地球温暖化への対策が急がれる中、二酸化炭素(CO₂)を排出するだけでなく「資源として活用する」という新しい発想が注目を集めています。住友電気工業株式会社が開発した「metacol™(メタコル)」は、CO₂と金属から生まれる環境調和型素材として、カーボンニュートラル社会の実現に貢献することが期待されています。
本記事では、metacolの基本的な特徴から、その開発背景、製造技術、具体的な用途事例まで、初心者の方にもわかりやすく詳しくご紹介します。metacolがどのように私たちの暮らしを変え、地球環境を守る選択肢となりうるのか、その全貌をご覧ください。
metacolとは何か?CO₂を資源に変える革新的素材

metacolは、住友電工が開発した「CO₂と金属から作られる新しい産業素材ブランド」です。このセクションでは、metacolの定義と基本的な特徴について解説します。
metacolは、モノづくりをする人とモノを使う人にとっての新しい選択肢となり、一人ひとりがカーボンニュートラルへの参画を実感できる社会の実現に貢献することを目指した、CO₂と金属でつくる未来素材です。従来の素材開発が「いかにCO₂排出を減らすか」に主眼を置いていたのに対し、metacolは「CO₂を活かす」という発想の転換が特徴的です。
metacolの基本構造と材料特性
metacolは、CO₂と入手しやすい金属から出来たセラミックス素材で、天然の鉱物としても存在し低環境負荷であることが特徴です。技術的には、鉄とCO₂から機能性素材である炭酸鉄を生産する方法が開発されています。
この素材は、CO₂を化学的に固定化した状態で保持するため、製品として使用されている間もCO₂を大気から隔離し続けることができます。つまり、metacolを使った製品を使うことが、そのままCO₂削減への貢献につながるのです。
再生プラスチックとの複合化による可能性
metacolは再生プラスチックと混ぜて新たな製品に加工することが可能です。この特性により、廃棄プラスチックの有効活用とCO₂削減を同時に実現できる点が大きな魅力です。樹脂との複合材として成形することで、文房具から日用品、産業用部品まで、幅広い製品への応用が期待されています。
metacolの環境的意義
CO₂も金属も紙もプラスチックも、大切な資源として捉え、みんなで集めて、みんなで使うという新しい当たり前を実現することがmetacolのコンセプトです。単なる環境技術ではなく、社会全体で循環型経済を構築するための素材プラットフォームとしての役割が期待されています。
カーボンニュートラルを超える技術開発の背景

metacolの開発背景には、日本が掲げる2050年カーボンニュートラル目標と、それを超える「カーボンマイナス」の実現という野心的な目標があります。このセクションでは、metacol開発に至った社会的背景と技術開発の経緯を詳しく見ていきます。
2050年カーボンニュートラルへの挑戦
住友電工は、2022年5月に発表した長期ビジョン「住友電工グループ2030ビジョン」において、持続可能な社会経済を目指したCO₂分離回収や材料循環利用の研究開発の活性化とスピードアップを策定し、2050年のカーボンニュートラルの達成に向けてグループの総力を挙げて取り組んでいます。
この目標達成のためには、単にCO₂排出量を削減するだけでなく、排出されたCO₂を回収して有効活用する「カーボンリサイクル」の技術が不可欠です。metacolは、まさにこのカーボンリサイクルを実現する中核技術として位置づけられています。
カーボンマイナスという新しい概念
カーボンマイナスとは、「CO₂排出量=CO₂吸収量」であるカーボンニュートラルに対し、「CO₂排出量<CO₂吸収量」となることを指します。住友電工は、既存のカーボンニュートラル設備にCO₂吸収技術を実装することで、排出抑制と吸収したCO₂の再利用(カーボンリサイクル)の両側面からカーボンマイナスを実現しようとしています。
この取り組みは、単なる環境対策の枠を超えて、新しい産業創造につながる可能性を秘めています。
カーボンリサイクルの実現に向けた産学官連携
住友電工は、カーボンリサイクルの実現には、CO₂を素材化して日本のすぐれたものづくりに活用していくことが必要と考え、「炭酸金属粉を生成するCO₂回収・資源化技術と装置の開発・実証及び炭酸金属粉を原料とした製品の商用化」に取り組んでいます。
この取り組みは、大阪府の「カーボンニュートラル技術開発・実証事業」による支援を受けており、産学官が一体となった社会実装を目指しています。住友電工は、株式会社三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行株式会社、一般社団法人関西イノベーションセンターとの4者で基本合意を締結し、協業体制を構築しています。
2025年大阪・関西万博での展示
住友電工は2025年日本国際博覧会に「住友館」を出展する住友EXPO2025推進委員会に参加しており、人々の心を動かし、時代に変化を与え、未来への希望を創出できるような展示の実現を目指しています。metacolの技術は万博会場でも紹介されており、国内外に向けた情報発信の場として活用されています。
metacolの製造技術と品質管理の仕組み

