過熱蒸煎機とは?食品ロス削減と高付加価値化を実現する革新的乾燥技術

食品業界では今、廃棄されるはずだった野菜の端材や規格外品が、高品質な食品パウダーとして生まれ変わる動きが広がっています。その中心にあるのが「過熱蒸煎機」という装置です。わずか数秒で乾燥と殺菌を完了させるこの技術は、従来の熱風乾燥では12時間以上かかっていた工程を劇的に短縮します。しかも、短時間処理だからこそ、食材本来の香りや栄養価を損なわずに加工できるという特長があります。

年間約462万トンにのぼる日本の食品ロス問題に対して、製造・加工段階で発生する「かくれフードロス」はさらに深刻で、推定2,000万トン以上とされています。過熱蒸煎機は、これまでコストの問題から有効活用が難しかった食品残渣を、付加価値の高い原料へと転換する可能性を秘めています。吉野家ホールディングスや株式会社健食といった大手企業が相次いで導入を決定し、実際にビジネスとして成立させている事例も出てきました。

本記事では、過熱蒸煎機の技術的な仕組みから、従来の乾燥方式との違い、実際の導入事例、そしてビジネス活用の可能性まで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。食品製造に携わる方はもちろん、環境問題やフードテック分野に関心のある方にとっても、有益な情報となるはずです。

過熱蒸煎機の基本技術と仕組み

過熱蒸煎機の基本技術と仕組み

過熱蒸煎機は、300〜500℃程度の過熱水蒸気を使って食品を処理する装置です。この章では、過熱水蒸気とは何か、どのような仕組みで食品を加工するのか、そして従来技術とどう違うのかを詳しく見ていきます。過熱蒸煎機を理解する上で最も重要なのは、「過熱水蒸気」という特殊な状態の蒸気を活用している点です。これは単なる熱い蒸気ではなく、水の沸点である100℃を超えてさらに加熱された高温の気体です。通常の蒸気とは異なり、過熱水蒸気は食材に触れても水分を与えず、むしろ水分を奪い取る性質を持っています。この特性を利用することで、乾燥と殺菌を同時に行いながら、食材の酸化を防ぐことができるのです。

過熱水蒸気とは何か

過熱水蒸気は、水蒸気をさらに加熱して100℃以上の高温にした気体のことを指します。私たちが日常的に目にする蒸気は飽和蒸気と呼ばれ、水分を多く含んでいますが、過熱水蒸気は水分をほとんど含まない乾いた状態です。この乾いた高温蒸気が食材に触れると、食材表面の水分を瞬時に蒸発させる作用が働きます。

過熱水蒸気の最大の特徴は、酸素をほとんど含まない環境を作り出せる点にあります。通常の熱風乾燥では空気中の酸素によって食材が酸化し、色や風味が劣化してしまいますが、過熱水蒸気による処理では酸素が少ない環境で加熱されるため、酸化が抑制されます。これにより、ビタミン類やポリフェノールといった酸化しやすい栄養素を守りながら乾燥処理ができるのです。

温度が300〜500℃と非常に高いため、食材表面に付着している細菌やカビなどの微生物も瞬時に死滅させることができます。この高温と酸素の少なさという二つの要素が組み合わさることで、乾燥・殺菌・酸化防止という三つの効果を一度に実現できる技術となっています。

ボイラーレス過熱水蒸気発生装置の独自性

従来、過熱水蒸気を作るにはボイラーで水を沸騰させ、その蒸気をさらに加熱する必要がありました。しかし、ボイラーの設置と運用には多額のコストがかかり、エネルギー効率も決して高くありませんでした。ASTRA FOOD PLAN株式会社が開発した過熱蒸煎機は、常温の水から直接、過熱水蒸気を瞬時に生成できる独自の発生装置を搭載しています。

このボイラーレス技術により、装置の初期投資コストが抑えられるだけでなく、運転時のエネルギーコストも大幅に削減できます。さらに、熱風との併用により、過熱水蒸気だけでは処理しきれない部分を補完する設計となっており、エネルギー効率が極めて高い乾燥・殺菌システムを実現しています。

