GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石燃料中心の産業・エネルギー構造を脱炭素型に転換し、経済成長と両立させる社会経済システム全体の変革です。2026年4月には改正GX推進法に基づく排出量取引制度(GX-ETS)が義務化フェーズに入り、対象となる大企業だけでなく、取引先である中小企業にも影響が広がりはじめています。本記事では、GXの基本的な意味から国の制度、企業の取り組み事例、そして実務を相談できる支援会社までを整理して解説します。
この記事でわかること
- GX(グリーントランスフォーメーション)の意味とDXとの違い
- GX実行会議・GXリーグ・GX推進法など国の取り組みの全体像
- 2026年4月施行の改正GX推進法と排出量取引義務化のポイント
- 企業がGXに取り組むメリットと実際の取り組み事例
- GX推進を支援するコンサルティング会社の特徴
GX(グリーントランスフォーメーション)とは|意味と背景をわかりやすく解説

GXとは、化石燃料への依存から脱却し、再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーへの転換を通じて経済社会システム全体を変革する取り組みのことです。2050年カーボンニュートラルの実現と産業競争力の強化を同時に目指す点が特徴です。
経済産業省は、GXを「化石燃料中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心に変えていくための経済社会システム全体の変革」と位置づけています。単なる環境対策ではなく、脱炭素への投資を経済成長の機会として捉え直す発想が土台にあります。
GXとDXの違い
GXとDXは混同されやすい言葉ですが、対象とする範囲が異なります。GXはエネルギー・産業構造を脱炭素型に転換する社会経済システム全体の変革であり、DXはデジタル技術を活用して業務やビジネスモデルを刷新する取り組みです。DXは一企業内の取り組みが中心になりやすいのに対し、GXの対象範囲はエネルギー供給網や産業構造など社会全体に及びます。排出量の可視化や設備の稼働最適化にはデジタル技術が欠かせないため、GXの実現にはDXの推進が前提になるという関係性も押さえておきたいポイントです。
GXが注目される理由|気候変動・ESG投資・エネルギー安全保障
GXが注目される背景には、気候変動対応の国際的な要請、ESG投資の拡大、エネルギー安全保障の3つの要因が重なっています。いずれも企業単独では解決できない構造的な課題です。
気候変動対応と2050年カーボンニュートラル
日本政府は2050年までのカーボンニュートラル実現を掲げており、2030年度の温室効果ガス排出削減目標の達成に向けて、企業の排出削減が制度面でも求められる段階に入っています。気候変動対応は、もはや一部の環境先進企業だけの課題ではなくなりつつあります。
ESG投資の拡大
投資家が財務情報だけでなく環境・社会・ガバナンスの取り組みを評価するESG投資は、脱炭素への取り組み状況が資金調達のしやすさに直結する時代であることを示しています。GXへの対応が遅れることは、投資家からの評価や資金調達条件に影響しうるリスクとして認識されつつあります。
エネルギー安全保障の必要性
化石燃料の多くを輸入に頼る日本にとって、再生可能エネルギーなど国内で調達できるエネルギー源の比率を高めることは、価格変動や供給リスクへの備えにもなります。GXは環境対応と同時に、エネルギーの安定供給という経済安全保障上の課題とも結びついています。
GX実現に向けた国の取り組み|GX推進法・GX実行会議・GXリーグ

国は2022年のGX実行会議設置を皮切りに、GXリーグの発足とGX推進法の制定という段階を踏んでGXを制度化してきました。それぞれの役割を理解しておくと、後述する2026年の制度変更の位置づけがつかみやすくなります。
GX実行会議
2022年に設置されたGX実行会議は、官民が連携してGXを推進するための基本方針を策定する政府の会議体です。エネルギー政策の方向性や、GXを支える財源のあり方などが議論され、その後のGX推進法制定の土台になりました。
GX推進法とGX経済移行債
GX推進法は2023年5月に成立し、2024年2月に施行された法律です。「GX経済移行債」を財源とした先行投資支援と、後述するカーボンプライシングを組み合わせた「成長志向型カーボンプライシング構想」を実行する根拠法にあたります。2025年5月には改正法が成立し、排出量取引の義務化を盛り込む形で制度が強化されました。
GXリーグ
