地方創生は、人口減少や地域経済の衰退といった日本全体が直面する構造的な問題に対して、国と自治体、民間企業、そして住民が力を合わせて取り組む重要な政策です。2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が制定されてから10年が経過し、現在は新たな段階を迎えています。
この記事では、地方創生が抱える課題を整理したうえで、2025年に国が示した「地方創生2.0基本構想」を含む最新の現状を解説します。さらに、DXや官民連携、住民主体のまちづくりなど、実際に成果を上げている具体的な解決策と事例をご紹介します。
地方で暮らす方、地域の未来を考える自治体職員の方、まちづくりに関心のある方にとって、これからの地方創生を理解するための参考になれば幸いです。
地方創生が直面する3つの主要課題

地方創生を進めるうえで、現在さまざまな課題が顕在化しています。ここでは、構造的な課題、政策運用面での課題、そして地域の現場で起きている課題の3つの視点から整理します。それぞれの課題を正確に把握することが、効果的な解決策を考える第一歩となります。
人口減少と高齢化がもたらす構造的課題
地方創生における最も根本的な課題は、人口減少と高齢化の同時進行です。多くの地方自治体では、若者が進学や就職を機に都市部へ流出し、地域に戻らないという現象が続いています。
この人口減少は単なる数字の問題ではなく、地域社会全体に深刻な影響を与えています。まず、働き手である生産年齢人口が減ることで、地域産業の担い手不足が深刻化しています。農業や林業、地域の中小企業では後継者が見つからず、事業継続が困難になるケースが増えています。
さらに、地域コミュニティの機能低下も大きな問題です。自治会活動や地域の祭り、防災活動などを支える人材が不足し、これまで当たり前に行われてきた地域の支え合いが難しくなっています。特に中山間地域では、集落の維持そのものが危ぶまれる状況も生まれています。
高齢化の進行により、医療や介護のニーズは増加する一方で、それを支える若い世代が減少するという構造的なアンバランスも深刻です。買い物や通院など日常生活の維持さえ困難になる高齢者が増えており、生活インフラの維持が喫緊の課題となっています。
政策運用面で見えてきた反省点
地方創生の取り組みが始まって10年が経過し、政策運用面でいくつかの反省点が明らかになっています。これらは今後の地方創生2.0を進めるうえで、改善すべき重要なポイントとなっています。
まず指摘されているのが、行政サービスの地域差が一極集中を助長してしまったという点です。都市部と地方で受けられる公共サービスや教育機会に大きな差があることが、若者の都市流出を後押しする要因の一つとなりました。
また、多くの自治体で地方版総合戦略の立案を外部のコンサルティング会社に依存してしまい、自治体職員や住民の当事者意識が十分に醸成されなかったという課題もあります。計画書は立派でも、実際の実行段階で地域の実情に合わない施策が展開されるケースが見られました。
交付金事業についても、各省庁の縦割りによって事業が小粒に分散し、総合的な効果が上がりにくかったという反省があります。地域の課題は複合的であるにもかかわらず、予算や制度の枠組みが硬直的であったため、横断的な取り組みが難しかったのです。
地域の現場で起きている具体的課題
地域の現場では、住民の日常生活に直結する課題が山積しています。これらは統計や計画書だけでは見えにくい、生活実感に基づく切実な問題です。
買い物弱者や交通弱者の増加は、多くの地方自治体で共通の課題となっています。地域の商店が閉店し、公共交通が縮小する中で、高齢者を中心に食料品や日用品の購入、通院などが困難になる方が増えています。
空き家や空き店舗の増加も深刻です。地方の中心市街地では、かつて賑わっていた商店街がシャッター通りと化し、住宅地では管理されない空き家が防災や景観の面で問題となっています。これらの遊休資産をどう活用するかが大きな課題です。
さらに、移住促進や交流人口の拡大に取り組む自治体は増えていますが、それを地域の雇用創出や経済活性化にどう結びつけるかという点では、まだ試行錯誤が続いています。移住者を受け入れる体制や、地域に根付いた仕事を創出する仕組みづくりが求められています。
地方創生の現状と新たな方向性

