ELV規則は、EUが新車の設計から廃車の処理までを一本化して定めた規則です。新車に使う再生プラスチックを2032年から15%以上、2036年以降は25%以上とし、そのうち20%を廃車由来とする義務が柱になります。
日本でも環境省と経済産業省が産官学のコンソーシアムを立ち上げ、自動車向け再生プラスチックの供給体制づくりを進めています。この記事では、ELV規則の概要と適用時期、再生プラスチック義務の読み方、日本企業が直面する課題を整理し、国内で再生プラスチックに取り組む企業と採用事例を紹介します。
この記事でわかること
- ELV規則の正式名称・成立の経緯・主な要件
- 施行日と適用時期(2028年から順次)のスケジュール
- 再生プラスチック15%・25%・廃車由来20%の数え方
- 日本の再生プラスチック供給が抱える量・質・コストの課題
- 国内の再生プラスチック関連企業3社と自動車部品での採用事例
ELV規則とは?EUの自動車設計・廃車管理の新ルール
ELV規則とは、EUが自動車の設計段階から廃車後の処理まで共通の要件を課す規則で、2026年8月13日に施行されました。
参照:ジェトロ「EUの自動車設計・廃車(ELV)規則が施行、2028年から順次適用へ」(2026年8月19日掲載)
ELV規則の正式名称と成立までの流れ
ELV規則の正式名称は「自動車設計・廃車(ELV)管理における持続可能性要件に関する規則」です。ELVはEnd-of-Life Vehiclesの略で、使用済み自動車を指します。欧州委員会が2023年7月に提案し、2025年12月に政治合意に至りました。
その後、欧州議会が2026年6月18日に、EU理事会が2026年6月29日に採択し、2026年8月13日に施行されています。提案から施行まで約3年を要した規則です。
ELV規則が定める主な要件
ELV規則の要件は、再生材の利用義務だけではありません。自動車メーカーの責任、中古車の輸出、対象車両の範囲まで一つの規則にまとめられています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 再生プラスチックの利用 | 新車に2032年から15%以上、2036年以降は25%以上(うち20%は廃車由来) |
| 拡大生産者責任(EPR) | 2029年から自動車メーカーに適用 |
| 中古車の輸出 | 技術的に走行できない中古車の輸出を禁止(2031年以降) |
| 対象車両 | 2031年以降、二輪車と大型車を追加 |
| 鉄・アルミなどの再生材 | 鉄、アルミニウム、マグネシウム、重要原材料は、欧州委員会の実現可能性調査を経て、委任法令で目標値と適用開始時期を決定 |
この中で日本の製造業に最も直接響くのは再生プラスチックの利用義務で、新車の設計と素材調達の両方に影響する点が特徴です。
関連記事:欧州森林破壊防止規則(EUDR)を解説|適用日と日本企業の対応
ELV規則はいつから?施行日と適用時期のスケジュール
ELV規則は2026年8月13日に施行され、原則として2028年9月1日から適用されます。義務ごとに時期が分かれます。
| 時期 | 出来事・義務 |
|---|---|
| 2023年7月 | 欧州委員会が規則案を提案 |
| 2025年12月 | EU理事会と欧州議会が政治合意 |
| 2026年6月18日 | 欧州議会が採択 |
| 2026年6月29日 | EU理事会が採択 |
| 2026年8月13日 | 施行 |
| 2028年9月1日 | 原則としてこの日から適用開始 |
| 2029年 | 拡大生産者責任が自動車メーカーに適用 |
| 2031年以降 | 二輪車と大型車を対象に追加、走行できない中古車の輸出を禁止 |
| 2032年 | 新車の再生プラスチック利用率15%以上 |
| 2036年以降 | 新車の再生プラスチック利用率25%以上(うち20%は廃車由来) |
適用時期の読み方
施行と適用開始は別の日です。2026年8月13日の施行後、2028年9月1日が原則の適用開始日となり、各義務はその後に定められた時期に応じて段階的に適用されます。再生プラスチックの利用率が最初に問われるのは2032年からで、準備期間は数年あります。
これから委任法令で決まる事項
規則の本文だけでは決まっていない事項もあります。再生プラスチック利用率の計算・検証方法は委任規則で定められる予定で、今後の焦点とされています。鉄やアルミニウムなどの目標値も、実現可能性調査を経て委任法令で決まります。
