環境問題への関心の高まりとともに、植物由来の代替肉を使ったバーガーが注目を集めています。大豆などの原料から作られる代替肉バーガーは、本物の肉に近い食感と風味を実現しながら、環境負荷を大幅に削減できる食品として期待されています。日本市場では大手バーガーチェーンが相次いで商品化し、消費者の選択肢として定着しつつあります。
興味深いことに、明治大学の研究チームによる最新の調査では、代替肉バーガーの購買動機として「健康」よりも「満腹感」の方が高い魅力を持つことが実証されました。この発見は、エシカル商品のマーケティング戦略に新たな視点をもたらしています。本記事では、代替肉バーガーの市場規模、主要商品、健康・環境面のメリット、そして消費者心理に基づいた効果的な訴求方法まで、包括的に解説していきます。
代替肉バーガー市場の現状と成長予測

日本における代替肉バーガー市場は、環境意識の高まりと健康志向の両面から急速な成長を遂げています。植物由来の肉代替食品は、従来のニッチ市場から主流市場へと移行しつつあり、大手外食チェーンから専門店まで幅広い事業者が参入しています。市場の拡大背景には、畜産業による環境負荷への懸念、動物福祉への配慮、そして食の多様化というグローバルなトレンドがあります。
国内市場では、若年層を中心にフレキシタリアン(柔軟な菜食主義者)と呼ばれる消費者層が増加しており、完全な菜食主義ではなくとも、意識的に植物性食品を選ぶ傾向が強まっています。この消費者行動の変化が、代替肉バーガー市場の持続的な成長を支えています。
日本市場の規模と成長率
日本の植物由来肉市場は2024年時点で約9億8000万米ドル規模に達しており、2033年までに54億4800万米ドルへと拡大する見込みです。これは年平均成長率21%という驚異的なペースであり、食品業界全体と比較しても際立った成長性を示しています。
過去のデータを見ると、2016年には約130億円だった市場規模が、2022年には230億円へと拡大しました。わずか6年間で約1.8倍に成長したことになります。この成長トレンドは今後も継続すると予測されており、2030年代前半には現在の5倍以上の市場規模に達する可能性があります。
市場拡大の牽引役として、ネクストミーツ社のような国内スタートアップ企業の活躍が目立ちます。同社は2024年から2025年にかけて累計30トンの代替肉製品を販売し、国内外の飲食店や小売店での普及を加速させています。このような実績は、代替肉が一時的なブームではなく、持続的な市場として確立されつつあることを示しています。
製品セグメント別の動向
代替肉市場において、バーガーパティセグメントが最大のシェアを占めています。これはハンバーガーという食品形態が世界中で親しまれており、代替肉の導入障壁が比較的低いためです。消費者にとって、普段食べ慣れたハンバーガーの形式で代替肉を試すことができるため、心理的な抵抗感が少ないという利点があります。
バーガーパティに次いで、ストリップ(細切れ肉タイプ)やナゲットといった加工品セグメントも急成長しています。これらの製品は調理の手軽さから家庭での利用が増えており、外食だけでなく内食市場でも代替肉の普及が進んでいます。
製品開発の面では、味と食感の改良が継続的に行われています。初期の代替肉製品は「肉に似せた何か」という印象が強かったのに対し、最新世代の製品は本物の肉との区別が難しいレベルまで到達しています。技術革新により、ジューシーさや肉らしい繊維感の再現度が格段に向上しました。
日本で展開される主要な代替肉バーガー商品

日本市場では、大手バーガーチェーンから専門店まで、多様な代替肉バーガーが展開されています。各社は独自の商品コンセプトと製法により、差別化を図っています。消費者の選択肢が広がることで、代替肉バーガーの認知度と受容性が高まっています。
各チェーンの取り組みには特徴があり、環境貢献を前面に出すブランドもあれば、味の追求に注力するブランドもあります。共通しているのは、代替肉を「妥協の選択」ではなく、「積極的に選びたくなる商品」として位置づけている点です。
主要チェーンの代表商品