metacolの製造には、CO₂回収・固定化技術と炭酸鉄合成技術という、独自の技術体系が用いられています。このセクションでは、metacolがどのように製造され、品質が保証されているのかを解説します。
CO₂回収・固定化装置の仕組み
metacol製造の第一段階は、排煙などからCO₂を効率的に回収することです。住友電工が開発したCO₂吸収・固定化装置は、バイオマスボイラーなどの排煙中のCO₂を原料として活用することができます。
この装置は、既存の設備に後付けで設置することが可能なため、工場や発電所など、さまざまな施設での導入が検討されています。回収されたCO₂は、次の工程で金属と反応させることで、安定した固体素材へと変換されます。
炭酸鉄合成の実用性検証
住友電工は、原理検証、機能性評価、装置設計、工場実証、知財保護を経て、炭酸鉄合成の実用化に向けた取り組みを進めています。具体的には、住友電工焼結合金株式会社本社工場、住友電工大阪製作所、住友電工伊丹製作所での工場実証を経て、CO₂収支の確認が行われました。
この検証により、炭酸鉄合成を通じてCO₂収支マイナスを達成できることが確認されており、技術的な実用性が証明されています。
知的財産の保護と技術ブランド化
住友電工は、実用化に備えて、炭酸鉄素材、合成方法、炭酸鉄合成装置、炭酸鉄樹脂複合材とその用途やビジネスモデルの特許を出願しました。また技術ブランドの商標「metacol」を出願しています。
このような包括的な知的財産戦略により、metacol技術の独自性が保護されると同時に、ブランド価値の向上と市場での差別化が図られています。
CO₂収支マイナスの達成
住友電工は、CO₂収支マイナスの達成と採算性を確認し、カーボンリサイクルを通じたカーボンニュートラルへの貢献を目標としています。製造工程全体で見たときに、使用するエネルギーによるCO₂排出量よりも、固定化できるCO₂の量が上回ることが実証されており、環境負荷低減効果が定量的に確認されています。
実際の活用事例に見るmetacolの可能性

metacolは既に多くの企業や自治体との協業により、実際の製品化が進んでいます。このセクションでは、具体的な活用事例を通じて、metacolがどのように社会に浸透しつつあるのかをご紹介します。
文房具への応用事例
metacolを活用した製品として、デイン教育研究所とサクラクレパスによる「metacol™ やさしさ クレパス®」が提供されています。子どもたちが日常的に使う文房具にmetacolを採用することで、幼少期から環境意識を育む教育効果も期待されています。
また、環境省、三重県度会町、不易糊工業による「LBOV推進事業 度会小学校産フエキくん」も開発されており、地域と連携した環境教育の取り組みとしても注目されています。
スポーツ・レジャー分野での活用
東急リゾートタウン蓼科では、森のバイオマスボイラーの排煙から回収したCO₂を使ってmetacol製のゴルフティーおよびボトル&スリーブが製造され、2024年7月26日より提供が開始されました。この取り組みは、「CO₂固めちゃいました。」という東急リゾートタウンオリジナルブランド商品として展開されており、カーボンマイナスを実現した先進事例となっています。
また、SRIXON×metacolのゴルフギフトも限定販売されており、スポーツ用品分野でもmetacolの採用が広がっています。
アップサイクル素材との組み合わせ
mizuiro株式会社は、「やさいクレヨン®」を展開する企業として、metacolを配合した紙「環紙(わし)」を開発しました。この環紙は、捨てられてしまう果物や野菜、お花を古紙と配合してアップサイクルした紙にmetacolを混ぜることで、さらなる環境価値を付加したものです。
環紙製帽子、封筒、ギフトバック、ギフトボックスなど全4種類のアイテムが開発されており、帽子はイベント会場でのワークショップを想定し、お絵描きをしてから組み立て、metacolの遮光性を活かして日よけとして活用できる仕組みになっています。
アート・文化分野での展開
平岡隆子氏による「metacol™ 日本画 いのち」という作品も制作されており、アート表現の素材としてもmetacolが活用されています。環境技術を芸術作品に昇華することで、より多くの人々にメッセージを届ける試みといえるでしょう。
ショールームでの展示と社会実装の加速
住友電工は、2024年3月11日から29日まで、大阪の「MUIC Kansai」にて「CO₂のリサイクルがつくる未来社会」ショールームを開設しました。このショールームでは、CO₂のリサイクルにより顧客価値を向上できる数十のモデル商品が展示され、実証パートナーや研究会の発足メンバーの募集が行われました。
さらに、JR大阪駅うめきた地下口の「インタラクティブ空間」でもmetacolを活用した新商品と、その魅力を体験できる展示物が開発され、大阪・関西万博を見据えた情報発信が行われています。
metacolが切り拓く持続可能な未来社会

