マスバランス方式(物質収支方式)は、バイオマスやリサイクル原料と化石由来原料を混合して製造する際に、投入した持続可能原料の量に応じて製品の一部にその環境価値を割り当てる管理手法です。プラスチックや化学製品を中心に、脱炭素・循環型経済の実現に向けた取り組みとして、国内外の企業に急速に普及しています。
この記事でわかること
- マスバランス方式の定義と基本的な仕組みをわかりやすく解説
- 実際の計算方法・数式のロジックを具体例で紹介
- 三井化学・旭化成などの国内企業の導入事例を紹介
- グリーンウォッシュ批判など、課題と注意点も整理
マスバランス方式とは:基本的な定義と仕組み

マスバランス方式は、日本の環境省が「原料から製品までの加工・流通工程で、バイオマスなど特定の特性を持つ原料が他の原料と混合される場合、投入量に応じて製品の一部にその特性を割り当てる手法」と定義しています。「物質収支方式」とも呼ばれ、入力(原料)と出力(製品)の量のバランスを厳格に管理する枠組みです。
混ぜてもOK:マスバランス方式の発想の転換
従来の「セグリゲーション方式」では、バイオマス原料と化石由来原料を製造工程全体にわたって物理的に分離して管理します。一方、マスバランス方式では分離を必要とせず、混合したまま製造できます。その代わりに、一定期間内にバイオマス原料を何トン投入したかを記録し、その投入量を上限として「バイオマス由来」の環境価値を製品に割り当てます。
たとえば三井化学は、バイオマス原料3トンと石油由来原料7トンを混ぜて10トンのプラスチックを製造する例を紹介しています。単純な配合比率では「バイオマス30%」ですが、マスバランス方式では10トンのうち3トンを「100%バイオマス由来」と割り当て、残り7トンを石油由来とみなすことができます。
セグリゲーション方式との違い
セグリゲーション方式は信頼性が高い反面、製造ラインの大規模改修が必要なため、コストが大きな課題となります。マスバランス方式は既存の設備をそのまま活用できるため、初期投資を抑えながら持続可能な素材への転換を進められます。この点が、化学・プラスチック産業など複雑なサプライチェーンを持つ分野で広く採用されている理由のひとつです。
マスバランス計算の考え方:数式と具体例

マスバランス方式の核心は「入力と出力の質量バランスの管理」にあります。環境省の資料では、一定期間内のバイオマス由来原料の投入量を上限として、製品に割り当てられるバイオマス由来量が決まると説明されています。
基本的な計算ロジック
計算の流れを整理すると、以下のようになります。
まず、期間内の投入量を把握します。バイオマス由来原料量をMbio、化石由来原料量をMfossilとすると、総投入量Minは「Min = Mbio + Mfossil」で表されます。次に、期間内の製品総量をMproductとします。損失等を無視した理論値では「Mproduct = Min」となります。そして「100%バイオマスとして割り当て可能な製品量の上限(Mbio_alloc)はMbio以下」というルールが適用されます。
旭化成の例では、バイオマス原料4トンと石油由来原料8トンを混合して12トンの製品を製造する場合、配合比率上はバイオマス33%ですが、マスバランス方式を適用すると「12トンのうち4トンをバイオマス原料由来100%」と割り当てることができます。
表示・ラベリングのルール
計算の結果をどのように表示するかにも注意が必要です。環境省の資料や関連解説では、「製品中の実際のバイオマス含有量にとらわれず環境価値を割り当てる」という考え方である一方、表示については誤解を招かない表記が求められています。
「バイオマス原料由来を○%割り当てたプラスチック」という表現は許容されますが、「含有」「配合」といった、実際の配合量と誤認させる表現はグリーンウォッシュと見なされるリスクがあります。「割り当て(アロケーション)」であることを明示する表記が、透明性確保の基本です。
マスバランス方式 事例:国内外の企業の取り組み

マスバランス方式は、プラスチック・化学製品を中心に、鉄鋼分野まで幅広く活用されています。ここでは、日本の主要企業の事例と、海外における動向を紹介します。
三井化学の取り組み
三井化学は、バイオマスやリサイクル原料を従来の石油由来ナフサと混合し、マスバランス方式によって「バイオマス由来」として認定する仕組みを採用しています。自社のバイオマス&リサイクルブランドにおいて、ISCC PLUSなどの国際認証を取得しながらマスバランス方式製品を展開しており、顧客の環境配慮製品ニーズに対応しています。
旭化成の取り組み
旭化成は、エンジニアリングプラスチックにバイオマス原料を活用し、マスバランス方式と国際認証を組み合わせて環境配慮型製品のラインアップを拡大しています。既存設備を活用しながらバイオマス原料を導入できることと、サプライチェーン全体で環境価値を連携できることを、主なメリットとして挙げています。
鉄鋼分野での事例と課題
マスバランス方式はプラスチックにとどまらず、鉄鋼分野にも広がっています。韓国POSCO社は、マスバランス方式を用いた低排出製品「Greenate」を展開しました。しかし、国際NGO等からは「世界基準と乖離したグリーンウォッシュ」との批判が出され、環境当局の指導後に宣伝が抑制されたという事例があります。この事例は、鉄鋼分野でのマスバランス方式の適用が「国際的な基準との乖離」「透明性不足」と批判されうることを示しています。
環境省による国内動向の整理
環境省は「マスバランス方式に関する国内外の状況」資料を通じて、化学・プラスチック産業における導入状況や、ISCC PLUSなどの国際認証スキームへの対応状況を整理しています。ワークショップ等を通じて、バイオマス割当プラスチックの信頼性確保、表示ルール、海外制度との比較なども解説されています。
マスバランス方式の批判:課題とグリーンウォッシュのリスク