フレッシュネスバーガーの「THE GOOD BURGER」は、大豆パティを使用した代替肉バーガーで、通常のビーフパティへの無料変更が可能という柔軟性を持たせています。同社は環境貢献をアピールポイントとし、1個のバーガーで温室効果ガスを大幅削減できることを消費者に伝えています。
モスバーガーは「グリーンバーガー」というブランドで、ソイパティと野菜を中心とした商品を展開しています。同社は2015年からソイシリーズを開始しており、代替肉バーガー市場の先駆者の一つです。長年の商品改良により、大豆特有の風味を抑えつつ、肉らしい食べ応えを実現しています。
バーガーキングの「プラントベースワッパー」は、大豆パティを使用しながら本物の肉に極めて近い再現度を誇ります。同社のグローバルネットワークを活かした製品開発により、国際水準の品質を日本市場に提供しています。
ロッテリアは「ソイ野菜バーガー」を2019年からレギュラーメニュー化し、代替肉バーガーの定番商品として定着させています。手頃な価格設定により、幅広い消費者層へのアプローチを実現しています。
専門メーカーの取り組み
ネクストミーツは「NEXTバーガー4.0」という100%植物性のパティを開発し、飲食店向けとEC向けの両方で販売しています。同社の製品は世界50か国以上で展開されており、日本発の代替肉ブランドとして国際的な評価を得ています。
技術面では、ヘム鉄の添加による肉らしい色合いの再現や、メチルセルロースを使った結着性の向上など、科学的なアプローチで肉の特性を模倣しています。これらの技術革新により、調理時の扱いやすさと食感の両立が可能になりました。
興味深いことに、明治大学商学部の加藤拓巳准教授らによる研究では、代替肉バーガーの購買魅力は健康訴求よりもボリューム感の訴求の方が高いことが実証されています。これは従来のマーケティング戦略に一石を投じる発見であり、今後の商品開発に影響を与える可能性があります。
代替肉バーガーがもたらす健康面のメリット

代替肉バーガーは、環境面だけでなく健康面でも多くのメリットを提供します。植物由来の原料を使用することで、動物性食品特有の健康リスクを回避しながら、必要な栄養素を摂取できます。特にコレステロールや飽和脂肪酸の摂取を抑えたい人にとって、有効な選択肢となっています。
ただし、健康メリットを最大化するには、バーガー全体の栄養バランスを考慮することが重要です。パティだけでなく、バンズや付け合わせの野菜、ソースの選択も健康効果に影響します。
栄養成分の特徴
代替肉バーガーの最大の健康メリットは、コレステロールがゼロである点です。動物性の肉には必ずコレステロールが含まれますが、植物由来の代替肉にはコレステロールが一切含まれません。これは心血管疾患のリスク低減に寄与します。
タンパク質含有量は製品によって異なりますが、一般的な代替肉バーガーパティには約17グラムのタンパク質が含まれています。これは通常のビーフパティと同等か、それ以上の量です。筋肉の維持や成長に必要なタンパク質を、動物性脂肪の摂取を抑えながら確保できます。
カロリーと脂質については、代替肉の方が低い傾向にあります。低脂肪・低カロリーでありながら満腹感を提供できる点が、代替肉バーガーの大きな強みです。この特性は、体重管理を意識する消費者にとって魅力的な要素となります。
食物繊維も重要な栄養素です。植物由来の代替肉には食物繊維が豊富に含まれており、腸内環境の改善に貢献します。動物性の肉には食物繊維が含まれないため、これは代替肉特有のメリットといえます。
栄養価を高める食べ方
代替肉バーガーの栄養価をさらに高めるには、ビタミンB群や鉄分が豊富な食材との組み合わせが推奨されます。例えば、ほうれん草やケール、トマトなどの野菜を豊富に加えることで、ビタミンやミネラルのバランスが向上します。
全粒粉のバンズを選ぶことで、精製された白いバンズよりも多くの食物繊維とビタミンを摂取できます。アボカドを加えれば、良質な不飽和脂肪酸とビタミンEを補給できます。
ソースの選択も重要です。マヨネーズやチーズソースは高カロリーになりがちなので、トマトベースのソースやマスタード、植物性ヨーグルトベースのソースを選ぶと、カロリーを抑えながら風味を楽しめます。
付け合わせには、フライドポテトではなくサラダや焼き野菜を選ぶことで、食事全体の栄養バランスが大きく改善されます。飲み物も炭酸飲料ではなく水やお茶を選べば、余分な糖分の摂取を避けられます。