GXリーグは、2050年カーボンニュートラルの実現に向けてGXに積極的に取り組む企業が官民協働で参加するプラットフォームです。2023年度から自主的な排出量取引の試行フェーズが始まり、多くの国内企業がGHG排出量の把握や削減目標の設定に取り組んできました。このGXリーグでの試行が、2026年度からの制度本格化につながっています。
2026年4月施行の改正GX推進法|排出量取引(GX-ETS)義務化で何が変わるか
2026年4月から、直近3年度平均のCO2直接排出量が10万トン以上の事業者を対象に、排出量取引制度(GX-ETS)への参加と排出量の届出が義務化されました。2023〜2025年度の自主参加フェーズから、法的拘束力を持つ制度へと移行した点が最大の変化です。
対象企業と義務の内容
経済産業省によると、対象となるのは直近3年度までの平均で二酸化炭素の直接排出量が10万トン以上の事業者です。国は制度対象者に排出枠を割り当て、対象事業者は毎年度、排出実績量と同量の排出枠を法令に定める期限までに保有することが義務づけられています。排出枠が不足する場合は、他の事業者との間で取引することで過不足を調整します。手続きには「排出量取引管理システム(ERMS)」の利用が必要です。
参照:経済産業省(2026年8月時点)
従来の自主参加(フェーズ1)との違い
GXリーグの排出量取引は、2023〜2025年度は企業が自ら目標を設定し、その達成状況を社会に開示する自主参加型の試行として運用されてきました。2026年度からの本格稼働により、対象規模の事業者は参加が義務となり、目標未達の場合の対応も制度化されています。両フェーズの違いを整理すると、次のとおりです。
| フェーズ1(2023〜2025年度) | フェーズ2(2026年度〜) | |
|---|---|---|
| 参加形態 | 自主参加(GXリーグ試行) | 対象事業者は参加義務 |
| 対象 | 参加を希望する企業 | 直接排出量が3年度平均10万トン以上の事業者 |
| 目標設定 | 企業が自ら設定・開示 | 国が排出枠を割り当て |
| 未達時の扱い | 制度上の罰則なし | 排出枠の保有義務・不足分の取引が必要 |
カーボンプライシングの仕組みそのものについてさらに詳しく知りたい場合は、カーボンプライシングとは?日本はいつから導入?主な手法・メリット・課題を解説の記事も参考になります。
企業がGXに取り組むメリット
企業がGXに取り組むメリットは、ブランド価値の向上、エネルギーコストの最適化、資金調達面での優遇の3点に整理できます。制度対応という守りの側面だけでなく、経営戦略としての側面も持ち合わせています。
ブランド価値・企業イメージの向上
脱炭素への取り組みを具体的に開示することは、取引先や消費者、就職・転職を検討する求職者からの評価にもつながります。特にサプライチェーン全体の排出量(スコープ3)の開示を求める大企業が増えており、取引先である中小企業にとってもGXへの対応が取引継続の条件になりつつあります。
エネルギーコストの最適化
省エネ設備への更新や再生可能エネルギーの導入は、初期投資こそかかるものの、中長期的には電気料金・燃料費の変動リスクを抑える効果が期待できます。中小企業が省エネ設備の導入に補助金を活用できる制度もあわせて確認しておくと、投資回収の計画が立てやすくなります。
具体的にどのような補助金が利用できるかは、中小企業向け省エネ補助金2026年完全ガイドで種類や申請方法を解説しています。
資金調達・優遇制度での評価
GX経済移行債を財源とした投資支援や、脱炭素関連の補助金・税制優遇など、GXへの取り組みを具体的な計画として示せる企業ほど、資金調達や制度活用の面で選択肢が広がる傾向があります。金融機関がサステナビリティローンなど脱炭素経営を評価する融資商品を拡充している点も、あわせて押さえておきたい動きです。
企業のGX取り組み事例|3社の実践

ここでは、各社の公式サイトで公表されている情報をもとに、GXに取り組む企業を五十音順に3社紹介します。業種や事業規模によってアプローチは異なるものの、目標を数値で示し、進捗を開示している点は共通しています。
ENEOSホールディングス
ENEOSホールディングスは、2040年度までに温室効果ガス排出量(スコープ1・2)を2013年度比73%削減する目標を掲げています。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて「S+3E」の原則(安全を大前提とした安定供給・経済効率性・環境適合)のもと、2025年5月に改定した「カーボンニュートラル基本方針」に沿って、2030年度・2035年度・2040年度・2050年度の段階的な削減目標を設定し、エネルギー転換や供給する燃料のCO2排出原単位の低減に取り組んでいます。