装置内では、高温スチームと熱風が最適なバランスで食材に作用するよう設計されており、5〜10秒程度という短時間で処理が完了します。連続式の生産ラインに組み込めるため、大量の食品残渣を効率よく処理できる点も、実用性の高さにつながっています。

わずか5〜10秒で完了する高速処理

過熱蒸煎機の最大の特長は、その処理スピードにあります。食材が装置内を通過する時間は、わずか5〜10秒程度です。この短時間処理こそが、食材の品質を守る鍵となっています。熱による劣化は加熱時間に比例して進むため、加熱時間を極限まで短くすることで、香り成分や栄養素の損失を最小限に抑えることができるのです。

短時間でも十分な殺菌効果が得られるのは、300〜500℃という高温の過熱水蒸気が食材表面に直接作用するためです。一般的な食中毒菌の多くは75℃以上で1分間加熱すれば死滅するとされていますが、過熱蒸煎機ではそれをはるかに上回る温度で瞬時に処理します。表面水分が急速に除去されることで、微生物が生存できない環境が一気に作り出されます。

この高速処理により、食材内部まで熱が伝わりすぎることなく、表面だけを効率よく乾燥・殺菌できます。そのため、食材本来の色や香り、食感を保ちやすく、場合によっては旨味成分が濃縮されて増加することさえあります。従来の乾燥方式では実現できなかった「スピードと品質の両立」が、過熱蒸煎機の核心的な価値となっています。

従来の熱風乾燥との決定的な違い

従来の熱風乾燥との決定的な違い

食品の乾燥技術は古くから存在しますが、過熱蒸煎機と従来の熱風乾燥では、加工プロセスも得られる品質も大きく異なります。この章では、両者の違いを具体的に比較しながら、過熱蒸煎機がなぜ食品業界で注目されているのかを明らかにしていきます。熱風乾燥は、高温の空気を食材に当てて水分を蒸発させる方式で、天日干しの延長線上にある伝統的な技術です。一方、過熱蒸煎機は過熱水蒸気という特殊な媒体を使う点で、根本的に異なるアプローチを取っています。この違いが、処理時間や品質、コストに大きな影響を与えるのです。

処理時間の圧倒的な短縮

熱風乾燥では、食材の種類や厚さにもよりますが、完全に乾燥させるまでに12〜24時間かかるケースも珍しくありません。これは、熱風による加熱が比較的穏やかで、食材内部の水分が徐々に表面へと移動して蒸発していくプロセスだからです。乾燥途中で食材の温度が下がらないよう、長時間にわたって一定の温度を維持する必要があります。

対して過熱蒸煎機は、前述の通り5〜10秒で乾燥処理を完了させます。この処理時間の差は、単なる効率性の問題にとどまりません。長時間加熱では、その間ずっと食材が熱にさらされることになり、香り成分の揮発や栄養素の分解が進んでしまいます。短時間処理であれば、そうした劣化を最小限に抑えられるのです。

生産効率の面でも、処理時間の短縮は大きなメリットをもたらします。1日に処理できる食材の量が圧倒的に増えるため、食品工場で毎日発生する大量の端材を迅速に処理できます。株式会社健食の事例では、1日約3トンという大量の野菜端材をアップサイクルする計画が進められており、高速処理だからこそ実現可能な規模といえます。

香り・色・栄養価の保持

熱風乾燥では、長時間にわたる加熱により、食材の香り成分が徐々に失われていきます。野菜や果物の香りは揮発性の化合物によるものが多く、熱を加えるほどに空気中へと逃げてしまうのです。また、ビタミンCやビタミンB群などの熱に弱い栄養素も、長時間加熱によって分解されやすくなります。

