物流業界は今、大きな転換期を迎えています。気候変動への対応や深刻化するドライバー不足、2024年問題と呼ばれる労働時間規制の強化など、さまざまな課題に直面する中で、環境負荷の低減と事業の持続可能性を両立させる「サステナビリティ物流」への注目が高まっています。本記事では、サステナビリティ物流の基本的な考え方から具体的な取り組み、国内外の先進事例まで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
サステナビリティ物流の基本的な考え方

サステナビリティ物流とは、CO2排出量の削減や省エネルギー化、労働環境の改善などを通じて、環境保護と経済性を同時に実現する物流の仕組みを指します。従来の物流が「いかに速く、安く運ぶか」を重視してきたのに対し、サステナビリティ物流では「環境や社会に配慮しながら、持続可能な形で物を届ける」ことを目指しています。
この取り組みが重要視される背景には、複数の要因があります。まず、地球温暖化対策として世界的に脱炭素社会への移行が求められており、物流業界もその責任を負っています。日本国内の貨物輸送におけるCO2排出量は全体の約17%を占めており、削減への取り組みは避けて通れない課題となっています。
さらに、物流業界特有の課題として、ドライバーの高齢化と人手不足が深刻化しています。2024年4月からは働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働時間に上限規制が適用され、これまでと同じ輸送体制を維持することが困難になりました。この状況は「2024年問題」と呼ばれ、輸送力不足のリスクが現実のものとなっています。
こうした課題に対応するため、国も企業も新たな物流システムの構築を迫られています。環境負荷を減らしながら、限られた人材で効率的に物を運ぶ仕組みづくりが、今後の物流業界の生き残りを左右する重要な要素となっているのです。
企業に求められる新たな責任
2024年から2026年にかけて、物流に関する制度改正が段階的に実施されています。特に注目すべきは、これまで物流事業者のみが担っていた責任が、荷主企業にも拡大されたことです。荷主企業は物流の効率化やCO2削減に向けた取り組みを求められるようになり、対応が不十分な場合は輸送力を確保できないリスクに直面します。
この制度変更により、企業はサプライチェーン全体を見直し、環境負荷の低減と業務効率化を同時に進める必要が生じました。単に自社の取り組みだけでなく、取引先や物流事業者と連携した包括的な対策が求められています。
サステナビリティ物流は、環境保護という社会的責任を果たすだけでなく、企業価値の向上にもつながります。環境や社会に配慮する姿勢は顧客や投資家からの信頼を高め、ブランドイメージの向上に貢献します。また、エネルギー効率化や輸送ルートの最適化によってランニングコストを削減できるため、経済的なメリットも期待できます。
サステナビリティ物流を実現する主な施策

サステナビリティ物流を実現するための施策は、大きく分けて三つの方向性があります。環境負荷の低減、社会的な持続可能性の確保、そして経済的な効率化です。ここでは、それぞれの分野で実施されている代表的な取り組みを紹介します。
輸送手段の転換と効率化
環境負荷を減らす最も効果的な方法の一つが、モーダルシフトです。これは、トラック輸送を鉄道や船舶に切り替える取り組みで、長距離輸送において特に大きなCO2削減効果が期待できます。鉄道輸送はトラック輸送と比較してCO2排出量を約8分の1に削減でき、船舶輸送では約4分の1にまで減らすことが可能です。
また、大型トラックやトレーラの活用による輸送効率の向上も重要な施策です。一度に運べる貨物量を増やすことで、車両台数や走行距離を削減し、結果としてCO2排出量を抑えることができます。複数の企業が協力して行う共同配送も、積載率を高める有効な手段として広がっています。
最近では、旅客輸送と貨物輸送を組み合わせる貨客混載という新しい形態も注目されています。路線バスやタクシーの空きスペースを活用して荷物を運ぶことで、既存の交通網を効率的に利用し、新たな輸送手段を増やさずに配送網を拡充できます。
テクノロジーの活用による最適化
デジタル技術の進化により、物流業界でもさまざまなシステムが導入されています。AI配車システムは、配送先や交通状況、車両の積載容量などを総合的に分析し、最適な配送ルートと車両の組み合わせを提案します。これにより、走行距離の短縮や積載率の向上が実現し、燃料消費とCO2排出量を削減できます。
ルート最適化システムは、リアルタイムの交通情報や天候データを活用して、最短ルートや最も燃料効率の良い経路を算出します。渋滞を避けることで配送時間の短縮とアイドリング時間の削減につながり、環境負荷とコストの両面でメリットがあります。
倉庫や物流施設においても、省エネルギー化が進んでいます。太陽光パネルの設置によるクリーンエネルギーの活用、LED照明への切り替え、断熱性能の向上など、さまざまな工夫が施されています。ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)と呼ばれる、年間のエネルギー収支をゼロにする建物の導入も増えつつあります。
車両の環境性能向上
輸送手段そのものを環境に優しいものに変えていく取り組みも加速しています。電気自動車(EV)トラックの導入は、走行時のCO2排出をゼロにできるため、特に注目されています。充電インフラの整備や航続距離の課題はあるものの、技術革新により実用性は着実に向上しています。
ハイブリッド車や天然ガス車など、従来の燃料よりもCO2排出量が少ない車両の活用も進んでいます。また、既存のディーゼルトラックについても、エコドライブの推進や定期的なメンテナンスにより、燃費性能を改善する取り組みが行われています。
CO2排出量の「見える化」も重要な要素です。どの輸送区間でどれだけのCO2が排出されているかを数値化し、データとして管理することで、改善すべきポイントを明確にできます。これにより、効果的な削減策を立案しやすくなります。
国内企業の先進的な取り組み事例