マスバランス方式には多くのメリットがある一方、「実際の物質の流れと表示が乖離しうる」という根本的な課題があります。環境省の資料や民間の解説記事も、この点を誤解を招く可能性として指摘しています。
グリーンウォッシュ批判の背景
実際にはバイオマスの含有量が少なくても、マスバランスの割り当てにより「100%バイオマス」と表示されるケースがありえます。これを不適切に利用した場合、「実態よりも環境に配慮しているように見せる」グリーンウォッシュと批判されるリスクが高まります。前述のPOSCO「Greenate」の事例は、その典型として国際的に注目されています。
信頼性と透明性を担保するための条件
マスバランス方式の信頼性を確保するためには、第三者認証と厳格なトレーサビリティが不可欠です。環境省も企業もこの点を強調しています。三井化学や旭化成は、ISCC PLUSなどの国際認証スキームに基づく監査を受けることで、「入力と出力のバランスが適切に管理されていること」を担保していると説明しています。
表示においては「バイオマス原料由来を○%割り当て」という、割当であることを明示した表現が求められます。「含有」「配合」という語を避けることが、ステークホルダーへの透明性確保に直結します。認証取得・適切な表示・外部監査の三点が、グリーンウォッシュ批判を避けるための基本的な対策といえます。
よくある質問

Q1:マスバランス方式はどのような産業で使われていますか
主にプラスチック・化学製品の分野で活用されています。環境省や企業サイトでは「樹脂」「化学製品」が具体例として挙げられています。近年は鉄鋼・紙・パルプ・パーム油など、他の産業分野への拡大も見られます。サプライチェーンが複雑で原料の物理的分離が難しい産業において、特に有効な手法とされています。
Q2:ISCC PLUSとはどのような認証ですか
ISCC PLUSは、バイオマスやリサイクル原料の持続可能性を証明するための国際認証スキームです。マスバランス方式においては、原料の投入量と製品への割り当てが適切に管理されていることを第三者が監査・認証します。三井化学や旭化成をはじめ、多くの日本企業がこの認証を取得してマスバランス方式製品の信頼性を担保しています。
Q3:マスバランス方式とセグリゲーション方式はどちらが優れていますか
どちらが優れているかは、目的や状況によって異なります。セグリゲーション方式は原料を物理的に分離するため信頼性が高い反面、設備の大規模改修が必要でコストがかかります。マスバランス方式は既存設備を活用でき導入コストを抑えられますが、表示の透明性確保や第三者認証が重要になります。導入のしやすさではマスバランス方式が優れており、現実的な移行手段として広く採用されています。
Q4:マスバランス方式の製品を購入することに環境的な意味はありますか
適切な認証と透明性のある表示に基づくマスバランス方式製品を購入することは、バイオマス原料やリサイクル原料の需要を高め、その普及を促進することにつながります。物理的に製品自体がバイオマス原料のみでできているわけではありませんが、サプライチェーン全体でのバイオマス利用拡大に貢献するという点で、環境的な意義があると整理されています。
まとめ

マスバランス方式は、環境配慮原料の投入量に基づいて製品に環境価値を割り当てる手法です。既存設備を変えずに導入できる実用性が評価される一方、グリーンウォッシュ懸念を避けるためには第三者認証と正確な表示が不可欠です。国内では三井化学や旭化成がISCC PLUSと組み合わせて導入を進めており、エコマーク制度でも申請対象に加わるなど、制度面の整備も進んでいます。
この記事のまとめ
- マスバランス方式は、バイオマス等の原料の投入量に応じて製品に環境価値を割り当てる手法で、既存設備を活用しながら持続可能素材への転換を可能にします。
- 基本的な計算ロジックは「投入したバイオマス量を上限として、製品への割り当て量を決める」という仕組みです。
- 三井化学・旭化成などが国内で積極的に導入し、ISCC PLUSなどの国際認証と組み合わせて信頼性を担保しています。
- グリーンウォッシュ批判を避けるには、「含有」ではなく「割り当て」であることを明示した表示と第三者認証が不可欠です。
- プラスチック・化学製品だけでなく、鉄鋼など他の産業にも広がっていますが、国際基準との整合性と透明性の確保が今後の課題です。