過熱蒸煎機による処理では、加熱時間が短いため香り成分の損失が少なく、食材本来の風味を保ちやすい特徴があります。実際に、過熱蒸煎機で処理した食材は、熱風乾燥品と比較してビタミンEやβ-カロテン、葉酸などの栄養価が高く残ることが報告されています。これは、酸化が抑制された環境で短時間処理されることの効果と考えられます。

色の保持も重要なポイントです。野菜の鮮やかな緑色や赤色は、クロロフィルやカロテノイドといった色素成分によるものですが、これらは酸化や熱によって褐変してしまいます。過熱蒸煎機では酸素の少ない環境で処理されるため、色素の劣化が抑えられ、鮮やかな色を保ちやすいのです。乾燥後の製品が美しい色を保っていることは、食品としての商品価値を高める上で欠かせない要素となります。

旨味成分の増加現象

過熱蒸煎機で処理した食材では、場合によって旨味成分が増加することが確認されています。これは一見不思議に思えるかもしれませんが、科学的に説明できる現象です。食材中に含まれるタンパク質やアミノ酸が、高温短時間処理によって適度に変性・濃縮されることで、旨味として感じられる成分が増えると考えられています。

野菜の端材を過熱蒸煎機で処理した「ぐるりこ」という食品パウダーは、風味が非常に強いという特徴があります。これは、素材本来の香りが保たれているだけでなく、成分が濃縮されることで味わいが深まった結果といえます。実際に、キャベツや玉ねぎといった野菜の端材から作られたパウダーは、だし素材としての活用も期待されており、ベジタリアンやヴィーガン向けの調味料開発にもつながっています。

この旨味成分の増加は、単なる副次的な効果ではなく、過熱蒸煎機で処理した食材の付加価値を高める重要な要素です。廃棄予定だった端材が、風味豊かな高付加価値原料に生まれ変わることで、新たな商品開発の可能性が広がります。食品メーカーにとっては、原料コストを抑えながら特徴的な製品を作れるメリットがあり、消費者にとっても栄養価が高く風味豊かな製品を手に入れられる利点があります。

フードロス削減への貢献と「かくれフードロス」問題

フードロス削減への貢献と「かくれフードロス」問題

日本では年間約462万トンの食品ロスが発生していますが、これは家庭や店舗で捨てられる食品だけを指しています。実は、食品の製造・加工段階で発生する「かくれフードロス」は、さらに膨大な量に上ります。この章では、過熱蒸煎機が食品残渣の問題にどう取り組んでいるのか、そして循環型社会の実現にどう貢献できるのかを解説します。かくれフードロスは推定で年間2,000万トン以上とされ、一般的な食品ロスの4倍以上の規模です。野菜の外葉や芯、果物の皮や搾りかすなど、まだ食べられるはずの部分が産業廃棄物として処理されているのが現状です。

かくれフードロスとは何か

かくれフードロスとは、食品の製造や加工の過程で発生する端材や規格外品のことを指します。これらは見た目が悪い、サイズが不揃い、あるいは加工時に必然的に発生する部位であるといった理由で、商品として流通することなく廃棄されてしまいます。消費者の目に触れることがないため、問題の深刻さが認識されにくいという特徴があります。

たとえば、カット野菜を製造する際には、キャベツの外葉や芯、玉ねぎの皮や根元部分などが大量に発生します。これらは栄養価が高く、十分に食用可能な部分ですが、見た目や保存性の問題から商品に含めることができません。株式会社健食では、カット野菜の製造過程で1日約3トンもの野菜端材が発生しており、これまでは主に産業廃棄物として処理していました。

廃棄コストも無視できない問題です。食品残渣を産業廃棄物として処理するには、収集・運搬・処分の費用がかかります。さらに、野菜の価格が高騰した際には、原料コストが上がる一方で端材の発生量は変わらないため、利益率が圧迫される構造的な課題も抱えていました。過熱蒸煎機の導入は、こうした経済的な課題にも対応できる解決策となっています。