代替肉バーガーが環境に与える好影響

代替肉バーガーの最も重要な価値の一つは、環境負荷の大幅な削減です。畜産業は温室効果ガスの主要な排出源の一つであり、気候変動対策において食の選択が重要な役割を果たします。代替肉への移行は、個人レベルでできる最も効果的な環境アクションの一つとされています。
環境面でのメリットは、温室効果ガスの削減だけにとどまりません。水資源の節約、土地利用の効率化、森林伐採の抑制など、多面的な環境保全効果が確認されています。
具体的な環境削減効果
代替肉バーガー1個を選択することで、牛肉バーガーと比較して温室効果ガスの排出量を約90%削減できます。牛などの反芻動物は消化過程でメタンガスを大量に放出します。メタンは二酸化炭素の約25倍の温室効果を持つため、畜産業の気候への影響は非常に大きいのです。
具体的には、牛1頭から1日あたり250リットルから500リットルものメタンガスが放出されます。世界の温室効果ガス総排出量の約5%を、家畜などの反芻動物のげっぷが占めているという状況です。代替肉への移行により、この排出量を劇的に削減できます。
水資源の節約効果も顕著です。代替肉バーガー1個の生産には、牛肉バーガーと比較して約1724リットル少ない水しか使用しません。これは浴槽約8.5杯分に相当します。水不足が深刻化する現代において、この削減効果は極めて重要です。
森林伐採の抑制効果については、牛肉生産と比較して約93%の削減が可能です。畜産業のための牧草地確保や飼料作物の栽培が、熱帯雨林をはじめとする森林破壊の主要因となっています。代替肉の普及により、この環境破壊を大幅に抑制できます。
ライフサイクル評価による検証
Beyond Meat社のライフサイクル評価(LCA)では、代替肉バーガーの環境負荷が牛肉バーガーと比較して極めて小さいことが科学的に検証されています。土地利用は97%少なく、水消費も97%少ないという結果が得られました。
この評価は、原料の生産から製品の製造、流通、消費、廃棄に至るまでの全プロセスを対象としています。したがって、一部の工程だけを切り取った比較ではなく、製品のライフサイクル全体での環境負荷を総合的に評価したものです。
エネルギー消費についても、代替肉の方が効率的です。植物を直接人間が食べる方が、植物を家畜に食べさせてから肉を得るよりも、エネルギー変換効率が圧倒的に高いためです。一般的に、動物性タンパク質の生産には植物性タンパク質の約10倍のエネルギーが必要とされます。
消費者心理を捉えた効果的なマーケティング戦略

代替肉バーガーの普及には、環境や健康といった社会的価値だけでなく、消費者の本音に寄り添ったマーケティング戦略が不可欠です。明治大学商学部の加藤拓巳准教授らの研究チームは、日本市場における代替肉バーガーの効果的な訴求方法を科学的に実証しました。この研究は、エシカル消費の推進において重要な示唆を与えています。
研究では、従来重視されてきた健康訴求よりも、満腹感という価値の方が消費者の購買意欲を高めることが明らかになりました。これは「よだれの戦い」という表現で象徴される、食品本来の魅力を正面から訴求することの重要性を示しています。
ランダム化比較試験による実証研究
研究チームは、日本の20代から60代の1000人を対象に、ランダム化比較試験(RCT)を実施しました。RCTは医学や社会科学において最も信頼性の高い研究手法とされており、交絡因子の影響を排除して純粋な効果を測定できます。
実験では、参加者を5つのグループに分けました。統制群(Group 1)、利他的動機として環境配慮(Group 2)と動物福祉(Group 3)、利己的動機として健康(Group 4)と満腹感(Group 5)です。各グループには200人が割り当てられ、それぞれ異なる商品コンセプトを提示されました。
結果は明確でした。魅力を感じた人の割合は、統制群が22.5%、利他的動機(環境配慮と動物福祉の平均)が24.5%、利己的動機(健康と満腹感の平均)が31.5%となりました。統制群と利己的動機の間には統計的に有意な差が確認されました。
さらに詳細に見ると、満腹感を訴求したグループでは35.0%が魅力を感じており、これは統制群と比較して統計的に有意な差がある唯一の商品コンセプトでした。健康を訴求したグループは28.0%で、統制群との有意差は検出されませんでした。
