脱炭素企業とは、温室効果ガスの排出削減に具体的な数値目標を掲げて取り組む企業のことで、企業規模を問わず「知る」「測る」「減らす」という3つのステップで始められます。
この記事でわかること
- 脱炭素企業の定義と、混同されやすい「カーボンニュートラル企業」との違い
- 脱炭素に取り組む企業が得られる具体的なメリット
- 中小企業が直面しやすい課題と、その乗り越え方
- 「知る」「測る」「減らす」で進める3ステップの取り組み方
- SBT・RE100など、取り組みの本気度を測る客観的な指標
- 実際に脱炭素に取り組む企業の事例と、支援・コンサルティング会社の一覧
脱炭素企業とは?定義と「カーボンニュートラル企業」との違い

脱炭素企業とは、事業活動から排出する温室効果ガスの削減に、具体的な目標と行動計画を持って取り組む企業を指します。
環境省は、企業が温室効果ガスの排出量を把握し削減に取り組む経営のあり方を「脱炭素経営」と呼び、規模の大小を問わずすべての企業が対象になるとしています。脱炭素は「排出量そのものを減らすこと」に軸足を置いた考え方で、排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」とは重なりつつも視点が異なります。そのため「脱炭素企業」と「カーボンニュートラル企業」は同じ文脈で使われることもありますが、本記事では排出削減の取り組み姿勢そのものを指す「脱炭素企業」に絞って解説します。
排出量を把握する際は、自社の工場や社用車から出る排出(Scope1)、購入した電力の使用に伴う排出(Scope2)、原材料の調達や製品の輸送・使用などサプライチェーン全体に広がる間接的な排出(Scope3)まで区分して考えるのが一般的です。特にScope3は取引先から算定・開示を求められる機会が増えており、脱炭素企業を名乗るうえで避けて通れない範囲になっています。
背景には国全体の方針転換もあります。2020年10月26日の所信表明演説で、当時の菅義偉首相が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」を宣言し、2021年4月には2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減する中間目標が示されました。これを受けて大企業がサプライチェーン全体に排出削減を求める動きが強まり、取引先である中小企業にも対応が波及しています。
参照:環境省「企業の脱炭素経営への取組状況」(2026年9月時点)、資源エネルギー庁「エネルギー白書2021」(2026年9月時点)
関連記事:脱炭素とは何か?基礎から最新事例までわかりやすく解説
脱炭素企業に取り組む3つのメリット
脱炭素に取り組む企業は、コスト・資金調達・採用という3つの方向で具体的な利点を得やすくなります。
エネルギーコストの削減につながる
省エネ設備への更新や再生可能エネルギーの導入は、脱炭素と同時に電気・燃料コストの削減にも直結します。老朽化した設備を見直す良いきっかけにもなり、後述するように照明のLED化だけでも消費電力を大きく抑えられるケースがあります。電気料金の変動が経営に響きやすい業種ほど、削減効果を実感しやすい取り組みといえます。
資金調達・取引で有利に働く
脱炭素経営に取り組む企業は、環境配慮を重視する金融機関から融資を受けやすくなる傾向があります。大手取引先がサプライチェーン全体(Scope3)での排出量削減を求めるケースも増えており、取引条件の維持・拡大にもつながります。逆に対応が遅れると、サプライチェーンから外れるリスクにもなり得ます。
採用活動でプラスに働く
環境への取り組み姿勢は、求職者が企業を選ぶ際の判断材料の一つになりつつあります。特に若い世代ほど企業の環境姿勢を重視する傾向があり、採用活動での訴求材料になります。自社サイトや採用ページで取り組みを具体的に発信できるかどうかも差になります。
脱炭素の取り組みで中小企業がつまずきやすい課題
最大の壁は初期費用の負担であり、次いで自社の排出量を把握するノウハウ不足が挙げられます。
省エネ設備や再生可能エネルギー設備の導入には初期投資がかかり、効果を実感できるまでに時間がかかる点がハードルになりやすいと指摘されています。また、自社の温室効果ガス排出量(Scope1〜3)を算定する専門知識を持つ人材が社内にいないケースも多く、担当者を新たに置く余裕がない企業ほど最初の一歩を踏み出しにくい要因になっています。こうした費用面の負担は、国や自治体の補助金を組み合わせることである程度軽減できます。
つまずきを避けるうえでは、次の3点を心がけると進めやすくなります。
- いきなり大規模な設備投資を計画せず、まず自社の排出量を把握することから始める
- 社内に専門知識を持つ人材がいない場合は、算定代行サービスやコンサルティング会社への相談を早めに検討する
- 補助金の公募時期や要件は年度によって変わるため、最新情報を都度確認する
関連記事:脱炭素補助金とは?種類・申請の流れと支援会社の選び方を解説
脱炭素企業になるための取り組み方|「知る」「測る」「減らす」3ステップ
