウド型のデータ管理サービス「Zeroboard ESG」
デロイト トーマツ開示・保証サービス全般SSBJ基準の解説から実務対応まで一貫支援
ニュートン・コンサルティングギャップ分析、体制構築の伴走支援資料作成の外注ではなく社内の自走化を重視
EY Japanデータ収集・保証を含むマネージドサービスSSBJとCSRDの同時対応を想定した体制構築
KPMGジャパン情報収集プロセス・内部統制構築支援グローバルネットワークを活かした複数基準への対応

SOMPOリスクマネジメント

SOMPOリスクマネジメントは、SSBJ基準への対応を支援するコンサルティングサービスを提供しています。

生成AIを使ってSSBJ基準と自社の開示情報とのギャップを分析したうえで、他社の対応事例を踏まえたロードマップを策定する流れで支援します。サステナビリティの取り組みと財務的な成果のつながりを可視化するロジックモデルの作成も特徴です。

参照:SOMPOリスクマネジメント公式サイト

ゼロボード

ゼロボードは、温室効果ガス排出量の算定からサステナビリティ開示までを支援するクラウドサービス「Zeroboard ESG」を提供しています。

2026年2月には、SSBJ対応企業向けにScope1・Scope2排出量の第三者保証対応を支援するパッケージの提供を開始しました。保証手続きそのものは外部の保証機関が行い、ゼロボードは算定根拠の整理や監査対応の伴走に特化しています。

参照:ゼロボード公式サイト

デロイト トーマツ

デロイト トーマツは、サステナビリティ情報の開示と保証の両面を支援するサービスを展開しています。

SSBJ基準の最新動向の解説から、開示体制の構築、保証対応まで一貫して支援できる体制を強みとしています。国内の温対法に基づくGHG排出量算定など、日本の制度特有の実務にも対応しています。

参照:デロイト トーマツ公式サイト

ニュートン・コンサルティング

ニュートン・コンサルティングは、ERM(全社的リスクマネジメント)を専門とするコンサルティング会社で、SSBJ基準への対応支援も手がけています。

現状とのギャップ分析やロードマップ策定に加え、ガバナンス体制の構築や指標・データ収集プロセスの整備まで支援します。資料作成を代行するのではなく、社内での議論や部門横断の体制づくりを伴走するアドバイザリー型を特徴としており、標準的な支援期間は6〜12カ月としています。

参照:ニュートン・コンサルティング公式サイト

EY Japan

EY Japanは、サステナビリティ情報の開示と保証を支援するサービスを提供しています。

SSBJ基準に加え、国際基準のISSB基準や欧州のCSRD/ESRDにも対応し、データ収集から保証まで一連の業務を請け負うマネージドサービスを展開しています。情報の信頼性を高めるための内部統制の設計や、エビデンス管理によるトレーサビリティの向上も支援範囲に含まれます。

参照:EY Japan公式サイト

KPMGジャパン

KPMGジャパンは、ISSB/SSBJ基準への対応を支援するリスクコンサルティングサービスを提供しています。

サステナビリティ情報の収集プロセスや内部統制の構築支援を中心に、気候シナリオ分析やマテリアリティの特定も支援範囲に含まれます。グローバルネットワークを活かし、SSBJ基準と海外の開示基準を同時に見据えた支援ができる点を特徴としています。

参照:KPMGジャパン公式サイト

よくある質問

サステナビリティ開示についてよく寄せられる質問をまとめました。

Q
サステナビリティ開示はいつから義務化されますか?
A

一部の記載は2023年3月期決算企業からすでに義務化されています。SSBJ基準に基づくより詳細な開示は、2027年3月期から時価総額3兆円以上のプライム市場企業を対象に段階的に始まる見込みです。

Q
中小企業や非上場企業にもサステナビリティ開示は必要ですか?
A

法令上の直接義務は今のところプライム市場の大企業が中心です。ただし取引先の大企業からサプライチェーン排出量のデータ提出を求められる場面が増えており、非上場の中小企業でも準備を始める動きが出ています。

Q
サステナビリティ開示と統合報告書はどう違いますか?
A

サステナビリティ開示は有価証券報告書に含まれる法定開示である一方、統合報告書は企業が任意で発行する報告書です。統合報告書は財務情報と非財務情報を統合して伝える点に主眼があります。

Q
SSBJ基準とISSB基準の違いは何ですか?
A

ISSB基準は国際サステナビリティ基準審議会が策定する国際基準で、SSBJ基準はそれを踏まえて日本の実情に合わせてサステナビリティ基準委員会が策定した国内基準です。両者は国際的な整合性を保つよう設計されています。

Q
サステナビリティ開示に第三者保証は必要ですか?
A

現時点では任意ですが、義務化対象企業では開示義務が始まった年度の翌年度以降、GHG排出量など一部項目について第三者保証の取得が段階的に求められる見込みです。

Q
サステナビリティ開示の対応は自社だけで進められますか?
A

既存のCSR・IR部門の体制で対応できる企業もありますが、データ収集の仕組みづくりや第三者保証への対応は専門知識が必要な場面が多く、コンサルティング会社やデータ管理サービスを利用する企業が増えています。

まとめ

サステナビリティ開示は、2023年の記載義務化を経て、2027年以降SSBJ基準への対応が段階的に求められる制度です。

直接の義務対象は当面プライム市場の大企業に限られますが、サプライチェーンを通じた影響は中小企業にも及び始めています。

自社が対象になる時期を確認し、既存の報告書との重複整理やデータ収集体制の構築から着手することが、義務化後の対応をスムーズにします。義務化の直接対象でない企業も、取引先からの要請に備えてデータ収集の仕組みだけ先に整えておくと、いざ対応が必要になったときの負担を抑えられます。専門的な支援が必要な場合は、本記事で紹介した会社への相談も選択肢になります。

開示の土台となるESG経営の始め方は、ESG経営とは?意味・メリットと中小企業の始め方を解説で詳しく解説しています。

開示内容を投資家に伝える任意の報告書については、統合報告書とは?8つの記載項目や作成手順・企業事例を解説も参考になります。

指標及び目標を具体的に設計する際は、ESG指標とは?企業が押さえるべき主要KPIと導入ステップを徹底解説もあわせてご確認ください。

この記事の執筆者

The Company Journal編集部

Webマーケティングを行う編集チーム。 サステナビリティ・社会課題・企業の取り組みをテーマに、 実務経験に基づいた情報発信を行っています。