「よだれの戦い」の重要性
この研究結果は、エシカル商品のマーケティングにおける重要な洞察を提供します。消費者は調査環境では社会的に望ましい回答をする傾向がありますが、実際の購買行動では自分の欲求に忠実に行動します。これを「社会的望ましさバイアス」と呼びます。
ハンバーガーという食品カテゴリーにおいて、消費者が本当に求めているのは「お腹いっぱい食べたい」という欲求の充足です。フライドポテトや炭酸飲料と一緒に食べることが多いハンバーガーは、そもそも健康的な食事として認識されていません。その価値は満腹感にあります。
代替肉の特徴である低カロリー・低脂肪という点は、健康訴求だけでなく「たくさん食べられる」という満腹感の訴求にも活用できます。これは腹八分目を推奨する健康的な食生活とは正反対のメッセージですが、バーガーショップでの食事体験という文脈では、こちらの方が消費者の本音に響くのです。
研究チームは「エシカル消費の普及には『よだれの戦い』から逃げてはならない」と結論づけています。環境配慮や健康といった理性的な価値だけでなく、食欲という本能的な欲求に訴えかけることが、代替肉バーガーの普及には不可欠だということです。
家庭で作れる代替肉バーガーの基本レシピ

外食だけでなく、家庭でも代替肉バーガーを楽しむことができます。基本的な材料と調理法を理解すれば、自分好みのカスタマイズも可能です。手作りすることで、添加物を控えたり、栄養バランスを調整したりできる利点があります。
家庭での調理は、代替肉の製造プロセスを理解する良い機会にもなります。市販品の品質や価格設定への理解が深まり、より賢い消費選択ができるようになります。
基本的な材料と作り方
代替肉パティの基本材料は、TVP(組織化植物性タンパク質)です。大豆を加工したTVP約50グラムを温水で戻すことから始めます。戻した大豆タンパクは、水気をよく切っておきます。
風味付けには、ココナッツオイル、栄養酵母、ヘム鉄などを使用します。ココナッツオイルは加熱時のジューシーさを生み出し、栄養酵母はうまみとコクを加えます。ヘム鉄は肉らしい色合いと風味を再現するために重要な役割を果たします。
着色にはビーツが効果的です。ビーツの赤い色素が、肉らしい色合いを自然に再現します。細かく刻んだビーツやビーツパウダーを混ぜ込むことで、視覚的にも本物の肉に近づけることができます。
結着剤としてメチルセルロースを使用します。これにより、パティがまとまりやすくなり、焼いたときの食感も向上します。メチルセルロースは植物由来の食物繊維であり、健康面での懸念はありません。
これらの材料をボウルで混ぜ合わせ、パティの形に成形します。フライパンで両面を焼き、表面に焼き色をつけます。全体の調理時間は約25分で、3個分のパティを作ることができます。
トッピングとアレンジ
バンズには、新鮮なレタス、スライスしたトマト、アボカドなどを添えます。これらの野菜が、パティの味わいを引き立てるとともに、栄養バランスを向上させます。
ソースは好みに応じて選べますが、植物性のマヨネーズやマスタード、ケチャップ、バーベキューソースなどが相性良くマッチします。自家製のソースを作れば、塩分や糖分を自分でコントロールできます。
玉ねぎはスライスして生で使うか、軽く炒めてキャラメリゼすることで、甘みとコクを加えられます。ピクルスを添えれば、酸味がアクセントになり、全体の味のバランスが良くなります。
チーズを加える場合は、植物性のチーズを選ぶことで、完全にプラントベースのバーガーとして楽しめます。最近では、本物のチーズに近い味わいの植物性チーズも増えており、選択肢が広がっています。
まとめ
代替肉バーガーは、環境負荷を大幅に削減しながら健康面でもメリットを提供する食品として、日本市場で急成長しています。2024年に約9億8000万米ドル規模の市場は、2033年までに54億4800万米ドルへと拡大する見込みです。明治大学の研究では、健康訴求よりも満腹感の訴求が購買意欲を高めることが実証され、「よだれの戦い」に正面から取り組む重要性が示されました。大手チェーンの商品展開や家庭での調理も広がり、代替肉バーガーは持続可能な食の選択肢として定着しつつあります。