野菜端材の高付加価値化

過熱蒸煎機を使えば、これまで廃棄されていた野菜の端材を「ぐるりこ」という高付加価値な食品パウダーに転換できます。ぐるりこは、循環を意味する「ぐるり」と粉の「こ」を組み合わせた造語で、ASTRA FOOD PLANの商標です。短時間処理により栄養価と風味が保たれたこのパウダーは、調味料や食品原料としてさまざまな用途に活用できます。

キャベツぐるりこ、玉ねぎぐるりこ、にんじんぐるりこなど、野菜ごとに特徴的な風味を持った製品が生まれます。これらは単なる「廃材の再利用品」ではなく、素材本来の香りや栄養価が際立つ高品質な原料として評価されています。料理に少量加えるだけで野菜の風味が深まるため、家庭用の調味料としても、食品メーカーの原料としても需要が見込まれます。

ベジタリアンやヴィーガン向けの食品開発においても、ぐるりこは有望な素材です。動物性の出汁を使わずに深い旨味を出すのは難しい課題でしたが、野菜の端材から作られたパウダーは、植物性でありながら豊かな風味を持っています。株式会社健食では、宇都宮という地域特性を活かし、餃子の原料としてぐるりこを活用する提案も進めており、地域食文化との結びつきも期待されています。

複数品目の同時処理を実現した健食の事例

従来、過熱蒸煎機は1台につき1品目を処理する運用が中心でした。吉野家ホールディングスでは玉ねぎ端材のアップサイクルに特化した形で導入されており、間約250トンの玉ねぎ端材を処理する計画が進められています。しかし、株式会社健食の導入事例は、この点で画期的な取り組みとなっています。

健食では、キャベツ、玉ねぎ、にんじん、ごぼう、大根など、複数の野菜端材を同一の過熱蒸煎機でアップサイクルする体制を構築しました。これが実現できたのは、過熱蒸煎機が水洗いで簡単に洗浄できる設計になっているためです。品目が変わるたびに装置を洗浄すれば、前の食材の風味や成分が混ざることなく、日々異なる品目を効率よく処理できます。

この柔軟な運用体制により、工場で発生する多様な端材をすべてアップサイクルできる可能性が広がりました。野菜の種類は季節や仕入れ状況によって変動しますが、1台の装置で対応できれば設備投資を抑えられ、スペースの有効活用にもつながります。カット野菜工場のように多品目を扱う現場では、この柔軟性が大きな強みとなっています。

実際の導入事例と新たなビジネスモデル

実際の導入事例と新たなビジネスモデル

過熱蒸煎機は、理論上の技術にとどまらず、実際のビジネスとして成立している事例が増えています。この章では、吉野家ホールディングスと株式会社健食という二つの代表的な導入事例を取り上げ、それぞれがどのようなビジネスモデルで過熱蒸煎機を活用しているのかを見ていきます。装置の導入方式も、レンタルモデルから売り切りモデルまで多様化しており、企業の状況に応じた選択が可能になっています。

吉野家ホールディングスのレンタル&買い取りモデル

吉野家ホールディングスでは、セントラル工場に過熱蒸煎機を本格導入し、年間約250トンの玉ねぎ端材の「かくれフードロス」ゼロを目指す取り組みを進めています。この導入では、「過熱蒸煎機レンタル&ぐるりこ買い取りモデル」という独自のビジネススキームが採用されました。

このモデルでは、ASTRA FOOD PLANが装置をレンタルで提供し、そこで生産されたぐるりこ(玉ねぎパウダー)を買い取る形をとります。吉野家側は装置の初期投資コストを抑えられ、生産したパウダーは確実に販路が確保されるというメリットがあります。ASTRA FOOD PLAN側は、装置の販売だけでなく原料の調達ルートを確保でき、さらに得られた原料を他の食品メーカーへ供給することで継続的なビジネスを展開できます。

このモデルは、装置導入に慎重な企業にとってリスクを低減できる仕組みといえます。レンタル期間中に実際の運用効果を検証し、ビジネスとして成立することが確認できれば、その後の本格展開へとつなげやすくなります。吉野家の事例は、大手外食チェーンがフードロス削減に本気で取り組む姿勢を示すものとして、業界内でも注目を集めています。