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ELV規則の再生プラスチック義務|15%・25%・廃車由来20%の読み方

新車のプラスチックの15%以上(2032年から)、25%以上(2036年以降)を再生材とし、そのうち20%は廃車由来とする義務です。
当初案から最終合意までの変更点
環境省の資料によると、三者協議を経た暫定合意は2025年12月12日に発表され、2026年2月25日に条文案が公表されました。欧州委員会の当初案と比べると、義務の水準は段階的に緩やかになっています。
| 項目 | 欧州委員会案(2023年7月) | 最終条文(2026年2月25日時点) |
|---|---|---|
| 再生プラスチック含有量 | 2031年に25% | 規則施行6年後に15%、10年後に25% |
| うち自動車由来 | 25%の25%(6.25%) | 20%(6年後は全体の3%、10年後は全体の5%) |
| 対象車両 | 乗用車、バン | 委員会案に二輪車、乗客輸送車両、貨物輸送車両、トレーラーを追加(一部の特殊用途車両は適用除外) |
つまり義務の中心は『段階的に15%から25%へ』という導入方式です。
参照:環境省「自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム 開催結果」(2026年3月)
廃車由来の再生プラスチックの数え方
廃車由来の再生プラスチックとは、環境省の整理では使用済み自動車から回収したものに加え、使用段階で取り外した部品由来のものを含みます。たとえば15%のうち20%は全体の3%、25%のうち20%は全体の5%に当たり、廃車由来分は全体の3%から5%という計算になります。
廃車由来の再生プラスチックを自動車部品に使う国内の取り組みは、後述の採用事例で紹介します。
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ELV規則と日本企業|国内の再生プラスチック供給の課題

日本では自動車向けの再生プラスチックについて、量・質・コストの3点が課題とされ、環境省が産官学で対策を検討しています。
環境省は経済産業省と連携し、2024年11月20日に産官学のコンソーシアムを立ち上げました。背景には、廃プラスチックの約6割が熱回収にとどまり、国内でマテリアルリサイクルされたプラスチックの約7割が輸出されているという国内の現状があります。
参照:環境省「自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム アクションプラン【概要版】」(2026年3月)
量の課題|供給見込みが目標を下回る
環境省の試算では、資源回収インセンティブ制度とプラスチック資源循環促進法が一定程度普及する現状維持のシナリオで、2041年時点の供給見込み量は約6.9〜9.5万トンです。供給量の目標である20万トンに対して将来的にも不足する見込みと示されています。この試算はポリプロピレンのみを対象にしたものです。
質の課題|同じ由来でも品質にばらつき
環境省の品質評価では、自動車向けに使える可能性のある原料が一定数ある一方、同一由来でも品質のばらつきが確認されました。日本自動車工業会が公表する汎用ポリプロピレンの目標値をすべて満たしたサンプルは14%で、品質の底上げと均質化が必要と整理されています。
なお、この14%は評価した試料に限った結果です。市場に流通する再生プラスチックの14%が自動車に使えるという意味ではないと、環境省も注記しています。
コストの課題と再生プラスチック集約拠点
環境省の試算では、再生プラスチックの製造コストはバージン材の販売価格を上回りました。コストを下げるには大規模化と集約化が必要とされ、各リサイクラーの再生プラスチックを全国の数か所で束ねる「再生プラスチック集約拠点」の整備が提案されています。
環境省のロードマップ案には、再生材の利用計画の提出と報告の義務化(2027年6月から)も示されています。ただし、時間軸や施策の具体的な内容は現時点のイメージで、今後の検討で変わる可能性があると資料に記載されています。