日本国内でも、多くの企業がサステナビリティ物流に積極的に取り組んでいます。ここでは、具体的な成果を上げている企業の事例を紹介します。
物流事業者の挑戦
セイノーグループは、2030年までにCO2排出量を35%削減する目標を掲げ、さまざまな施策を展開しています。中型・大型商用EVトラックの実証実験を進めるとともに、ドローンを活用した新しい配送方法の研究も行っています。これらの取り組みは、環境負荷の低減だけでなく、人手不足への対応策としても期待されています。
日本通運(NXグループ)は、アサヒグループとの協業により、短距離・中距離のトラック輸送と鉄道輸送を組み合わせた効率的な物流システムを構築しました。実車率と積載率を高めることで、車両台数を削減しながら輸送能力を維持し、環境負荷と運営コストの両面で改善を実現しています。この取り組みは、荷主企業と物流事業者が連携することの重要性を示す好例となっています。
メーカー企業の工夫
江崎グリコは、得意先や物流事業者と連携したAI配車システムを導入し、大きな成果を上げています。このシステムは、配送先や商品の種類、車両の特性などを総合的に判断して最適な配車計画を立案します。結果として、CO2排出量、使用車両台数、ドライバーの労働時間をそれぞれ削減しながら、積載率を向上させることに成功しました。
富士通は、納品リードタイムの見直しと輸送方法の多様化により、顧客ニーズに応じた柔らかな物流体制を実現しています。急ぎの配送にはトラック輸送を、時間に余裕がある場合は鉄道や船舶を選択できる仕組みを整え、顧客の希望に応じてモーダルシフトを選べるようにしました。この柔軟な対応により、全体としてのCO2排出量削減を達成しています。
これらの事例に共通するのは、単独での取り組みではなく、サプライチェーン全体を巻き込んだ協力体制を構築している点です。荷主企業、物流事業者、得意先がそれぞれの立場で協力し、情報を共有することで、より大きな効果を生み出しています。
グローバルな視点から見た先進事例

