統合報告書とは?作成手順・目的・記載項目まで徹底解説

統合報告書とは、企業の財務情報と非財務情報(ESG・戦略・ガバナンスなど)を一冊にまとめ、企業がどのように中長期的な価値を創造するかをステークホルダーへ伝えるための報告書です。近年、機関投資家や社会全体のESGへの関心が高まる中で、日本でも多くの上場企業が自主的に作成・公開するようになっています。

この記事でわかること

  • 統合報告書の基本的な意味と、従来の報告書との違い
  • 統合報告書を作成する目的と企業にとってのメリット
  • IFRSフレームワークに基づく主な記載項目(8つの核)
  • 作成時に押さえておくべきポイント
  • 実際の作成ステップと参照すべき情報源

統合報告書とは何かをわかりやすく解説

統合報告書とは何かをわかりやすく解説

統合報告書とは、決算書(財務諸表)などの数値情報と、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)にかかわる非財務情報を一体化させ、企業の価値創造ストーリーを伝える報告書のことです。単なる業績報告にとどまらず、「過去・現在・未来」をつなぐ視点で、企業が持続的に成長できる根拠をわかりやすく示す点が最大の特徴です。主に上場企業が投資家向け(IR)に作成しますが、中小企業が経営ビジョンを示すために活用するケースも見られます。

財務諸表・CSRレポートとの違い

統合報告書を理解するうえで、財務諸表やCSRレポートとの違いを押さえておくことが大切です。財務諸表(有価証券報告書)は、過去の数値実績を法的要件に基づいて株主や当局へ開示する法定書類です。一方、CSRレポートは企業の社会貢献活動や環境への取り組みを顧客・社員・地域社会へ伝えることを主な目的としています。

統合報告書はこの両者を包括しながらも、中長期的な視点で価値創造のメカニズムをストーリーとして伝える点が異なります有価証券報告書が過去の財務実績(義務)を中心とするのに対し、統合報告書は「将来の成長性」に焦点を当てた自主的な開示という性格を持っています

アニュアルレポートとの関係

統合報告書はアニュアルレポート(年次事業報告)をベースにしつつ、サステナビリティ情報や価値創造ストーリーなど、より包括的な情報を統合したものです。アニュアルレポートが経営メッセージや財務ハイライトを中心に構成されるのに対し、統合報告書は6つの資本(財務・製造・知的・人的・社会関係・自然)を活用した中長期戦略や、ESGへの取り組みを含む幅広い情報を体系的に盛り込む点で、より発展的な形式といえます

統合報告書を作成する目的

統合報告書を作成する目的

統合報告書を作成する目的は、単に情報開示の義務を果たすことではありません。投資家との建設的な対話を深め、企業の長期的な競争力を社内外に示すことが本来の目的です。短期的な業績だけでなく、持続可能な成長と企業の「価値創造ストーリー」を投資家やステークホルダーにわかりやすく伝えることが、統合報告書の核心にあります。

投資家との対話(エンゲージメント)の促進

統合報告書の第一の目的は、投資家との質の高い対話を引き出すことです「なぜこの企業は将来も持続的に成長できるのか」という根拠を示すことで、投資家は企業の本質的な価値を理解しやすくなります。特に機関投資家は、ESGリスクや長期的な価値創造能力を重視する傾向を強めており、統合報告書を通じてこれらを体系的に伝えることが、適正な株価形成や長期的な投資関係の構築につながります。

資本コストの低減と資金調達の円滑化

ESGに関する透明性の高い情報開示は、企業のリスク耐性が高いという評価につながる場合があります。その結果として、資本コストの低減や資金調達の円滑化に寄与するとされています。ただし、この効果は開示の質や投資家の評価によって異なるため、画一的な効果を断定することには慎重である必要があります。日本においては、経済産業省が「価値協創ガイダンス」を公表し、企業と投資家の対話を促進する政策的な取り組みも行われています。

社内の意識変革と統合的思考の醸成

統合報告書の作成は、経営企画・財務・広報・サステナビリティなど複数部署が横断的に関わるプロセスですこのプロセスを通じて、各部署が自社の強みや課題を共通の視点で捉え直し、中長期目標を組織全体で共有する「統合的思考(インテグレーテッド・シンキング)」が育まれます。統合報告書は外部への発信ツールであるとともに、社内のマネジメント強化にも貢献する点が、多くの先進的な企業で共通して指摘されています。

統合報告書の主な記載項目

統合報告書の主な記載項目

統合報告書の構成は、IFRS財団の国際統合報告フレームワークに基づいて標準化されています。以下に示す8つの項目が「核」となる構成要素であり、投資家が企業の全体像を理解するうえで欠かせない情報を網羅しています。すべてを画一的に記載する必要はありませんが、この枠組みを意識することで、論理的かつ一貫性のある報告書を作ることができます。