環境省は中小規模事業者向けに、「知る」「測る」「減らす」の3段階で脱炭素経営を始める手順を示しています。
いきなり設備投資から始めるのではなく、まず自社の状況を把握し、排出量を数値で捉えたうえで対策を選ぶという順番が推奨されています。順番を飛ばして「減らす」から着手すると、効果の小さい対策に投資してしまう恐れがあります。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ①知る | 脱炭素経営の基礎知識と自社が置かれている状況を把握する | 公的機関のハンドブックなどで全体像をつかむ |
| ②測る | 自社の温室効果ガス排出量(Scope1〜3)を算定する | クラウドサービスや算定代行サービスを使うと着手しやすい |
| ③減らす | 省エネ設備の更新や再生可能エネルギーへの切り替えなど、具体策を実行する | 補助金を組み合わせて初期費用の負担を抑える |
参照:環境省「脱炭素経営の促進に関する各種ガイドの改定について」(2023年3月時点)
脱炭素企業を客観的に見極める指標|SBT・RE100などの認証
自己申告の目標だけでなく、第三者機関の認証やイニシアチブへの参加状況も脱炭素企業を見極める客観的な手がかりになります。
SBT(Science Based Targets)は、パリ協定が求める水準と整合した削減目標を掲げているかを国際的な枠組みが審査・認定する仕組みで、後述するアスクルのように取得を公表する企業が増えています。RE100は事業活動で使う電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際イニシアチブ、EV100は保有・リース車両の電動化を掲げる枠組みです。取引先や金融機関がこれらの認証・参加状況を確認材料にすることも増えており、脱炭素企業として対外的に示す際の共通言語になっています。加えて、気候関連の財務情報開示の枠組みであるTCFDや、環境情報の開示プラットフォームであるCDPへの回答を取引条件として求められる場面も増えており、これらへの対応状況もあわせて確認されることがあります。
脱炭素企業を支える公的支援体制は全国26地域に拡大
環境省の地域連携モデル事業は、2025年5月時点で全国26地域に広がっています。
この事業は、地域金融機関・自治体・商工会議所が連携して「知る」「測る」「減らす」の支援メニューを整える取り組みで、2023年度に16地域で始まり、2024年度には新たに10地域が加わりました。自社だけで進め方に迷う場合、こうした地域の相談窓口や、次で紹介する専門会社への相談も選択肢になります。
参照:環境省「地域ぐるみでの支援体制構築ガイドブックの公表について」(2025年5月時点)
脱炭素に取り組む企業の事例

業種を問わず、数値目標を掲げて着実に取り組みを進める企業が増えており、規模の大小も問いません。
ここでは、環境省が脱炭素経営のフォーラムで取り上げた企業を含め、各社が自社サイトで公表している取り組みを、五十音順で4社紹介します。物流業は車両や輸送手段の見直し、小売業は店舗の照明・空調設備の効率化というように、業種によって効果の出やすい対策が異なる点も、事例を見比べる際のポイントです。
アスクル株式会社
オフィス用品通販を手がけるアスクルは、2030年までに事業所・物流センターと配送車両のCO2排出量を実質ゼロにする「CO2ゼロチャレンジ」を掲げています。RE100・EV100に参加するほか、パリ協定と整合した削減目標としてSBT認定も取得しており、2030年の短期目標と2050年の長期目標の双方でScope3の削減を指標にしています。
参照:アスクル株式会社公式サイト(2026年9月時点)
佐川急便株式会社
物流大手の佐川急便は、2024年度末時点で23,602台の環境対応車を保有しており、2017年の10,289台から倍以上に増えました。2004年からは鉄道を使う「スーパーレールカーゴ」による輸送にも取り組み、1日あたり10tトラック56台分の積載量を鉄道にシフトしています。トラックと比較すると、列車は10分の1、船舶は5分の1程度のCO2排出量で輸送できる点が、モーダルシフトを進める理由になっています。
参照:佐川急便株式会社公式サイト(2026年9月時点)
セブン-イレブン・ジャパン株式会社
セブン-イレブン・ジャパンは環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」のもと、店舗運営に伴うCO2排出量を2030年までに2013年度比50%削減、2050年までに実質ゼロにする目標を掲げています。この宣言はCO2排出量削減・プラスチック対策・食品ロス及び食品リサイクル対策・持続可能な調達の4テーマで構成され、全国の店舗の4割以上で太陽光発電の電力を自家消費しています。
参照:セブン-イレブン・ジャパン株式会社公式サイト(2026年9月時点)
ミニストップ株式会社