2025年、国は「地方創生2.0基本構想」を閣議決定し、これからの10年を見据えた新しい方針を打ち出しました。ここでは、地方創生の最新の現状と、国および自治体がどのような方向で取り組みを進めているのかを解説します。過去10年の経験を踏まえた、より実効性の高い施策が動き始めています。
地方創生2.0基本構想が示す新たなビジョン
国は2025年に閣議決定した「地方創生2.0基本構想」において、今後10年の基本方針を明確に示しました。この構想の特徴は、人口減少を前提としたうえで、人を惹きつける質の高いまちづくりと地域ビジョンの再構築を目指している点です。
従来のように人口を維持することだけを目標とするのではなく、たとえ人口が減少しても、住民一人ひとりが豊かで質の高い生活を送れる地域をつくることに重点が置かれています。これは、量から質への転換とも言える大きな方向転換です。
国の方針では「シームレスな拠点連結型国土」の実現が掲げられています。これは、全国を8つの広域圏に分け、それぞれの圏域内で拠点となる都市を結び、交通ネットワーク、デジタル基盤、産業連携を一体的に進める構想です。地方を孤立させるのではなく、ネットワークで結ぶことで、それぞれの地域の強みを活かす考え方です。
また、広域地方計画の中で、各圏域の特性に応じた戦略が立てられています。これにより、画一的な施策ではなく、地域の実情に合わせた柔軟な取り組みが可能になることが期待されています。
自治体に求められる具体的な取り組み
地方創生2.0の方針を受けて、各自治体には地方版総合戦略の改訂が求められています。この改訂作業では、より具体的で実効性のある計画づくりが重視されています。
重要なポイントは、1年、3年、5年という期間ごとの工程表を作成し、それぞれの段階で達成すべき目標を明確にすることです。漠然とした長期計画ではなく、短期的なマイルストーンを設定することで、進捗管理がしやすくなります。
また、KPI(重要業績評価指標)の設定も必須となっています。人口動態、雇用創出数、生活サービスの維持状況など、具体的な数値目標を設定し、定期的に達成度を測定します。これにより、施策の効果を客観的に評価し、必要に応じて軌道修正することが可能になります。
自治体は単に計画を作成するだけでなく、住民や地域の事業者、NPOなどと協力しながら実行する体制づくりも求められています。前回の反省を踏まえ、計画段階から多様な主体が参加し、当事者意識を持って取り組むことが重視されています。
人口減少地域への制度的支援の強化
特に人口減少が深刻な地域に対しては、国による制度面での支援強化が予定されています。2025年度中に具体化される予定の施策には、地域の実情に合わせた柔軟な対応が盛り込まれています。
注目されるのは「地域共生社会の体制整備」です。これは、高齢者福祉、子育て支援、障害者支援、生活困窮者対策といった、従来は縦割りで実施されていた福祉サービスを一体的に提供する仕組みです。人手不足が深刻な地域では、分野ごとに専門職を配置することが難しいため、包括的なサービス提供体制が必要とされています。
また、規制や制度の改革も進められます。人口減少地域では、既存の法制度が実情に合わなくなっているケースが多々あります。地域の実情に応じた規制緩和や制度の柔軟化により、地域が独自の解決策を実施しやすくなります。
財政支援と金融支援も強化される予定です。地域の稼ぐ力を高めるための事業に対して、補助金だけでなく、融資や出資といった多様な資金支援の仕組みが整備されます。これにより、持続可能なビジネスモデルの構築を後押しします。
実践的な解決策と成功事例