参照:ENEOSホールディングス公式サイト(2026年8月時点)、ENEOSホールディングス カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組み
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、2015年に発表した「トヨタ環境チャレンジ2050」のもと、「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」「新車CO2ゼロチャレンジ」「工場CO2ゼロチャレンジ」の3つの目標を掲げています。車両のライフサイクル全体、新車の走行時排出、工場からの排出のそれぞれについて2050年までのゼロを目指す枠組みで、カーボンニュートラルの実現に向けた基本方針として「カーボンリムーバル・クレジットポリシー」も策定しています。
参照:トヨタ自動車公式サイト(2026年8月時点)、トヨタ自動車 カーボンニュートラル|サステナビリティ
リクルートホールディングス
リクルートホールディングスは、2030年度までに自社の事業活動(スコープ1・2)およびバリューチェーン全体(スコープ3)でのカーボンニュートラル達成を目標に掲げています。グランドトウキョウサウスタワーや大阪梅田ツインタワーズ・ノースなど主要な事業拠点10カ所で再生可能エネルギー由来の電力へ切り替えたほか、スタッフィング部門では2030年までに社用車をすべてEVまたはハイブリッド車にする方針も打ち出しています。
参照:リクルートホールディングス公式サイト(2026年8月時点)、リクルートホールディングス 気候変動への取り組み
| 企業 | 主な目標 | 取り組みの特徴 |
|---|---|---|
| ENEOSホールディングス | 2040年度にスコープ1・2を2013年度比73%削減 | 「S+3E」原則に基づく段階的な削減目標 |
| トヨタ自動車 | 2050年に向けた3つのCO2ゼロチャレンジ | ライフサイクル・新車・工場の3軸で目標設定 |
| リクルートホールディングス | 2030年度にスコープ1〜3でカーボンニュートラル | 主要拠点の再エネ転換と社用車のEV化 |
カーボンニュートラルという言葉の意味や、他業種の企業の取り組みをさらに幅広く確認したい場合は、カーボンニュートラルとは?意味・目的・企業が取り組むべき施策をわかりやすく解説の記事もあわせてご覧ください。
GX推進を支援するコンサルティング会社
自社だけでGX戦略の立案や排出量算定を進めるのが難しい場合、大手コンサルティングファームやメーカーが提供する支援サービスを活用する方法があります。ここでは、各社の公式サイトで公表されているGX関連サービスを五十音順に6社紹介します。対応範囲や強みが異なるため、自社の課題にあわせて選ぶことが重要です。
EY Japan
EY Japanは、サステナビリティを経営の中核戦略に組み込む「サステナビリティ経営推進サイクル」の構築を支援するコンサルティングサービスを提供しています。支援範囲は、戦略策定から実行までのサステナビリティ経営コンサルティング全般に及びます。サステナビリティ専門家と経営コンサルタントが連携し、規制対応にとどまらない企業価値創出を目指す点が特徴です。
参照:EY Japan サステナビリティ経営コンサルティング・サービス
ABeamコンサルティング
ABeamコンサルティングは、カーボンニュートラル実現に向けたGX戦略ロードマップの策定からモニタリングまでを支援するサービスを提供しています。支援範囲は、GX戦略の立案から実行管理までの一連のプロセスに及びます。GXマネジメントサイクル全体をワンストップで支援し、専用ツールで継続的なモニタリングと最適化を行える点が特徴です。
参照:ABeamコンサルティング 脱炭素経営実現 GX推進サービス
KPMGコンサルティング
KPMGコンサルティングは、分析・戦略立案から保証(アシュアランス)まで7つの段階でサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を支援するサービスを提供しています。支援範囲は、ESG評価や脱炭素ロードマップの策定、サプライチェーン再構築、規制対応まで幅広くカバーします。各段階に適した専門家を組み合わせ、SSBJやCSRDなど国内外の規制枠組みに対応した支援ができる点が特徴です。
参照:KPMGコンサルティング サステナブルバリューサービス(SX支援サービス)