健食の売り切りモデルと継続支援体制

株式会社健食では、吉野家とは異なり、過熱蒸煎機の「売り切りモデル(購入)」が採用されました。これは、装置を完全に自社資産として導入し、運用も自社で完結させる形です。健食は長年カット野菜の製造を手がけてきた実績があり、食品加工のノウハウも豊富なため、装置を購入して自社運用する体制を選択したと考えられます。

ただし、装置の販売だけで終わるのではなく、ASTRA FOOD PLANは導入後もサポート体制を強化しています。ぐるりこの用途開発や販路開拓を継続的に支援することで、単なる設備メーカーにとどまらず、パートナーとして顧客企業の成功を後押しする関係性を築いています。これにより、アップサイクル原料の実用化が加速され、新商品開発のスピードも上がることが期待されます。

健食では今後、キャベツぐるりこをはじめとした複数品目のパウダーを活用した新商品開発を実施予定です。ベジタリアン・ヴィーガン向けの食品原料としての展開や、宇都宮の名物である餃子の原料としての活用など、地域性を活かした商品戦略も視野に入れています。装置を自社所有することで、こうした柔軟な商品開発が可能になるのです。

サステナビリティ戦略との親和性

過熱蒸煎機の導入は、単なるコスト削減や効率化だけでなく、企業のサステナビリティ戦略やESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みとしても位置づけられます。食品ロス削減は国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「つくる責任つかう責任」に直結するテーマであり、企業の社会的責任を示す指標としても重要視されています。

株式会社健食の取締役である野口知江子氏は、「野菜を通して健康寿命を応援する」という経営姿勢を体現するプロジェクトとして、過熱蒸煎機の導入を位置づけています。単なる副産物利用ではなく、資源循環型社会の実現、環境負荷低減、地域農産物の付加価値向上を見据えた持続可能な食品ビジネスへのシフトとして捉えられているのです。

金融機関や自治体との連携も進んでおり、ASTRA FOOD PLANはフードロス削減に取り組む企業への支援プログラムなどにも参加しています。こうした外部との協力関係は、過熱蒸煎機を導入する企業にとっても、資金調達や地域連携の面でメリットをもたらします。サステナビリティを重視する投資家や消費者からの評価も高まり、企業ブランドの向上にもつながっていくでしょう。

今後の展望と食品業界への影響

今後の展望と食品業界への影響

過熱蒸煎機の普及は、食品業界全体の構造を変える可能性を秘めています。この章では、技術的な進化の方向性、新たな市場の創出、そして食品産業が直面する課題への解決策としての役割について考察します。現在はまだ導入事例が限られていますが、技術の有効性が実証されるにつれて、今後さらに多くの企業が関心を持つことが予想されます。食品製造の現場だけでなく、農業や流通、さらには消費者の意識にまで影響を及ぼす可能性があります。

多様な食品残渣への応用可能性

過熱蒸煎機は野菜の端材だけでなく、果物の搾りかす、米ぬか、飲料残渣など、さまざまな食品残渣に対応できる汎用性を持っています。たとえば、果物ジュースを製造する過程で出る搾りかすには、食物繊維やポリフェノールなどの機能性成分が豊富に含まれています。これまでは動物飼料や堆肥として利用されるケースが多く、人間用の食品原料としての価値は十分に活用されていませんでした。

過熱蒸煎機で処理すれば、こうした搾りかすも高品質な食品パウダーとして再生できます。りんごの搾りかすから作られたパウダーは、ペクチンやポリフェノールを豊富に含み、健康食品やサプリメントの原料として活用できる可能性があります。米ぬかについても、栄養価は高いものの独特の風味や保存性の問題から利用が限られていましたが、過熱蒸煎機で処理することで扱いやすい原料に変わります。