企業理念と価値観・ビジネスモデル

最初の構成要素は、ミッション・ビジョン・パーパスなど企業の根本的な価値観の説明です「なぜこの企業が存在するのか」を明確にすることが、報告書全体のストーリーの起点となります。あわせて、財務・人的・知的財産などの資本をどのように組み合わせて価値を生み出しているかを示す「ビジネスモデル」も核心的な項目です。

事業内容や市場環境・マクロなリスクと機会を示す「組織概要と外部環境」も、ビジネスモデルの理解を助ける重要なセクションです。

リスクと機会・戦略と資源配分

ESGを含むサステナビリティ課題が事業にどのような影響を与えるか、リスクと機会を具体的に示すセクションです。気候変動・規制変更・技術革新・人口動態の変化など、マクロレベルの環境変化への対応策を論理的に説明することが求められます。

これらのリスク・機会を踏まえて、中期経営計画や成長戦略、資源配分の方針を示すセクションが「戦略と資源配分」です。投資家が企業の将来性を判断するうえで、最も注目する部分の一つです。

ガバナンス・実績・将来の展望

取締役会の構成・役員報酬・リスク管理体制などを示す「ガバナンス」セクションは、企業の意思決定の透明性を示す重要な項目です。社外取締役のコメントなどを加えることで、透明性をより高める効果があります。

「実績(パフォーマンス)」では財務データとKPIの達成状況を、「見通しと将来の展望」では将来の課題と持続可能な成長への道筋を示します。この「過去の実績」と「将来の見通し」を一体的に伝えることが、統合報告書ならではの強みです

統合報告書を作成するときのポイント

統合報告書を作成するときのポイント

統合報告書の質を高めるためには、記載内容の充実だけでなく、読み手に伝わる構成と表現が求められます。特に重視されるコンテンツと、作成全体を通じて意識すべき視点を以下に整理します。初めて作成に取り組む企業にとっても、これらのポイントを押さえることでクオリティの高い報告書に近づけることができます。

特に重視されるコンテンツ

投資家からの評価が高い報告書に共通して見られるのが、経営陣のビジョンと戦略的コミットメントを自身の言葉で語る「トップメッセージ」の充実です。形式的なメッセージではなく、経営者の言葉で将来像を語ることが、読み手の信頼を高めます。

また、「価値創造ストーリー」として、非財務資産(人材・技術・ブランドなど)がどのように財務成果につながるかを説明することが重要です。人的資本・環境・社会(ESG)については具体的な取り組みと数値指標をあわせて示し、ガバナンス体制の透明性を社外取締役のコメントなどで補強することも、報告書の説得力を高めるうえで効果的です。

財務・非財務情報を統合する視点

統合報告書の本質は、財務情報と非財務情報をただ並べることではなく、両者のつながりを明示することにあります。たとえば「人材育成への投資(非財務)→技術力の向上→新製品開発→売上成長(財務)」というように、因果関係をストーリーとして示すことが求められます。

この統合の視点を持つことで、投資家は企業の成長ドライバーをより深く理解できます。財務データと非財務データを並べるだけでなく、その相互関係を丁寧に説明することが、質の高い統合報告書の条件です

統合報告書の作成手順

統合報告書の作成手順

実際に統合報告書を作成するためには、準備段階から発行・フィードバックの回収まで、明確な手順を踏むことが重要です。各ステップには固有の意味があり、順序を踏まえて進めることでプロジェクト全体がスムーズになります。初めて取り組む企業でも、ステップを把握することで全体像を見通しながら作業を進めることができます。

ステップ1:準備と体制構築

最初のステップは、経営陣のコミットメントを確保することですCEOのメッセージが報告書の核となるため、トップが主体的に関与することが不可欠です。あわせて、経営企画・財務・広報・サステナビリティ部門などから横断的なチームを結成し、担当範囲と責任の所在を明確にします。スケジュールを策定することで、プロジェクト全体をスムーズに進行させることができます。

ステップ2:マテリアリティの特定

次に、自社にとって持続的な成長のために何が最も重要かを定義します。外部環境の分析や、投資家・顧客・社員などのステークホルダーへのヒアリングをもとに重要課題(マテリアリティ)を絞り込みます。この作業は一度決めたら終わりではなく、毎年の環境変化に応じて見直すことが求められます。マテリアリティの特定が適切であるかどうかは、投資家からの評価にも直結します。

ステップ3:価値創造モデルの策定

マテリアリティが定まったら、自社の価値創造モデルを策定します。6つの資本(財務・製造・知的・人的・社会関係・自然)を入力として、独自の事業活動を通じてどのようなアウトカムを生み出すかを図解化しますこの図解は報告書の「顔」となる部分であり、複雑な事業構造をシンプルかつ論理的に表現することが読者の理解を深めます