ミニストップは、イオングループの「脱炭素ビジョン」に基づき、店舗で排出する温室効果ガスを総量でゼロにすることを目指しています。LED照明への切り替えにより、投光器で80%、店内・トイレの照明で40%のCO2排出量を削減できるとしており、毎年50〜100店舗で既存設備の入れ替えを進めながら、2026年以降は本部・各事務所の室内照明のLED化にも着手する方針です。
参照:ミニストップ株式会社公式サイト(2026年9月時点)
脱炭素支援・コンサルティング会社5社

自社だけで排出量算定や削減計画の立案が難しい場合、専門会社に相談する方法があります。
以下は、CO2排出量の見える化から削減支援、補助金活用まで、脱炭素に関わる支援を行う会社です。並び順は五十音順で、対応範囲の広さや実績を評価したランキングではありません。
アミタホールディングス株式会社
環境・社会課題に関するコンサルティングを長年手がける企業です。サステナブル経営への移行支援や循環型事業の創出、環境認証審査まで幅広く対応しています。企業単独では難しい業種横断の連携づくりに強みがあります。
参照:アミタホールディングス株式会社公式サイト(2026年9月時点)
株式会社ゼロボード
CO2排出量の算定・可視化に特化したクラウドサービス「Zeroboard」を提供しています。Scope1〜3のサプライチェーン排出量をクラウド上で一元管理・可視化できる点が特徴で、グループ会社や海外拠点のデータもまとめて把握できます。
参照:株式会社ゼロボード公式サイト(2026年9月時点)
アスエネ株式会社
CO2排出量の見える化・削減・報告をワンストップで支援するクラウドサービスを提供しています。累計導入社数22,000社以上という実績があり、Scope1〜3の算定からCDPやSBTiなど国際的な枠組みへの対応まで一体的にサポートします。
参照:アスエネ株式会社公式サイト(2026年9月時点)
キヤノンシステムアンドサポート株式会社
キヤノンMJグループの一員として、中小企業向けにCO2排出量の算定業務を代行するサービスを提供しています。情報整理からヒアリング、計算、報告までを一括して任せられる点が特徴です。
参照:キヤノンシステムアンドサポート株式会社公式サイト(2026年9月時点)
脱炭素化支援株式会社
名古屋を拠点に、中堅企業向けの省エネ法対応や補助金活用、CO2排出量算定を専門とするコンサルティングを行っています。国家資格「エネルギー管理士」の有資格者が対応し、カーボンクレジット取引の支援も行っています。
参照:脱炭素化支援株式会社公式サイト(2026年9月時点)
| 会社名 | 主なサービス | 特徴 |
|---|---|---|
| アミタホールディングス | サステナブル経営移行支援 | 循環型事業の創出まで対応 |
| ゼロボード | CO2見える化クラウド | Scope1〜3を一元管理 |
| アスエネ | CO2見える化・削減・報告 | 導入実績22,000社以上 |
| キヤノンシステムアンドサポート | CO2排出量算定代行 | 中小企業向けに一括代行 |
| 脱炭素化支援 | 省エネ法対応・補助金活用支援 | エネルギー管理士が対応 |
関連記事:脱炭素コンサルおすすめ8社を比較|対応範囲と実績で選ぶ
よくある質問
脱炭素企業に関して寄せられることが多い質問をまとめました。
温室効果ガスの排出削減に具体的な数値目標を掲げて取り組む企業のことです。企業規模を問わず、「知る」「測る」「減らす」の3ステップで始められ、SBTやRE100といった外部認証を取得して対外的に示す企業も増えています。
エネルギーコストの削減、金融機関からの融資のしやすさ、採用活動でのプラス効果という3つのメリットが期待できます。取引先からサプライチェーン全体の排出削減を求められるケースにも対応しやすくなります。
始められます。環境省は中小規模事業者向けに「知る」「測る」「減らす」の3段階の進め方を示しており、地域の金融機関や自治体、商工会議所と連携した相談窓口も全国26地域に整備されています。
脱炭素は排出量そのものを減らすことに軸足を置いた考え方で、カーボンニュートラルは排出量と吸収量を均衡させることを指します。重なる部分は多いものの、視点がやや異なります。
使えます。国や自治体は脱炭素設備の導入や省エネ投資を対象にした補助金を用意しており、初期費用の負担を軽減できます。対象や申請の流れは制度ごとに異なるため、事前の確認が欠かせません。
地域の商工会議所や金融機関の相談窓口のほか、CO2排出量の算定や削減計画づくりを専門とするコンサルティング会社に相談する方法があります。複数の選択肢を比較してから決めると失敗しにくくなります。
まとめ
脱炭素企業とは、温室効果ガスの排出削減に数値目標を持って取り組む企業のことで、規模を問わず「知る」「測る」「減らす」の3ステップで着手できます。コスト削減や資金調達、採用面でのメリットがある一方、費用や専門知識の不足が課題になりやすいため、SBTやRE100といった客観的な指標も参考にしながら、公的な相談窓口や専門会社を活用して進めるのが現実的な一歩です。まずは自社の排出量を把握するところから、無理のない範囲で着手することが、脱炭素企業への近道になります。