デロイト トーマツ コンサルティング
デロイト トーマツ コンサルティングは、2050年のカーボンニュートラルと循環経済の同時実現を目指すGXコンサルティングサービスを提供しています。支援範囲は、再生可能エネルギーや水素の活用、循環経済モデルの構築、GX人材の育成(リスキリング)まで多岐にわたります。グループ全体の知見とデジタル資産を組み合わせ、脱炭素戦略の立案から実行までを一気通貫で支援できる点が特徴です。
参照:デロイト トーマツ コンサルティング GX Consulting
東芝
東芝は、現状のGHG排出量の算定・評価から削減目標の設定、ロードマップ策定、具体的なCO2削減施策の提案・実行支援までを一貫して行うGXコンサルティングサービスを提供しています。支援範囲は、TCFDなど各種イニシアティブへの対応も含めた排出量マネジメント全般です。GXソリューションを提供するメーカーとしての知見と、自社での脱炭素実践の経験をあわせ持つ点が特徴です。
PwCコンサルティング
PwCコンサルティングは、水素・アンモニアや蓄電・VPP関連の事業開発から脱炭素戦略の策定まで支援するグリーントランスフォーメーション(GX)ビジネス開発支援サービスを提供しています。支援範囲は、新規事業の立ち上げ支援から既存事業の脱炭素化戦略まで及びます。エネルギー分野の専門性と新規事業の実行支援を組み合わせ、独自のシミュレーションツールとグローバルネットワークを活用できる点が特徴です。
参照:PwC Japanグループ グリーントランスフォーメーション(GX)ビジネス開発支援
| 会社 | 主な支援範囲 | 特徴 |
|---|---|---|
| EY Japan | サステナビリティ経営戦略の立案・実行 | 専門家と経営コンサルタントの連携 |
| ABeamコンサルティング | GX戦略ロードマップの策定・モニタリング | 専用ツールによる一気通貫支援 |
| KPMGコンサルティング | 分析から保証まで7段階のSX支援 | 国内外の規制枠組みへの対応力 |
| デロイト トーマツ コンサルティング | 脱炭素戦略から人材育成まで | グループ全体の知見とデジタル資産 |
| 東芝 | 排出量算定から削減施策の実行支援 | メーカーとしての実践知見 |
| PwCコンサルティング | 新規事業開発から脱炭素戦略まで | エネルギー分野の専門性 |
紹介した6社は対応範囲や強みがそれぞれ異なるため、自社の課題が戦略立案の段階にあるのか、排出量算定など実務の段階にあるのかを整理したうえで、複数社に相談してみることをおすすめします。
よくある質問
GXについて検索でよく寄せられる質問をまとめました。
GXはエネルギーや産業構造を脱炭素型に転換する社会経済システム全体の変革を指し、DXはデジタル技術で業務やビジネスモデルを刷新する取り組みです。排出量の可視化などGXの実現にはDXの活用が前提になる場面も多くあります。
排出量取引制度の直接の義務化対象は年間排出量10万トン以上の大規模事業者ですが、取引先の大企業からスコープ3排出量の報告を求められるケースが増えており、中小企業にも間接的な影響が広がっています。
2026年4月から、直近3年度平均のCO2直接排出量が10万トン以上の事業者を対象に義務化されています。2023〜2025年度は自主参加による試行フェーズでした。
ブランド価値の向上、エネルギーコストの最適化、資金調達や補助金活用での優遇という3つのメリットが期待できます。制度対応だけでなく、経営戦略としての効果もあります。
大手コンサルティングファームやメーカーがGX支援サービスを提供しており、戦略立案の段階か実務の段階かなど、自社の課題に応じて選ぶことができます。本記事でも6社の特徴を紹介しています。
まとめ
GXとは、化石燃料中心の産業・エネルギー構造をクリーンエネルギー中心に転換し、経済成長と両立させる社会全体の変革です。2022年のGX実行会議設置以降、GXリーグでの自主参加、GX推進法の制定と段階的に制度が整備され、2026年4月からは排出量取引制度(GX-ETS)が義務化フェーズに入りました。
ENEOSホールディングス・トヨタ自動車・リクルートホールディングスの事例が示すように、企業ごとにアプローチは異なりますが、目標を数値で示し進捗を開示する姿勢は共通しています。自社だけで戦略立案や排出量算定を進めるのが難しい場合は、本記事で紹介したコンサルティング会社への相談も選択肢のひとつです。まずは自社の事業がGX-ETSの対象規模にあたるかどうかを確認し、対象でない場合も、取引先からの要請や補助金活用の観点から、できるところから取り組みを始めてみてください。