| 課題 | 環境省の整理 | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 量 | 2041年の供給見込みは約6.9〜9.5万トンで、目標の20万トンに不足(ポリプロピレンのみの試算) | 回収量の拡大、設備導入支援 |
| 質 | 同一由来でも品質にばらつき。目標値をすべて満たしたサンプルは14%(評価試料のみ) | 均質化・安定化、サプライチェーン全体での最適化 |
| コスト | 製造コストがバージン材の販売価格を上回る試算 | 大規模化・集約化、環境価値の訴求 |
ELV規則に向けて日本企業が取れる対応の進め方
まず自社の製品が自動車向けかを整理し、再生材の利用状況と調達先を確認する順で検討を始めるのが現実的です。
環境省は、課題を踏まえた施策の方向性を次の5つの軸に整理しています。企業の側から見ると、どの軸に自社が関わるかを確かめることが出発点になります。
| 施策の軸 | 内容 |
|---|---|
| 1 国内資源循環量の最大化 | 量の確保、域外流出の防止、分別排出・回収スキームの高度化 |
| 2 技術導入 | 再生プラスチックの回収・製造技術の高度化・量産化・標準化 |
| 3 再生プラスチック拡大設計 | 設計段階の工夫、解体効率向上に向けた情報連携 |
| 4 情報連携基盤の活用 | トレーサビリティ、品質の可視化、需給マッチング |
| 5 再生プラスチックの価値訴求 | 認証制度、再生プラスチックを使った車両を評価・価値化する仕組みづくり |
自社の立ち位置を3つの問いで確かめると、次の行動が見えやすくなります。
- 自社の製品や部品は、自動車向け、とくに欧州向けの車両に使われているか
- 使っている樹脂の種類と、再生材への置き換えの余地はどれくらいか
- 再生材の調達先として、リサイクラーやコンパウンダーの情報を集められているか
ELV規則への対応を支える国内の再生プラスチック関連企業
国内で自動車向けを含む再生プラスチックの製造・供給に取り組む企業を3社紹介します。
ここでは、各社の公式サイトや公式発表で事業内容を確認できた3社を、社名の五十音順に並べています。掲載順は優劣や推奨度を示すものではありません。確認できた企業が3社にとどまったため、5社には満たない掲載です。企業の選定は編集部が公開情報から行っています。
石塚化学産業株式会社
石塚化学産業は、1954年創業のプラスチック原料の総合メーカーです。
支援の範囲は、国内材・輸入材を扱う商社事業、顧客ごとのコンパウンド製造を行う着色・コンパウンド事業、リサイクル事業の3つで、これらを組み合わせたワンストップの提案も行っています。
特徴は、三井化学と共同で環境省の再生プラスチック安定供給FS事業に採択されたことです。両社の発表では、全国に廃プラスチックの回収・集約のネットワークを持ち、自動車・家電・オフィス家具などの分野への供給実績があるとされています。
参照:石塚化学産業株式会社 リサイクル事業(2026年10月時点)、三井化学・石塚化学産業「環境省 FS事業に採択」ニュースリリース(2026年5月18日)
株式会社プラニック
プラニックは、静岡県御前崎市の工場で自動車・家電などの使用済みプラスチックを再生プラスチックにする会社です。
支援の範囲は、再生プラスチックの開発・販売、再生プラスチックの共同開発、水平リサイクルなどの相談で、受け入れ対象はすべてプラスチック製の家庭用品や事業所の製品に限られます。
特徴は、欧州で実用化された重液と軽液を使う比重選別と静電選別を国内で初めて導入している点です。PP、PE、PS、ABSなど複数の樹脂を混合物から選別でき、年間約4万トンのマテリアルリサイクルを目標にしています。
参照:株式会社プラニック 事業内容(2026年10月時点)
三井化学株式会社
三井化学は、バイオマス由来の「BePLAYER」とリサイクル由来の「RePLAYER」の2ブランドで資源循環に取り組む化学メーカーです。
RePLAYERの範囲は、廃プラスチックを再び原料にするマテリアルリサイクルと、熱分解油などに戻すケミカルリサイクル、マスバランス方式による誘導品の製造・販売です。
特徴は、マテリアルリサイクルでは処理できない複合素材などをケミカルリサイクルで扱う点で、2024年3月に廃プラスチック由来の熱分解油を大阪工場の分解炉に投入し、誘導品の販売を始めています。静脈企業と動脈企業の連携を重視し、石塚化学産業とFS事業に取り組んでいます。
参照:三井化学株式会社 RePLAYER(2026年10月時点)