metacolは、単なる環境技術にとどまらず、社会システム全体を変革する可能性を秘めた素材プラットフォームです。このセクションでは、metacolが今後どのように社会に浸透し、私たちの暮らしを変えていくのかを展望します。
循環型経済への貢献
metacolの最大の特徴は、廃棄物として扱われてきたCO₂を「資源」として位置づけ直した点にあります。文房具のような小さなモノから、道路などの大きなモノまで、いろいろな製品の原料になる可能性を秘めています。
これにより、従来の「採掘→製造→使用→廃棄」という一方通行の経済システムから、「回収→資源化→製造→使用→回収」という循環型の経済システムへの転換が促進されます。
一人ひとりが参画できるカーボンニュートラル
metacol生まれの製品を使うことで、だれもが未来の地球を守るアクションを起こせます。これまで、カーボンニュートラルへの貢献は企業や自治体レベルの取り組みが中心でしたが、metacol製品を選択することで、消費者一人ひとりが日常生活の中で環境貢献を実感できるようになります。
この「参加型」の環境対策は、社会全体の意識改革につながる重要な要素です。
産業分野での展開可能性
metacolは、その材料特性から、自動車、産業機械、インフラ、家電など、CO₂削減プレッシャーの大きい分野での活用が期待されています。既存の金属材料の一部をmetacolに置き換えることで、製品性能を維持・向上しつつカーボンフットプリントを低減する「ドロップイン型」の提案が可能です。
特に、製造業が集積する日本においては、metacolのような素材レベルでの環境技術が、国際競争力の維持・向上にも寄与すると考えられます。
グローバル展開への期待
metacolは、「東京ベイeSGプロジェクト 先行プロジェクト」、「ダンロップフェニックストーナメント SDGsブース」など、各地のプロジェクトに相次いで採用されています。
国内での実証を通じて技術の信頼性が確立されれば、海外市場への展開も視野に入ってきます。特に、環境規制が厳しい欧州市場や、経済成長とともに環境問題が深刻化しているアジア市場での需要が期待されます。
今後の課題と展望
metacolの社会実装を加速するためには、製造コストの低減、供給体制の整備、認知度の向上など、解決すべき課題も残されています。今後は顧客価値を検証し、採算性を確認していく段階にあります。
しかし、技術的な実用性は既に証明されており、多くの企業や自治体との協業が進んでいることから、metacolが持続可能な未来社会の実現に向けた重要なピースとなることは間違いないでしょう。
まとめ

metacol(メタコル)は、住友電工が開発したCO₂と金属から作られる革新的な環境調和型素材です。従来の環境技術が「いかにCO₂を減らすか」に焦点を当てていたのに対し、metacolは「CO₂を資源として活かす」という発想の転換により、カーボンニュートラルを超えたカーボンマイナスの実現を目指しています。
既に文房具、スポーツ用品、日用品など、さまざまな分野で実用化が進んでおり、2025年大阪・関西万博でも展示されるなど、社会的な認知度も高まりつつあります。metacol製品を選択することで、私たち一人ひとりが日常生活の中でカーボンニュートラルに参画できるという点も、この素材の大きな魅力です。
今後、製造コストの低減や供給体制の整備が進めば、さらに多くの産業分野でmetacolが採用され、循環型経済の構築に貢献していくことが期待されます。metacolは、持続可能な未来社会を実現するための重要な技術として、私たちの暮らしを変えていく可能性を秘めています。