飲料メーカーでは、コーヒーかすや茶殻といった残渣が大量に発生しています。これらにも抗酸化成分や食物繊維が含まれており、適切に処理すれば新たな原料として生まれ変わります。食品業界全体で見れば、まだ手つかずの食品残渣は膨大な量に上り、過熱蒸煎機の応用範囲は非常に広いといえます。

新たな食品原料市場の創出

ぐるりこのような高付加価値パウダーは、従来の食品原料市場にはなかった新しいカテゴリーを形成しつつあります。一般的な乾燥野菜パウダーとは異なり、素材本来の香りと栄養価が際立つ特徴を持つため、プレミアム原料としてのポジションを確立できる可能性があります。

食品メーカーにとっては、差別化された製品を開発するための新たな選択肢が増えることになります。たとえば、野菜の外葉から作られたパウダーは、通常の可食部よりもポリフェノールや食物繊維が豊富に含まれることが多く、機能性を訴求した商品開発に適しています。消費者の健康志向が高まる中で、こうした栄養価の高い原料へのニーズは今後さらに拡大すると考えられます。

2025年2月には、ぐるりこが家庭向けのクラフト調味料としてブランド化され、EC販売がスタートしました。「かおりを食べる新感覚調味料」というコンセプトのもと、一般消費者に向けた市場開拓も始まっています。この動きは、B to B(企業向け)だけでなくB to C(消費者向け)の市場も視野に入れた展開であり、食品残渣から生まれた原料が、消費者に直接届く商品になる可能性を示しています。

循環型フードサイクルの実現に向けて

ASTRA FOOD PLANは、「循環型フードサイクル構築」をミッションに掲げています。これは単に廃棄物を減らすだけでなく、食品が生産・加工・消費される全体の流れを、資源が循環する仕組みに変えていくという構想です。過熱蒸煎機はその中核を担う技術であり、食品残渣を新たな原料として生まれ変わらせることで、廃棄というプロセスを排除し、すべてが価値ある資源として循環する社会を目指しています。

このビジョンを実現するには、装置の普及だけでなく、ぐるりこのような再生原料を積極的に活用する食品メーカーや、その価値を理解して選択する消費者の存在が不可欠です。現在、金融機関や自治体との連携も進められており、フードロス削減に取り組む企業への資金支援や、地域ぐるみでの循環型システム構築に向けた動きも見られます。

食品業界全体で見れば、まだ過熱蒸煎機の導入は始まったばかりです。しかし、吉野家や健食といった先行事例が成功を収めれば、他の企業も追随する可能性が高まります。食品製造業、外食産業、給食事業者など、食品残渣を大量に発生させる業態では、廃棄コスト削減と新たな収益源の確保という二つのメリットを同時に得られるため、導入を検討する価値は十分にあるでしょう。

まとめ

まとめ

過熱蒸煎機は、わずか5〜10秒という短時間で食品の乾燥と殺菌を完了させる革新的な技術です。300〜500℃の過熱水蒸気を使うことで、従来の熱風乾燥では12〜24時間かかっていた工程を劇的に短縮し、しかも食材本来の香りや栄養価を損なわずに加工できます。ビタミンEやβ-カロテン、葉酸などの栄養素が高く残り、場合によっては旨味成分が増加することも確認されています。ボイラーレスの独自技術により、エネルギーコストも抑えられる点が、実用化を後押ししています。

年間2,000万トン以上と推定される「かくれフードロス」の削減に向けて、吉野家ホールディングスや株式会社健食といった企業が相次いで過熱蒸煎機を導入しています。廃棄予定だった野菜の端材が「ぐるりこ」という高付加価値な食品パウダーに生まれ変わり、調味料や食品原料として新たな市場を創出しつつあります。レンタルモデルから売り切りモデルまで、企業の状況に応じた導入方式も整備され、サステナビリティ戦略との親和性も高いことから、今後さらに多くの食品関連企業が関心を持つことが予想されます。過熱蒸煎機は、食品ロス問題という社会課題への技術的解決策であると同時に、循環型フードサイクルを実現する可能性を秘めた革新的な装置として、食品業界の未来を切り拓いていくでしょう。