ステップ4:コンテンツの作成と編集

価値創造モデルをもとに、各章のコンテンツを作成します。トップメッセージ・財務・非財務ハイライト・リスクと機会・戦略・ガバナンスなどのセクションを論理的な流れで構成します。数値データはグラフや表で視覚化し、定性的な情報はストーリーとして伝わるよう工夫します。文章と図表のバランスを保つことが、読みやすい報告書につながります。

ステップ5:発行とフィードバックの活用

発行後は、投資家や株主からの反応を収集・分析します。IRミーティングや株主総会でのフィードバック、外部評価機関によるランキングなどを参考に、次年度の改善点を洗い出します。統合報告書は毎年継続して発行するものです。フィードバックをもとに内容を磨き続けることが、長期的な信頼獲得につながります

統合報告書作成に役立つフレームワークと情報源

統合報告書作成に役立つフレームワークと情報源

統合報告書を作成する際には、国内外の信頼性の高いフレームワークや情報源を活用することが重要です。根拠のある情報源に基づいて作成することで、報告書の信頼性と説得力が高まります。ここでは、特に参照価値の高い主要な情報源を紹介します。

国際統合報告フレームワーク(IFRS財団)

国際統合報告フレームワークは、IIRCが2013年に策定し、現在はIFRS財団が管理している国際的なガイドラインです。統合報告書の基本原則・構成要素・作成に際しての指導原則が体系的にまとめられており、世界中の企業が参照しています。

フレームワークの全文はIFRS財団の公式ウェブサイトから入手可能です。日本語版も提供されているため、国内企業にとっても利用しやすい資料となっています

参考:IFRS財団

価値協創ガイダンス(経済産業省)

経済産業省が公表している「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス(価値協創ガイダンス)」は、日本国内のスタンダードとして広く参照されています企業と投資家の建設的な対話を促進することを目的に策定されており、統合報告書の構成やKPIの設定に関する具体的な指針が記載されています

経済産業省の公式ウェブサイトから最新版を確認することができます。

参考:価値協創ガイダンス2.0|経済産業省

日本公認会計士協会(JICPA)の指針

日本公認会計士協会(JICPA)は、非財務情報の開示に関する専門的な知見を公表しています。保証業務(第三者による情報の信頼性確認)に関する基準も整備されており、統合報告書の信頼性をさらに高めたい企業にとって有益な情報源です。

参考:日本公認会計士協会

よくある質問

よくある質問

Q1:統合報告書の作成は義務ですか

現時点(2025年時点)において、統合報告書の作成は法律による義務ではありません。有価証券報告書のような法定開示書類とは異なり、任意開示の文書として位置づけられています。ただし、機関投資家やESG評価機関が統合報告書の内容を重視する傾向が強まっており、上場企業を中心に自主的に作成・公開する動きが広がっています

Q2:統合報告書と有価証券報告書は別物ですか

はい、別の文書です。有価証券報告書は金融商品取引法に基づく法定開示書類であり、財務諸表を中心に法律で定められた内容を記載する義務があります。一方、統合報告書は任意開示の文書であり、財務情報に加えて非財務情報や価値創造ストーリーを自社の判断で盛り込むものです。近年では、有価証券報告書にサステナビリティ関連情報の記載が義務化される動きもあり(金融庁による規制改正)、両者の境界が徐々に近づいている面もあります

Q3:中小企業でも統合報告書を作れますか

統合報告書は上場企業が主に作成しますが、中小企業が作成することを禁止するルールはありません。ただし、作成には相応のリソースと体制が必要です。中小企業の場合は、まず価値創造モデルやマテリアリティの考え方を社内で整理することから始め、段階的に取り組むことが現実的です。経済産業省や各種経営支援機関が提供するガイドラインを参照しながら、自社の規模に合った形で進めることが推奨されます。

まとめ

まとめ

統合報告書とは、財務情報と非財務情報を統合し、企業の価値創造ストーリーを伝える自主的な開示文書です。目的・記載項目・作成手順を正しく理解したうえで、IFRSフレームワークや価値協創ガイダンスを活用しながら取り組むことが、質の高い報告書への近道となります。

この記事のまとめ:

  • 統合報告書とは、財務・非財務情報を統合した価値創造ストーリーの報告書であ
  • 有価証券報告書(義務・過去実績)と異なり、将来の成長性を示す自主的な開示である
  • 投資家との対話促進・資本コスト低減・社内の統合的思考醸成という3つの目的がある
  • IFRSフレームワークに基づく8つの核(企業理念・ビジネスモデル・リスク・戦略・ガバナンス・実績・展望など)で構成される
  • トップメッセージと価値創造ストーリーの充実が、投資家評価を高めるうえで特に重要である
  • 作成は準備→マテリアリティ特定→モデル策定→コンテンツ作成→発行の5ステップで進める