| 企業名 | 主な事業 | 自動車向け再生プラスチックとの接点 |
|---|---|---|
| 石塚化学産業株式会社 | 商社・着色コンパウンド・リサイクル | 三井化学と環境省のFS事業に採択 |
| 株式会社プラニック | 使用済みプラスチックの再資源化 | 自動車・家電の混合プラスチックを選別して再生 |
| 三井化学株式会社 | 化学品・RePLAYERによる資源循環 | マテリアル・ケミカルの両リサイクルとFS事業 |
ELV規則を見据えた再生プラスチックの採用事例
国内ではすでに、廃車や自動車破砕残さ由来の再生プラスチックを自動車部品に使う事例が出ています。
トヨタ自動車|クラウン(スポーツ)のフロントフェンダシール
トヨタ自動車は国内の自動車メーカーです。
プラニックが製造した、自動車破砕残さ(ASR)由来を含む再生プラスチックが、クラウン(スポーツ)のフロントフェンダシールに採用されました。国内のトヨタ車で初の採用と豊田通商が発表しています。
豊田通商の発表では、プラニックは欧州で実用化された高度な比重選別技術・設備を国内で初めて導入したと説明されています。
参照:豊田通商「プラニックのASR由来再生プラスチック、クラウン(スポーツ)に国内トヨタ車で初採用」(2025年7月18日)
トヨタ自動車|新型RAV4のボディアンダーカバー
トヨタ自動車の新型RAV4でも、プラニック製のASR由来を主とした再生コンパウンドペレットが使われています。
採用部品は、車両底部を飛び石や水、泥から守るボディアンダーカバーです。国内のトヨタ車の単一部品に100%使用される初の事例とされ、プラニックにとってはトヨタ車への2例目の採用でした。
参照:豊田通商「プラニック製ASR由来再生プラスチックの新型RAV4採用」(2025年12月17日)
豊田合成|廃車由来ポリプロピレン50%配合のグローブボックス
豊田合成は、樹脂・ゴム部品などを手がける自動車部品メーカーです。
廃車から回収したポリプロピレンを50%配合しても新材と同等の性能を持つ再生プラスチックを開発し、自動車部品の品質基準で実用化しました。グローブボックスなどの内装部品に使われ、耐衝撃性が必要な内装部品への実用化は世界初と同社は発表しています(同社調べ)。
同社の発表では、この再生材を部品の生産に使うと、部品の大きさによってCO2排出量を最大で約40%削減できるとされています。最初の適用先はトヨタ・カムリで、2024年から量産されています。
参照:豊田合成「廃車由来プラスチックの水平リサイクル技術を実用化」(2025年5月20日)
よくある質問
ELV規則について検索されることの多い疑問に、確認できた範囲でお答えします。
2026年8月13日に施行され、原則として2028年9月1日から適用されます。各義務は定められた時期に応じて段階的に適用され、再生プラスチックの利用義務は2032年からです。
新車に2032年から15%以上、2036年以降は25%以上の利用が義務付けられ、うち20%は廃車由来とされています。算定・検証の方法は、今後委任規則で定められる予定です。
日本でも環境省と経済産業省が産官学のコンソーシアムを立ち上げ、自動車向け再生プラスチックの市場構築を検討しています。個々の企業への適用範囲は、規則の条文と取引先の方針で確認してください。
乗用車とバンが中心で、ジェトロの解説では2031年以降に二輪車と大型車が追加されます。環境省の資料では、一部の特殊用途車両は適用除外とされています。
使用済み自動車から回収したプラスチックを再生したもので、環境省の整理では使用段階で取り外した部品由来のものも含みます。国内では自動車破砕残さ由来の再生プラスチックが、トヨタ車の部品に採用された例があります。
まとめ
ELV規則の要点と、日本企業が押さえておきたい点を整理します。
- ELV規則は2026年8月13日に施行され、原則として2028年9月1日から適用される
- 新車の再生プラスチック利用率は2032年から15%以上、2036年以降は25%以上で、うち20%は廃車由来
- 日本の再生プラスチック供給は量・質・コストの3点が課題で、環境省が集約拠点の整備などを検討している
- 国内ではプラニックや豊田合成などが、廃車・ASR由来の再生プラスチックを自動車部品に実用化している
- 再生プラスチックの調達先を探す際は、石塚化学産業・プラニック・三井化学のような関連企業の事業内容を確認する