海外では、日本よりも早くサステナビリティ物流への取り組みが進んでいる地域や企業があります。これらの事例から学べる点は多く、日本の物流業界にとっても参考になります。
アジア地域の取り組み
シンガポールは、アジアにおけるサステナブル物流のモデル都市として知られています。政府主導でクリーン燃料の普及を推進し、物流事業者に対してエネルギー効率の高い車両や設備への投資を促しています。また、AIを活用したルート最適化システムの導入により、都市部の交通渋滞を緩和しながら配送効率を高めています。
シンガポールの取り組みで特徴的なのは、官民が連携して総合的な施策を展開している点です。インフラ整備から規制の枠組み、事業者への支援まで、一貫した方針のもとで推進されています。
グローバル物流企業の戦略
DHLは、世界規模でサステナビリティ物流を推進している代表的な企業です。同社は「GreenPlan」と呼ばれるルート最適化ソリューションを導入し、交通状況を考慮した配送計画を実現しています。このシステムにより、無駄な走行を削減し、燃料消費とCO2排出量を大幅に削減しました。
さらにDHLは、2030年までに地上輸送車両の60%を電動化する目標を掲げています。EV車両の導入を積極的に進めるとともに、充電インフラの整備にも投資し、持続可能な物流ネットワークの構築を目指しています。
サプライチェーン全体での取り組み
パタゴニアやユニリーバといったグローバル企業は、製品のライフサイクル全体を通じた環境負荷の低減に取り組んでいます。責任ある原材料調達、リサイクル可能な包装材の使用、ネットゼロ目標の設定など、包括的な施策を展開しています。
これらの企業の特徴は、環境への配慮がブランド価値の向上と売上増加につながっている点です。消費者の環境意識の高まりを背景に、サステナビリティへの取り組みが競争力の源泉となっています。物流はその重要な要素として位置づけられ、戦略的に投資が行われています。
サステナビリティ物流を導入するためのステップ

これからサステナビリティ物流に取り組もうとする企業にとって、どこから始めればよいのか迷うこともあるでしょう。ここでは、導入に向けた基本的なステップを紹介します。
現状把握と目標設定
最初のステップは、自社の物流における環境負荷の現状を正確に把握することです。どの輸送区間でどれだけのCO2が排出されているか、燃料消費量はどの程度か、積載率や実車率はどうなっているかなど、データに基づいた分析が必要です。
現状が明らかになったら、具体的な削減目標を設定します。目標は、実現可能性を考慮しながらも、明確な数値で示すことが重要です。たとえば「3年以内にCO2排出量を20%削減する」といった形で、期限と目標値を明確にします。
施策の選定と優先順位づけ
次に、目標達成のためにどのような施策を実施するかを検討します。前述したモーダルシフト、車両の電動化、AI配車システムの導入など、さまざまな選択肢がありますが、すべてを同時に実施することは現実的ではありません。
自社の事業特性や輸送形態、予算などを考慮し、最も効果的で実現可能な施策から優先的に取り組むことが大切です。短期間で成果が出やすい施策と、長期的な視点で取り組むべき施策をバランスよく組み合わせることも重要です。
パートナーとの連携
サステナビリティ物流の実現には、単独での取り組みには限界があります。荷主企業であれば物流事業者と、物流事業者であれば荷主企業や得意先と、それぞれ連携して取り組むことで、より大きな効果を生み出せます。
情報共有の仕組みを整え、お互いの課題や目標を理解し合うことが、協力体制構築の第一歩です。共同配送やモーダルシフトなど、複数の企業が協力して初めて実現できる施策もあります。
効果測定と改善
施策を実施したら、定期的に効果を測定し、目標に対する進捗を確認します。期待した効果が得られていない場合は、原因を分析し、改善策を講じる必要があります。
サステナビリティ物流は、一度取り組めば完了というものではなく、継続的な改善が求められます。技術の進歩や社会状況の変化に応じて、常に最適な方法を模索し続ける姿勢が大切です。
よくある質問

Q1:サステナビリティ物流に取り組むと、コストは増加しますか?
初期投資は必要ですが、長期的には燃料費の削減や効率化によってコスト削減につながるケースが多くあります。また、補助金制度を活用できる場合もあります。
Q2:中小企業でも取り組めますか?
規模に応じた取り組みが可能です。大規模な設備投資が難しい場合でも、エコドライブの推進や配送ルートの見直しなど、比較的小さな投資で始められる施策もあります。
Q3:効果が出るまでにどれくらいかかりますか?
施策の内容によって異なります。ルート最適化やエコドライブなど、比較的短期間で効果が現れるものもあれば、モーダルシフトや車両の入れ替えなど、長期的な視点で取り組むべきものもあります。
まとめ

サステナビリティ物流は、環境保護と経済性の両立を目指す次世代の物流システムです。気候変動対策や人手不足への対応として必要性が高まっており、国内外で多くの企業が積極的に取り組んでいます。モーダルシフトや車両の電動化、AI技術の活用など、さまざまな施策を組み合わせることで、CO2削減と業務効率化を同時に実現できます。取り組みを始めるには、現状把握と明確な目標設定が重要であり、パートナー企業との連携が成功の鍵となります。