地方創生の課題に対して、全国各地で創意工夫に満ちた解決策が生まれています。ここでは、住民主体の取り組み、デジタル技術の活用、官民連携による再開発など、実際に成果を上げている具体的な解決策と事例をご紹介します。これらの事例から、自分の地域でも応用できるヒントが見つかるかもしれません。
住民主体のまちづくりによる課題解決
島根県雲南市の取り組みは、住民が主体となった地方創生の成功事例として注目されています。雲南市では、地域自主組織を行政の対等なパートナーとして位置づけ、組織に対して一括交付金を提供しています。
この仕組みの特徴は、地域が自らの判断で予算を使えることです。従来のように使途が限定された補助金ではなく、地域の実情に応じて柔軟に活用できる財源を提供することで、住民の創意工夫が引き出されています。
さらに、市は各地域に地域づくり担当者を配置し、住民組織の活動を専門的にサポートしています。この担当者は、住民の相談に乗ったり、他地域の事例を紹介したり、行政との調整役を務めたりと、地域活動の伴走者としての役割を果たしています。
雲南市の地域自主組織は、課題解決を分野横断的に進めている点も特徴的です。雇用創出、交流人口の拡大、高齢者支援といった複数の課題を、一つの組織が総合的に扱うことで、相乗効果が生まれています。
また、別の地域では、自治会が自主財源を確保しながら、行政に頼らないまちづくりを実践している事例もあります。環境対策、独居高齢者の見守り、青少年育成といった活動を、地域住民自身が企画し実施することで、コミュニティの絆が強まり、課題解決力も高まっています。
地方DXによる新たな可能性の創出
デジタル技術の活用は、地方創生に新たな可能性をもたらしています。特に人口減少対策として、地方DXは重要な解決策の一つとなっています。
リモートワーク環境の整備は、若者や専門人材の地方定住を促進する有効な手段です。高速インターネット環境とコワーキングスペースを整備することで、地方に住みながら都市部の企業で働くことが可能になります。これにより、UターンやIターンのハードルが大きく下がります。
オンライン教育の充実も重要です。地方では通える範囲に塾や専門学校が少ないという課題がありましたが、オンライン教育により都市部と同等の学習機会を提供できるようになりました。これは、子育て世代が地方移住を検討する際の大きな安心材料となります。
スマートシティ化の取り組みも進んでいます。センサーやAIを活用して、交通の最適化、エネルギー管理、防災システムの高度化などを実現する自治体が増えています。限られた人員と予算でも、テクノロジーの力で住民サービスの質を維持・向上させることができます。
地域の特産品をECサイトで全国に販売する取り組みも広がっています。従来は地元でしか買えなかった商品を、インターネットを通じて全国の消費者に届けることで、新たな販路と収益源が生まれます。これは地域経済の活性化と雇用創出につながっています。
地方DXは単なる技術導入ではなく、地方にいながら働ける環境や新たなビジネス機会をつくることで、若者や専門人材の定住動機を高めるという明確な目的を持っています。
官民連携による都市再生プロジェクト
福井市の駅前再開発は、官民連携による地方創生の優れた事例です。この事業では、商店街の5つの団体が連携し、第三セクターを設立して空き店舗の活用に取り組みました。
「美のまちプロジェクト」と名付けられたこの取り組みでは、歴史的な街並みを活かしながら、現代的なニーズに応える商業空間を創出しています。行政は都市計画や基盤整備を担当し、民間は店舗運営やイベント企画を担当するという明確な役割分担が、プロジェクトの成功要因となっています。
北九州市のリノベーションまちづくりも注目されています。この取り組みは、空きビルを若手起業家やクリエイターに安価で提供し、新しい事業の拠点として活用してもらうというものです。
重要なのは、行政が過度に介入せず、民間の自立性を重視している点です。初期投資の一部を支援し、規制緩和や情報提供を行いますが、事業の運営は民間に任せています。これにより、民間のノウハウと創意工夫が最大限に活かされ、持続可能なビジネスモデルが生まれています。
これらの官民連携事例に共通する成功要因は、役割分担の明確化、地域資源の再定義、民間ノウハウの活用の3点です。行政と民間がそれぞれの得意分野を活かし、既存の建物や街並みといった地域資源に新たな価値を見出し、民間の柔軟な発想とスピード感を取り入れることで、効果的な都市再生が実現しています。
よくある質問

Q1: 地方創生2.0は従来の地方創生と何が違うのですか?
地方創生2.0では、人口減少を前提としたうえで、質の高いまちづくりを目指す点が大きく異なります。人口維持だけを目標とするのではなく、住民一人ひとりの暮らしの質を高めることに重点が置かれています。
Q2: 地方創生の交付金はどのような事業に使えますか?
地方創生の交付金は、地域の雇用創出、移住促進、産業振興、まちづくりなど幅広い分野で活用できます。ただし、自治体が策定する総合戦略に基づいた事業であることが条件となります。
Q3: 小さな自治体でもDXは可能ですか?
可能です。大規模なシステム導入ではなく、リモートワーク環境の整備やオンライン窓口サービスなど、地域の実情に合わせた小さな取り組みから始めることができます。国や都道府県の支援制度も活用できます。
Q4: 地域自主組織を作るにはどうすればいいですか?
まずは地域住民同士で課題を共有し、解決に向けた話し合いを重ねることから始まります。自治体の担当部署に相談すれば、先進事例の紹介や財政支援制度の案内を受けられます。
Q5: 移住者を増やすために最も効果的な施策は何ですか?
移住相談窓口の設置、住宅支援、就業支援といった基本的な支援に加え、移住後の地域コミュニティへの受け入れ体制づくりが重要です。移住者が地域に馴染み、定着できる環境を整えることが長期的な成果につながります。
まとめ

地方創生は人口減少や地域経済の衰退という構造的課題に対し、国と自治体、民間、住民が協力して取り組む重要な政策です。2025年に示された地方創生2.0では、人口減少を前提に質の高いまちづくりを目指す方向へと転換しました。住民主体の取り組み、地方DXの推進、官民連携による再開発など、各地で創意工夫に満ちた解決策が生まれています。これらの実践例を参考に、それぞれの地域が自らの強みを活かした取り組みを進めることが、持続可能な地域社会の実現につながります。